Ringer finger protein 213 (RNF213) のmissense variant c.14429G>A (p.Arg4810Lys, rs112735431) が頭蓋内血管狭窄 (intracranial artery stenosis : ICAS) と有意な関連があることが明らかにされてきた. またRNF213 p.Arg4810Lysは, 冠動脈狭窄・腎動脈狭窄や肺高血圧症との関連が明らかとなっており, 全身の血管疾患をきたすvariantとして注目されてきている. RNF213の機能解析も進んでいるが, 疾患発症に関わるメカニズムはいまだ明らかとなっておらず, さらなる解析が期待される.
頭蓋内狭窄・閉塞症の治療には, 形態学的評価のみならず脳循環代謝動態の評価が重要である. 慢性脳虚血における脳循環代謝計測法はPETやSPECTが中心となる. 酸素代謝や血管反応性の指標が, 脳虚血時にどのように変化するかを正しく理解することで, 適切な病態評価, 治療法選択, 治療後評価が可能となる. 脳梗塞急性期では, 近年行われた臨床試験の結果から, 解析方法を統一したMRI灌流画像が, 血栓回収療法の適応判断に有用であることが示された. 本稿では頭蓋内狭窄・閉塞病変の脳循環評価について, 文献や自験例を交えつつ概説する.
症候性頭蓋内動脈狭窄症に対する血管内治療のクリニカルエビデンスと日本脳神経血管内治療学会で行われたアンケート結果について考察する. ステント留置術に関する2つのランダム化比較試験において血管内治療の有効性は示されず, 積極的内科治療が第一選択となっている. 日本脳神経血管内治療学会会員に対して行ったアンケート調査では, 回答を得た261施設における血管内治療は783件であった. 急性閉塞発症例や症候性病変で内科治療抵抗性, かつ脳血流低下を認める場合は高率に血管内治療が行われていたが, 脳血流低下のない無症候例は保存的に治療されていた. 今後, 本疾患の至適治療を見出すために新たな臨床試験が必要と考えられる.
もやもや病脳血行再建術のエビデンスを①成人虚血型, ②成人出血型, ③小児例, に分類して論じる. 成人虚血型ではメタアナリシスにより直接バイパスを含む術式が有効であることが示されている. 成人出血型ではJAM Trialやメタアナリシスにより, 直接バイパスを含む術式が再出血予防に有効であることが示されており, 後方出血群が自然予後不良かつ手術効果の高いサブグループであることや, 脈絡叢動脈型側副路が特に出血しやすい脆弱血管であることも明らかになりつつある. 小児例では術後成人期までの超長期追跡研究が注目されており, 血行再建の長期的虚血改善効果が明らかとなる一方, 成人後出血転化の問題が浮き彫りとなっている.
主幹動脈狭窄が症候性となるとき, 以下の2原因が考えられる. ①狭窄部のプラーク破綻で, A to A embolismを起こす. ②狭窄末梢にhemodynamic ischemiaを起こす. 治療戦略は以下に分かれる. ①は内科的にプラークを安定化するか安全にstentを挿入する技術的発展が必須. 対して②は狭窄末梢にSTA-MCA, STA-SCAなどのバイパスを置くことで, 不安定プラークを刺激せずに予備能の低下した高度狭窄末梢灌流域に広範な虚血を回避し, かつ過灌流を避けて徐々に血行が発達することを期待できる. 開頭脳塞栓摘出術, 脳血管吻合手術, 動脈硬化性椎骨脳底動脈閉塞への緊急血行再建などの開頭手術経験から得た教訓的な症例を例示し検討する.
明細胞性髄膜腫は髄膜腫のうち0.2%とされ非常にまれである. 全摘出後に頭蓋内転移をきたし, 開頭手術とガンマナイフを組み合わせて治療した症例を報告する. 左下肢脱力が出現し, MRIで右前頭葉腫瘍を指摘された. 全摘出後, 左麻痺は改善した. 病理組織で明細胞性髄膜腫と診断した. 術後60Gy拡大局所照射を施行したが, 初回手術より16カ月後に再発病変を3カ所認め, これらの病変に対しガンマナイフを施行した. しかし, 2カ所は増大が続き, 第2回開頭術を施行した. 病理診断は明細胞性髄膜腫の再発であった. 同腫瘍に対するガンマナイフの有用性は, 小体積と高線量が有効とはいえるが, いまだ不明確である. さらなる症例の蓄積が期待される.
びまん性脈絡叢過形成, 脈絡叢乳頭腫は, 主に小児期に進行性水頭症を契機に発見される脈絡叢良性疾患である. 症例は出生前より進行性水頭症を指摘された男児. 胎生38週, 帝王切開術にて出生した. 水頭症増悪に対し, 生後1カ月で大槽-腹腔シャント術を施行したが, 頭皮下髄液貯留, 進行性腹水増加, 陰囊水腫という髄液産生過多状態を示唆する所見を認めた. 生後6カ月に内視鏡下右脈絡叢焼灼術を施行し, 臨床経過と病理所見からびまん性脈絡叢過形成と診断した. 術後数カ月は髄液貯留の改善を認めたものの, 再度悪化傾向となったため, 生後11カ月に, 侵襲は大きくなるが可及的に髄液産生量を低下させるため, 顕微鏡下に左脈絡叢摘出術を行い, 髄液産生量をコントロールすることができた. 両側びまん性脈絡叢過形成はまれであり, 自験例を含めこれまでの報告と併せてレビューする.
脳神経外科領域のイラストは微細な構造の集合体が対象となる. 顕微鏡や内視鏡の焦点深度や, 進入角のわずかな変化により対象の見え方は大きく異なってくることから, 術野を忠実に表現しようとするほど描出できる構造が限定される. しかしながら術中には死角となる深部の重要構造を理解することが重要である. これらの問題を解決する手助けとして, 意図的に本来の術野と異なる視点から対象構造を描出し, 手術中には死角となる重要構造の表現を試み, これにより得られる利点について検討した.