脳動脈瘤の病態の本質は, 血管壁の菲薄化と脆弱化を伴う退行性変化であり, それを促進する因子は, 先天性因子, 環境因子, 血行力学的因子, 後天性因子に大別される. その中で特に重要なのは, マクロファージを主体とする慢性炎症であるが, 先天的・後天的な血管壁の構造の乱れも重要な因子である. 脳動脈瘤破裂のメカニズムについては, これまでほとんどわかっていなかったが, 破裂モデルの開発により, その一端が解明されつつある. 脳動脈瘤の自然歴に関しては, ISUIAやUCAS Japanの成果により, 脳動脈瘤の大きさ・部位・形状などをもとに, 破裂の危険性を予測するスコアが開発され, 臨床現場で用いられている. 経過中に増大する脳動脈瘤は, 破裂の危険性が高く, 未破裂脳動脈瘤患者には定期的な経過観察が必要である.
未破裂脳動脈瘤診断に伴う治療方針決定の際には破裂高リスク状態の動脈瘤をいかに捉えるかが重要となるが, 動脈瘤の発生から破裂までの経時変化は多岐にわたり予測が難しい. 近年MRIを用いた血管壁イメージング (VWI) が普及し瘤壁造影効果の評価が可能となりその役割に注目が集まっている. VWIにおける瘤壁造影効果は2013年に破裂瘤の, 2014年には破裂リスクを伴う未破裂動脈瘤の特徴として初期の報告がなされ, その後これらを支持する多くの報告があり現在に至っている. VWIは瘤壁の炎症を画像化する新たなmodalityとして動脈瘤診断における有用性が期待されておりさらなるエビデンスの蓄積が求められる.
脳動脈瘤の開頭手術はすでに成熟した状態にある. 大型巨大瘤もバイパス技術があれば対応可能であるし, 傍鞍部においても頭蓋底技術で確実な処置ができる. 血管内治療の適応範囲がデバイスの発展によって広がっている現在, 侵襲的な開頭術が担うべき責務は, 安全性と根治性にある. 単純なクリッピングもclosure lineの追及が求められるし, バイパスもあらゆる場所に対して遂行できる技術が必要である. 前床突起削除, 錐体骨削除, 後頭顆削除も着実に身に着けておく必要がある.
問題は, 開頭手術はlearning curveの立ち上がりが遅い一方で, 開頭術に廻る症例が限定的になる将来, どうやってこれを次世代に伝えていくかにある.
フローダイバーター (FD) 治療の最大の 「功」 は再開通の克服である. 複数の臨床試験で高い根治性が示され, 治療適応は大きく拡がった. 新たなFDも導入され, 抗血栓性ポリマーコーティングされたPipeline Shieldは新たなブレイクスルーとなる可能性を秘めている.
一方, FD治療にはいくつかの 「罪」 も指摘される. 一つはFD留置後の不完全閉塞症例である. 多くの予測因子が報告されており, 高齢者, ドーム起始血管などは治療方針検討の際に重要視している. 周術期の虚血性合併症のみならず脳実質内出血などの予防のために, 抗血小板薬モニタリングはきわめて重要であり, プロトコールの標準化は喫緊の課題である.
頭蓋内解離性脳動脈瘤は, 発生頻度は比較的低いが出血性ならびに虚血性脳卒中の原因となるため脳神経外科医にとって重要な疾患である. 本稿の目的は, 頭蓋内解離性脳動脈瘤の中で最も発生頻度が高い椎骨動脈解離性脳動脈瘤を中心に疫学, 症候, 治療などに関する過去の文献 (本邦よりの報告を中心に) に自験例の結果を交えて報告することである. 本疾患に対する手術方法は現在では脳血管内手術による解離部の閉塞が主流である. しかし術後の延髄梗塞を回避する手段として適応外使用ではあるが, ステントを併用し解離部のみを塞栓する方法も行われている.
外傷性頚部頚動脈解離はまれであり, その発生機序としては鈍的頚動脈損傷の報告が一般的であるが, 鋭的頚部損傷の関与はきわめてまれである.
今回われわれは, 包丁による自殺企図の頚部自刺傷例で, 頚部頚動脈に解離に伴う高度狭窄を認め, 緊急頚動脈内膜剝離術を施行し良好な経過を得た. 頚動脈解離の機序としては, 包丁先端付近の背の部分が頚部刺入時に総頚動脈に鈍的な衝撃を加えるかたちとなり, 直接的血管損傷から解離をきたしたものと推察した.
頚動脈内膜剝離術では直接創部を観察でき解離壁の処置に加えて, 周辺合併損傷への対応や遠位血管内血栓の回収も可能であり, 開放創での外傷性頚動脈解離治療においてきわめて有用であると思われる.
滲出性中耳炎および髄液鼻漏で発症し, 右中頭蓋窩錐体骨部髄膜脳瘤と診断した1例を報告する. 本症例の原因は, 肥満を伴う中年女性で骨欠損部近傍の手術歴や慢性中耳炎, 外傷歴を認めなかったため, 特発性と考えた. 経頭蓋アプローチで側頭筋膜を用いた右錐体骨部髄液漏修復術を施行した. 術後髄液鼻漏は消失したが滲出性中耳炎はいったん軽快し, その後再燃した. 画像診断では筋膜を中耳内に押し出すような仮性髄膜瘤を認めた. 本症例では, 潜在する中頭蓋窩の骨菲薄化あるいは髄膜脳瘤に, 肥満に起因する頭蓋内圧亢進が加わり髄液漏を発症したと推測される. 髄液漏修復には持続的な圧に耐えられるように硬性再建を併用した修復術が必要と考えられた.