頚椎頚髄の外科治療成績を担保し向上させるためには, 頚椎のもつ特殊性①体幹を支える支柱の働き, ②脊髄を保護する防具としての役割, ③動脈が骨性構造を断続的に穿通するまれな構造, ④三次元的に自由に動く器官であること, そして⑤加齢とともに刻々と経年変化をきたすこと, の理解が肝要である. 複雑な病態であるほど, 「木を見て森を見ず」 とならぬよう, 全体を見渡しつつ局所に配慮する視点が重要である. 本稿では, 頚椎頚髄手術における解剖学的特殊性に基づいた病態理解の重要性につき, 具体例を紹介し概説する.
腰椎は運動器であり, 骨・椎間板・靱帯・関節などの変性を基にして生じる病態が腰椎変性疾患とされ, 具体的には腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症・腰椎変性側弯/後弯などが挙げられる. 診断には病歴聴取・神経診察・画像診断が重要である. 多くの腰椎変性疾患に対して, 生活指導や内服などの保存的治療は有効である. 症状が急を要する場合や保存的治療が無効の場合には侵襲的治療が選択されるが, 本稿では最近の技術発展を紹介する. 一方, 現在行われている腰椎手術の95%以上は後方法である. 不安定性の高い症例や変形矯正を要する症例では固定術が必要であるが, 術後感染や隣接椎間障害, 医療経済上の問題などあり, 除圧術が見直されている.
脊髄硬膜動静脈瘻は下肢しびれ・歩行障害・膀胱直腸障害など深刻な神経症状を引き起こす. 正しい診断と治療を受けずに時間が経過すると神経症状が悪化し臨床転帰が悪化する. 東京都立神経病院で治療を行った全50例を後方視的に分析した. 臨床症状は, 胸髄症, 円錐上部症候群, 脊髄円錐症候群の混在した像を呈していたにもかかわらず, 40例 (80%) は初診時に誤診された. 胸椎MRIを受けた症例は正しく診断されたが腰椎MRIを受けた症例は誤診された. 腰部脊柱管狭窄症では説明のつかない症状を認めたときには, 脊髄硬膜動静脈瘻を鑑別診断に挙げ, 確定診断のために胸椎MRIが必要である.
神経鞘腫は脊髄腫瘍の中で最も頻度が高く, あらゆる脊椎レベルに発生する. 摘出術により脊髄・神経の圧迫を解除し, 組織型を確認することが治療の基本である. 脊髄神経鞘腫の多くは硬膜内髄外に存在し, 後方アプローチの基本的な手技で摘出可能であるが, 脊髄前面にあるものや大型のもの, ダンベル腫瘍はアプローチ方向・神経根温存・脊椎固定・術後髄液漏予防などにつき十分な術前検討が必要である. 当科での手術戦略を紹介し, 自験例を供覧して神経機能温存と合併症対策について考察する.
成人成長ホルモン分泌不全症 (AGHD) 患者は多様な臨床症状と生活の質 (QOL) の低下を呈し, 健康成人と比較して死亡率は約2倍高い. AGHDの後天的原因の多く (視床下部・下垂体腫瘍, 間脳下垂体領域の外科・放射線治療後など) が脳神経外科に関連するため, 的確な診断および重症患者への成長ホルモン (GH) 補充療法が脳神経外科医に求められる. 本稿ではAGHDを疑うべき臨床状況, GH分泌刺激試験による診断, 術前・術後のGH分泌能評価, GH補充療法の特徴, 治療開始時に患者に説明すべき事項などを概説する. 脳神経外科におけるAGHD治療に対するコンセンサスおよび診療科間連携に関するガイドラインの確立が望まれる.
当センターにおいて手術治療を行った高位腰椎椎間板ヘルニア67例に関して, 臨床症状, 神経症候, 治療法の変遷について後方視的検討を行った. 症状・症候としては鼠径部, 大腿前面部に疼痛・しびれが分布することが多く, 足関節以遠のしびれや下肢腱反射亢進を伴うこともあった. 手術用顕微鏡下の腰椎椎間板ヘルニア摘出術は, L1/2レベルのヘルニアで実施される頻度はかなりまれであったが, L2/3レベルでは約半数はこの術式にて治療されていた. ここ5, 6年で治療法は大きく変化しており, 内視鏡下手術, コンドリアーゼ注入療法は今後の治療の選択肢となり得ることが予想された.
舌咽神経痛はまれな疾患であり, 三叉神経痛と合併した報告はさらに少ないとされる. その主な発症要因として脳幹からの分枝部 (root entry zone : REZ) を正常血管が接触・圧迫しているためと考えられている. また小脳橋角部に囊胞が存在することや, これによって舌咽神経痛が発生する例も非常にまれに存在する. 今回われわれは, 囊胞の増大による舌咽神経痛と血管圧迫による三叉神経痛を同時合併した1例を経験したので報告する.