脳神経外科ジャーナル
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25 巻, 8 号
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特集 良性脳腫瘍
  • 金 太一, 中冨 浩文, 斎藤 季, 吉野 正紀, 庄島 正明, 中川 大地, 辛 正廣, 小山 博史, 斉藤 延人
    2016 年25 巻8 号 p. 622-630
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

     手術シミュレーションとは病変に対する “治療法” の検討であり, 異常所見の発見に主を置く放射線診断学とは, その目的が明確に異なる. 融合三次元画像を用いたバーチャルリアリティ手術シミュレーションには, 膨大な画像データから必要情報を抽出し, 知識や経験などを加味した総合的な判断と可視化技術が必要とされる. 本報告では放射線診断学と手術シミュレーションとの違いを意識しつつ, 良性脳腫瘍における手術シミュレーションの実際について概説する.

  • —3D化が与える判断と行動—
    吉本 幸司
    2016 年25 巻8 号 p. 631-636
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

     経鼻内視鏡手術は近年急速に普及してきているが, その一番の要因は広い視野角を有する内視鏡の特性を活かした術野の観察性の向上である. ハイビジョン内視鏡による高解像度手術画像により術野の視認性がさらに向上したが, 立体視をしながらの手術操作ができないことが内視鏡手術の課題である. この問題点を解決するために開発されたのが3D内視鏡である. 現在世界的に普及しているのはVisonsense VSiiiシステムであるが, 本システムは昨年わが国に導入されたばかりであり日本での実績はほとんどない. われわれは, 数年前より日本で開発された新しいタイプの3D内視鏡 (町田製作所製) を手術に導入して現在までに50例以上の経鼻手術でその有用性を検討してきた. その結果から, 骨のドリリングや鞍上部操作などの操作では3D内視鏡による立体視が有効であることを実感している. 実際に手術で用いてみると3D内視鏡を用いた経鼻手術の有効性は明らかであるが, 2D内視鏡を用いた手術との比較では手術時間や手術成績には客観的な差が出ないとする報告が多い. これは3D内視鏡の有用性の実感は主観的な要素が強いため, 客観的な比較評価が難しいからと考えられる. しかし3D内視鏡を用いた手術は教育的な効果も高く, この点については効果が客観的に証明されている. また近年は2D内視鏡の画像を3D画像に擬似的に変換する技術も開発されており, これらの3D技術は今後経鼻内視鏡手術における術中の判断と行動に有意義な情報を与えるものと期待される.

  • —機能性腺腫とincidentaloma—
    富永 篤, 木下 康之, 栗栖 薫
    2016 年25 巻8 号 p. 637-645
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

     下垂体腫瘍, 特に機能性下垂体腺腫およびincidentalomaに対する手術適応について述べる.

     下垂体腺腫に対する治療法には手術療法, 薬物療法, 放射線療法があるが, 特に機能性下垂体腺腫では手術療法と薬物療法の選択が重要である.

     機能性腺腫のうち成長ホルモン産生腺腫, adrenocorticotropin stimulating hormone (ACTH) 産生腺腫, thyrotropin stimulating hormone (TSH) 産生腺腫では, 薬物療法による根治的治療法がないため手術を中心とした治療計画を立てる. 一方, プロラクチノーマでは根治可能な薬物療法があり, 手術適応は限られる. 成長ホルモン産生腺腫では手術が第1選択ではあるが, 術前のsomatostatin analogによる薬物療法が有用な症例がある. 術直後はinsulin growth factor-Ⅰ (IGF-Ⅰ) が高値であっても, GH値が正常であれば徐々にIGF-Ⅰ低下が望めるため, すぐに再手術や後療法に移る必要はない. 残存腫瘍に対する再手術は腫瘍がトルコ鞍内に限られるものには有用である. プロラクチノーマは薬物療法が第1選択となるが, 薬物療法も根治のためには長期服用が必要である. 長期服用困難な例, 薬剤抵抗性の腫瘍の場合は手術も考慮する. ACTH産生腺腫の場合には, 腫瘍局在を確認することが手術適応を決めるうえで最も重要である. Incidentalomaとして発見される下垂体腫瘍はほとんどが非機能性下垂体腺腫とラトケ囊胞であるが, それぞれの腫瘍で手術の適応は異なる. 非機能性腺腫は緩徐ではあるが増大するため, 特に鞍上部進展を認める例では早晩視機能障害をきたすことが多く, 手術を検討してよい. また, 前頭蓋底や海綿静脈洞に進展している例では治療が困難になることも多く, 早期の治療が望ましい. ラトケ囊胞では囊胞の自然縮小が生じることも認められ, 手術後の再発率の高さから考えても下垂体機能障害がなければ経過観察でよい. 下垂体機能障害は高度になると不可逆的であるため, 下垂体機能障害が軽度でも存在する場合は手術を考慮してよい.

