未破裂脳動脈瘤の自然歴に関する近年の研究は, 2003年以降5つの前方視的研究が発表され, 大きく前進した. 現在, これらに基づくメタアナリシスやpooled analysis, リスクスコアリングなどデータ引用が頻繁に行われており, 基礎データの流れを整理して理解する必要がある. またおのおのの研究で証明されたリスク因子の相違についても, 正しく記憶しなければならない. UCAS Japanは日本の金字塔であるが, 論文のsupplementary appendixまで読み込むと, さらに理解が深まる.
開頭による脳動脈瘤治療の最大の利点は根治性の高さであるが, 手術にあたってわれわれは合併症回避のためにさまざまな工夫をしている. 手術は動脈瘤や周囲組織の可動性を高め, 動脈瘤を “見に行く” のではなく, “見えてくる” イメージで行う. 治療転帰を左右する主な因子は術中破裂と穿通枝梗塞なので, 非侵襲的MRIで術前に瘤壁の厚さや穿通枝動脈の走行を可視化し, 計画や実際の手術遂行に有用な情報とする. クリッピング不可能な前方循環の病変に対する血行再建法の選択には術前のバルーン閉塞テストのみでなく, 術中の脳表血流量と中大脳動脈圧測定が有用である. 一方, 後方循環の解離病変などに対する開頭手術の効果はいまだ不確実なことが多く, 今後は術中モニタリングやhybrid ORの使用のもと複合的に血行動態の評価を行いながら治療を行うことが必要である.
近年, 瘤内への血液流入阻害と停滞を惹起し動脈瘤を閉塞せしめるflow diverter (FD) が大型巨大脳動脈瘤に対する新しい血管内治療機器として臨床導入された. コイル瘤内塞栓術と比較して明らかに完全閉塞率が高く, かつ再開通率が低いため大きなブレークスルーとして期待されているが神経学的後遺症と神経関連死のリスクも報告されている. FD治療が大型巨大脳動脈瘤における重要な治療オプションとして大きな役割を果たすには, 既存治療法と持続するリスクとの対比を行ったうえでの適切な症例選択が大切である.
未破裂脳動静脈奇形は, 個々の症例で病態が多様であり, 治療方法も複数あるため, 症例ごとの治療リスクが大きく異なる. そのため, 一律に治療方針を決定することは困難である. ARUBA trialの中間解析では, 未破裂AVMをもつ患者の死亡および新規脳卒中を防ぐという目的に対し, 内科的治療は侵襲的治療に優ると報告された. しかし, 主要評価項目である新規の症候性脳卒中に軽微な症状を伴う画像上の変化をすべて含んでいるため, その解釈と実臨床への適用は慎重に行う必要がある. AVMの自然歴に人種差があることから, 内科的治療群を標準治療と設定し, 主要評価項目を長期予後の改善と定義した日本独自の研究が必要である.
くも膜下出血 (SAH) 後に遅発性脳虚血症状 (DCI) が出現した場合, 本邦では症候性脳血管攣縮, いわゆるスパズムと呼称することが多い. しかし, 脳血管攣縮単独では必ずしも症状を伴わないことや, DCIが脳血管攣縮以外の病態でも生じることがよく知られるようになり, 米国脳卒中協会のガイドラインでは症候性脳血管攣縮という用語はすでに使用されなくなった. 臨床では, 脳血管攣縮以外の原因診断は困難なため, 形態学的定義の脳血管攣縮と臨床症状のみを元に定義したDCIを組み合わせて使用する試みが行われている. SAHの予後改善のためには, DCIの病態を理解し, 現在の標準治療への上乗せ効果が期待できる治療法を開発する必要がある.
音楽家ジストニアは, 音楽演奏を職業とする人のおよそ1%に発症し, 発症した半数以上の患者は, ボツリヌス治療や内服治療などの保存的加療を行っても最終的には音楽家としてのキャリアを諦めてしまう. このような難治性音楽家ジストニアに対して, 定位視床腹吻側核凝固術 (ventro-oral thalamotomy : Vo-thalamotomy) を施行することで劇的な症状改善と良好な長期予後を得ることができる. しかし手術には穿頭術が必要なため, 高齢者や抗凝固薬内服など外科的リスクが高い患者に対しては適応が困難な場合がある. ガンマナイフによる視床凝固術は, 難治性振戦に対して有効であると頻繁に報告されているが, 音楽家ジストニアに対して施行した報告は, 以前にわれわれが報告した1例のみである. 本論文はすでに短報にて報告した同1症例における24カ月の長期的な経過を含めた報告である.
原発性脳腫瘍の中で孤立性線維性腫瘍は比較的まれである. 今回, NAB2 exon 6-STAT6 exon 17融合遺伝子の発現を認めた孤立性線維性腫瘍の1例を経験したので報告する. 症例は49歳女性. 2週間前から左後頭部痛, 嘔気を認め受診した. 脳MRIにて, 左後頭葉に多発性の囊胞を伴う40mm大の腫瘍を認めた. 腫瘍と後頭葉の間にくも膜下腔を認め, 術前に髄膜腫疑いで開頭腫瘍摘出術を施行した. 横静脈洞部に浸潤した腫瘍を残し, 亜全摘出とした. 病理学的検討では, 円形から類円形核を有する細胞増殖の間にコラーゲン線維の増生がみられ, 高倍率10視野に1個の核分裂像を認めたが壊死像はなかった. 免疫組織学的検査でSTAT6, CD34が陽性であり孤立性線維性腫瘍と最終診断した.