遺伝子治療の臨床応用は1990年,米国にて始まった.当初は遺伝子欠損による先天性疾患が治療の対象であったが,初期の症例での安全性や有効性が報告されると,その対象疾患が急速に広がり,癌や後天性難治性疾患までもがその対象疾患となった.癌に対する遺伝子治療法として実際に臨床応用されている方法は現在までのところ,癌細胞の異常な遺伝子を正常化する遺伝子修復治療,癌細胞の細胞死や増殖抑制に関する遺伝子を導入する方法,あるいは癌免疫を賦活する遺伝子を導入する遺伝子補充療法などがあげられる.本稿では,臨床応用されたかあるいは臨床治験の申請が出されている遺伝子治療法について概説するとともに,特に脳腫瘍領域での遺伝子治療の臨床応用の概略を呈示し,さらにわれわれが2000年4月より臨床研究を開始している正電荷リポソームを用いた脳腫瘍に対するヒトβ型インターフェロン遺伝子によるサイトカイン遺伝子療法の臨床経験について述べ,また今後の脳腫瘍の遺伝子治療の方向性についても概説した.
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