  • 溝脇 尚志, 小倉 健吾, 坂中 克行, 宇藤 恵, 荒川 芳輝, 北条 雅人, 宮本 享, 平岡 真寛
    2016 年25 巻8 号 p. 646-653
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

     術後残存/再発頭蓋咽頭腫に対する通常分割高精度放射線外部照射療法の長期治療成績を遡及的に検討した. 解析対象は29例. 年齢中央値は54歳. 28例で放射線治療直前の手術は不完全切除であった. 三次元原体照射または定位放射線治療を用い, 中央値で54Gy/30分割を残存腫瘍を含む腫瘍床へ投与した. 経過観察期間中央値は73カ月で, 5年の局所制御率, 無増悪生存率, 全生存率は, それぞれ, 85.3%, 81.4%, 95.8%であった. 放射線治療後に甲状腺刺激ホルモン値の低下を認めた1例以外, 放射線治療に起因する有害事象は観察されなかった. 頭蓋咽頭腫に対する通常分割高精度放射線外部照射療法の治療成績は良好である.

  • 大宅 宗一, 福島 雄大, Joung H. Lee, 松居 徹, 斉藤 延人
    2016 年25 巻8 号 p. 654-659
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

     髄膜腫は最も頻度の高い良性腫瘍である. 増大も緩徐であるため, 患者には治療法を選択する十分な時間がある. したがって, 医療者は現時点でのエビデンスに精通し, 患者へ正しく情報を提供し, そして患者自身が納得する治療方針を提示することが望ましい. 本稿では, こうした目的に必要な「髄膜腫の治療適応についての判断」と「いかに治療をするかの行動決定」に資するような近年のエビデンスを整理した. 特に, 髄膜腫の自然歴, 無症候性髄膜腫に対する治療適応, 現代脳神経外科における手術摘出度と予後の相関, 放射線治療, WHO Grade Ⅱ/Ⅲの非良性髄膜腫の治療方針に焦点を当て概説する.

  • 國枝 武治, 菊池 隆幸, 吉田 和道
    2016 年25 巻8 号 p. 660-668
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

     初めてけいれん発作を起こした患者では, 頭蓋内病変検索のために画像診断を行うことがてんかん治療ガイドラインで推奨され, 特にMRIは重要である. 実際, けいれん発作は脳腫瘍患者によくみられる症状であり, 髄膜腫で29~60%, 転移性脳腫瘍で20~35%, 髄内腫瘍である神経膠腫においては, 良性で80%以上, 悪性で29~49%に認められると報告されている. 最も頻度が高いのは, glioneural tumorであった. これらは, 腫瘍自体にてんかん原性があると考えられており, 病変の摘出が良好な発作予後に必要である. 一方, 2011年に提唱された皮質異形成の分類で, 腫瘍に合併する1項目が挙げられている (FCD Type IIIb) ように, 腫瘍自体がてんかん原性をもつというよりも, 合併する皮質異形成が要因となることもある. この場合には, 良好な発作予後につながる最適な外科的治療戦略には, 焦点部位の十分な評価が重要となるため, 機能野との関連で治療適応や切除範囲を検討することになる. 外科治療後も, けいれん発作がみられると, 術後の日常生活や治療継続に影響を及ぼす一方で, 発作以外に症状がないような症例では, 術後の生活に影響を与えるような機能障害は避ける必要があり, 機能温存のための工夫が求められる. また, 脳腫瘍症例の抗てんかん薬に関する前向き研究は少なく, 発作のない症例に対する予防的薬物治療に関してもわかっていない.

温故創新
原著
  • —術後3年以上経過した症例の検討—
    河岡 大悟, 花北 順哉, 高橋 敏行, 渡邊 水樹, 大竹 安史
    2016 年25 巻8 号 p. 671-681
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

     頚椎椎弓拡大形成術は整形外科医によって提唱された術式のためか, 脳神経外科医による長期成績報告は非常に少ない. そのためわれわれ脳神経外科医が手慣れた手術顕微鏡を用いて行った正中縦割法による同術式に対する術後成績をJOAスコア, レントゲンで評価した. 平均観察期間は5.1年で, JOAスコアは記載方法が多少異なるが (術前は看護師指導のもと患者記入, 術後は完全患者自己記入), 術前平均11.1から最終12.8へ改善し, 平均改善率は28.8%であった. さまざまなパラメーターで比較した各疾患群の術後成績に差異はなく, また他の報告や, 異なった術式間においても大差はなかった. さらなる正確性を期するにはフォロー率を上げ得る前向き調査が必要であろう.

症例報告
  • 松原 博文, 髙木 俊範, 榎本 由貴子, 岩間 亨
    2016 年25 巻8 号 p. 683-687
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/08/25
    ジャーナル オープンアクセス

     くも膜下出血にて発症した頚髄radicular arteriovenous fistula (AVF) の1例を経験したので報告する.

     症例は55歳女性. 前医でくも膜下出血と診断. 脳血管撮影にてcervical spine (C) 5根動脈をmain feederとし, varixを伴う脊髄動静脈瘻を認めたため, 当院搬送となった. 治療としてday 11にcoilによる経動脈的塞栓術を, その2週間後に直達手術を施行した. 術中所見は右C5後根腹側にvarixを認め, coilを留置したC5 radicular arteryの分枝が硬膜内でvarixに流入しており, この術中所見からradicular AVFと診断した. Varix本体と周囲の小血管を焼灼し, 術後の脳血管撮影ではAVFの完全消失を得た. 本症例は, 硬膜内動脈もfeederとして関与した術中所見からradicular AVFの診断に至った. 本疾患は脊髄硬膜動静脈瘻と鑑別が必要と考えられた.

治療戦略と戦術を中心とした症例報告
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