治療困難な動脈瘤である内頚動脈前壁(背側)動脈瘤(IC dorsal aneurysm:ICDA)の病態と治療法の現状につき,多施設調査の結果を踏まえて検討・報告した.2004年に著者らにより行われた全国調査では,出血発症例における急性期手術成績は,待期後慢性期手術より有意に悪く(p<0.02),死亡率は26%に及ぶ.本態が解離性と推測される症例が36%存在し,それら症例の手術成績は急性期,慢性期ともに非解離性症例における手術生成期より有意に悪い(p<0.01).解離性症例における急性期手術死亡率は36%ときわめて高く,かつ術前に解離-非解離の判別が困難な場合も多いので,有効で安全な治療法の確立が急務である.2008年の頭蓋内動脈解離の多施設研究では,報告された全5例が急性期手術治療を受け,GRが2例あったものの,SD,VおよびDが各1例で,予後不良例が多かった.2009年に施行したICDA治療経験の豊富な12施設の調査では,25例が急性期,9例が慢性期手術を受けたが,両群で転帰に差はなく,前者の死亡率も4%と納得できる数値であった.この調査から,現時点で最も有力な手術法はhigh-flow bypass+内頚動脈trappingであること,clip on wrappingも有効であるが,術後の再出血,瘤の再増大が生じうる点から,今後症例を増やした調査・検討が必要であるとの結果が得られた.最後に,血管分岐のないICの一定個所に,解離および非解離動脈瘤が生じる発生機転につき,内弾性板(IEL)の自発的破綻を軸に考察した.
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