急性期脳梗塞の抗血栓療法では, 非心原性脳梗塞の場合, アスピリン, アスピリンとクロピドグレルの併用およびオザグレルナトリウムやアルガトロバンの投与を考慮する. 抗血小板薬の2剤併用療法は発症7日以内で強く推奨されるが, 病態に応じて亜急性期から慢性期に単剤投与への切り替えを考慮する. 急性期心原性脳梗塞の場合, 抗凝固療法としてワルファリンや直接経口抗凝固薬 (direct oral anticoagulant : DOAC) を2週間以内に投与開始すべきである. ヘパリン投与の有効性は確立していない. 非弁膜症性心房細動を伴う場合には出血性合併症の少ないDOACをワルファリンよりも優先的に考慮する. 人工弁置換術後ではDOACの適応はなく, ワルファリンを用いる. 塞栓源不明の脳梗塞の場合, 病態に応じて中リスク心疾患, 奇異性脳塞栓症や下肢静脈血栓合併例では抗凝固療法を, その他の場合は抗血小板薬の投与を考慮する. 抗血栓薬服用患者では, 可能であれば130/80mmHg未満を目標とする血圧管理が望まれる. 特に脳微小出血 (microbleeds) 合併, 脳出血既往患者, およびラクナ梗塞では脳出血の発症や再発予防を目的に血圧管理を厳格に行う. 周術期の抗血栓療法の管理は, 脳神経外科, 循環器科, 消化器科, 麻酔科などで協議し, ガイドラインに準じた自院のコンセンサスをもとにリスク・ベネフィットを十分に説明し, 理解と同意を得たうえで, 抗血栓療法の中止・継続を行い, 処置を実施する.
近年の複数のランダム化比較試験により, 発症6時間以内, および発症6時間以降16ないし24時間までの特定の条件を満たす症例に対する血栓回収療法の有効性が確立した. 発症6時間以内の症例では, 単純CTとCT血管造影の組み合わせに代表される “brief imaging” に基づく迅速な治療開始が強調されている. 発症6時間以降では, 灌流画像のRAPIDによる解析を含む “multimodal imaging” により確立したエビデンスを, わが国の実臨床にいかに外挿するかが焦点となる. また, 病変性状に適さないデバイスは再開通治療の効果を減弱させるため, 血栓 (閉塞部位) 性状評価は重要であり, 今後の発展が待たれる.
頚動脈ステント留置術 (CAS) は, CEA高危険群のみならず標準危険群に対してもCEAと同等の治療効果が得られることが示されているが, それぞれの治療における合併症内訳が異なり, 特にCASにおける周術期脳卒中の発生, 高齢者に対する成績不良が今後克服すべき問題点として挙げられる. 近年の治療の発展に従いCEA, CAS, 内科治療とも成績が向上してきているが, 周術期塞栓性合併症を克服するデバイスの洗練化, 新規開発が進むCASの治療成績に注目していく必要がある. 一方, 無症候性病変, 高齢者への治療介入は慎重に検討しなければならず, 各治療を比較した新たなエビデンスの創出が必要な時期に差し掛かっている.
目的 : これまでの臨床試験の結果, 症候性頭蓋内動脈狭窄症においては血管内治療や外科的治療の有効性が示されていない. しかし内科的治療抵抗性患者も少なくなく, このような症例をどう治療するかについては一定の見解がない. 本稿では, 本疾患について概観し, 治療選択について考察する.
背景 : 頭蓋内動脈狭窄症はわが国の全脳梗塞の原因の約30%を占めるとされており, 症候性高度狭窄例 (狭窄度70%以上) の脳卒中再発率はアスピリン投与下で年間23%, 積極的内科治療 (抗血小板療法, 降圧, 脂質低下療法, 禁煙などの生活習慣改善) を受けても年間12%を超えると報告されている.
各治療法とエビデンス : ①内科的治療 : 症候性頭蓋内動脈狭窄症に対する内科的治療に関するランダム化比較試験においてはワルファリンよりもアスピリンが優位であることが示された. ②血管内治療 : 2つのランダム化比較試験において血管内治療の有効性は示されなかった. 現在これらの試験で明らかとなったリスク因子を考慮に入れた新たな試験が開始されている. ③外科的治療 (バイパス手術) : 頭蓋内動脈狭窄症のみを対象としたバイパス手術の有効性を検討した臨床試験は存在しない. このため有効性は不明であるが, 他治療に抵抗性, あるいは適しない患者に治療が実施されている.
結語 : 頭蓋内動脈狭窄症に対する標準治療は内科的治療であるが, その抵抗例, 非適応例においては介入治療が有効な可能性があり, 今後の臨床試験で確認されていくものと考えられる.
2015年の本邦におけるもやもや病診断基準改定により, 基礎疾患をもたない両側病変を呈する患者に加えて, 片側病変例や動脈硬化を伴った患者も, 脳血管撮影を行うことによりもやもや病と確定診断可能となった. また外科治療に関しては従来バイパス手術が有効とされてきた虚血発症例に加えて, 成人出血発症例, 特に後方出血例に対する頭蓋外内バイパス術の効果が明らかとなり, もやもや病に対する手術適応は拡大傾向にある. 以上より, もやもや病と確定診断される患者数ならびに外科治療の機会は顕著に増加傾向にあるのが現状である. 改訂診断基準を概説し, もやもや病に対する外科治療の現状と展望について報告する.
低Na血症による意識障害と両耳側半盲で発症した54歳男性. MRI上で不均一に造影され視交叉を圧迫するトルコ鞍内病変と, 低テストステロン血症を認めた. 低Na血症はステロイド補充で改善し相対的副腎不全と診断した. 全身精査で前立腺癌が判明しdegarelix acetateとbicalutamideを併用したホルモン療法を開始したが治療抵抗性であり, 視野障害の悪化を認めたため経蝶形骨手術を施行, 前立腺癌下垂体前葉転移の診断に至った. 前立腺癌に対してdocetaxel療法へ変更し, 下垂体転移に対しては定位放射線治療を行い病変の縮小を認めた. 本症例では, 下垂体転移に伴った低テストステロン血症が前立腺癌の病勢に影響した可能性が考えられた.