悪性グリオーマは最も難治な悪性新生物の1つである. 手術+放射線+化学療法を標準治療とするが, 十分な治療効果を期待できるものではない. 特に中枢神経系は血液脳関門に守られることから化学療法の効果が減弱する. テモゾロミドが標準治療薬とされるが, 手術+放射線に比して生存期間中央値を2カ月程度伸ばすに過ぎない. 多くの癌種の治療に大きな変革をもたらした分子標的治療もことごとく失敗しており, 腫瘍の空間的・時間的多様性が注目される. また一方で, 血液脳関門による薬剤の病変到達性の問題が再度フォーカスされている. Precision medicineも大きな期待を集めているが, パネル検査が1度しかできないこと, エキスパートパネルで推奨された治療があった場合も, 大多数の症例で患者申し出医療など試験的な治療に頼らざるを得ない問題点がある. そもそも腫瘍に遺伝子異常があり, それに対する薬剤があったとしても脳腫瘍には効果が薄い可能性も知られている. 悪性グリオーマ治療成績の改善には, ウイルス治療, 中性子捕捉療法, convection-enhanced deliveryなど薬剤投与など, あらゆる新規治療手段を動員する必要があると考える.
2021年に刊行されたWorld Health Organization (WHO) 分類第5版では低悪性度神経膠腫の分類にはIDH変異, 1p/19q共欠失に加えてCDKN2A/Bホモ欠失の有無が必要となった. 長期予後が期待される神経膠腫をより正確に抽出することが可能となる反面, 現在の治療エビデンスは分子分類以前に行われた過去の臨床試験から導き出されている.
本稿においてはWHO分類の変遷をまず解説し, 現在の治療に関係する過去の重要な臨床試験を紹介する. 低悪性度神経膠腫においては, これら臨床試験の結果や個々の治療特性を理解したうえで治療戦略を検討する必要がある.
中枢神経原発悪性リンパ腫 (PCNSL) は非典型的な画像所見も多く, 診断に難渋することも多い. 最近, 髄液バイオマーカーやリキッドバイオプシーによるDNA検査が有用であると報告されており, 生検困難な症例では非常に有用である. 治療は, MTXをベースとした多剤化学療法が導入療法として推奨され, 中でもR-MPV療法 (リツキシマブ, 大量MTX, プロカルバジン, ビンクリスチン) が標準的治療法として確立しつつある. その後の地固め療法には大量Ara-Cを用いることが多い. 高線量の全脳放射線照射 (WBRT) は認知機能低下などの神経毒性の点から, 初発時にはできるだけ使用しないことを考慮すべきである. 再発時は, MTXのリチャレンジが有効であるが, 再発までの期間が短いものは効果が弱いといわれている. 最近開発されたBTK阻害剤は高い奏効率を示すが, 持続性や有害事象など, 解決すべき課題は残されている.
中枢神経胚細胞腫の診断, 治療は時代とともに変遷し世界的にも多様である. 診断では腫瘍マーカーと病理の解釈において日本と欧米で依然溝があり, ノンジャーミノーマの診断を腫瘍マーカー高値だけで行うこと, 病理診断の意義に議論が残る. 治療の枠組みは従来から日本では3分類, 欧米では2分類と異なり, ノンジャーミノーマ, 特に奇形腫やその混合性腫瘍の治療に対する違いがある. 日米欧の臨床試験の解析結果の注意深い解釈を行い, 今後の治療戦略を考える必要がある. また日本iGCTコンソーシアムのマルチオミックス解析によって見えてきた胚細胞腫のきわめてユニークな生物学的特性とその治療応用への道筋, 今後解明されるべき課題について考察する.
破裂前交通動脈瘤44例の脳損傷部位が記憶障害, 注意障害, 複職などの転帰に与える影響を検討した. 記憶障害は88.6%で認め, 復職は50%であった. 前脳基底部の損傷は84.1%で認め, 36.3%は半球間裂血腫によるもの, 47.7%は手術時の穿通枝損傷によるものであった. 前脳基底部損傷により認知障害は重度となり転帰は悪化した. 直回と眼窩回, 尾状核頭の損傷は転帰に影響を与えなかった. 重度記憶障害に対しては前脳基底部損傷, pterional approachが独立した悪化因子であった.
前脳基底部損傷により認知障害は重度となり, 転帰は悪化した.
69歳女性, 3年前より左円蓋部髄膜腫のため外来通院していた. 突然の頭痛を発症し, 翌朝体動困難となり受診. 単純CT検査で左急性硬膜下血腫を認めたが, MRI・造影CT・脳血管造影検査では既存の髄膜腫以外に出血源は指摘できなかった. 開頭血腫除去術と同時に髄膜腫も摘出した際, 近傍に脳表動脈と連続した腫瘤を認め, 併せて摘出した. 病理診断の結果は毛細血管腫で, 間質に新鮮な血腫を認め急性硬膜下血腫の原因と考えられた. 頭蓋内発症の毛細血管腫は非常にまれであるが, 硬膜下血腫を発症した症例はこれまで報告がなく, 造影効果が乏しい点, 血管由来である点など, 非典型的な特徴を示した症例を経験したため報告する.
日常診療に役立つITのうちデータベースの活用とコンピュータウイルス対策についてまとめた. 手術記録などのデータベースとしてFileMaker Proではレイアウトやボタンなどを自由に, 直感的に設定することができ, 日常診療におけるデータ収集作業を円滑にすることができる. 1件のデータが1行で収まり, 統計ソフトへの出力を想定している場合にはMicrosoft Excelを使うなどの使い分けも必要であろう. ウイルス対策としてAvastの活用例を紹介する. 無料で使用可能で, オフラインのコンピュータにも対応している. コンピュータ自体のアップデート機能も有効にしておくとよい. 日常診療に役立てば幸いである.