脳神経外科ジャーナル
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27 巻, 12 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集 みらいを救う神経科学―最先端研究の実臨床へのフィードバック
  • 髙橋 淳
    2018 年27 巻12 号 p. 874-881
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル オープンアクセス

     iPS細胞を用いた再生医療の実現化がいよいよ本格化してきた. 基礎研究と実用化の間にはさまざまな困難が存在し, 俗に 「死の谷」 と呼ばれる. この 「死の谷」 を超えるためには, 科学的合理性を有すること, 臨床用株を用いて非臨床試験を行うこと, 多方面と有機的に連携することが重要と考えられる. われわれはiPS細胞から中脳腹側細胞を誘導し, ソーティングによってドパミン神経前駆細胞を濃縮し, さらに霊長類を含めたパーキンソン病モデル動物への移植実験でこの細胞の有効性と安全性を確認してきた. これらの成果に基づいて, われわれはパーキンソン病に対するiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞移植の医師主導治験を開始する.

  • 青木 友浩
    2018 年27 巻12 号 p. 882-888
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル オープンアクセス

     くも膜下出血はいまだ予後の悪い疾患である. 一方現状では, 脳動脈瘤への直接的な治療介入は外科治療のみであることからアンメットメディカルニーズとなっている. 近年の検討から, マクロファージ依存的な慢性炎症反応が病態を制御することが示唆された. この成果をもとに, 動物実験では複数の抗炎症薬での脳動脈瘤の発生・進展抑制効果が, 臨床研究ではスタチン製剤などによるくも膜下出血発症抑制の可能性が示された. さらに, 多くの病変からマクロファージを指標とした炎症の強い危ない瘤を選別する診断法の可能性が示された. よって, 未破裂脳動脈瘤治療は病変ごとの活動性に基づく層別化と薬物治療法適用によりパラダイムシフトを迎えることが予想される.

  • 夏目 敦至
    2018 年27 巻12 号 p. 889-895
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル オープンアクセス

     ヒトの細胞は約40兆個あり, 細胞のDNAをつなげると740億kmある. 地球からシリウスまでの距離に相当する. この長さのDNAをわずか数時間で解析できる時代になった. 2000年代半ばから 「次世代シークエンス (Next Generation Sequencing : NGS)」 が普及し, 1,000ドルゲノムの時代を迎え, プラットフォームが完成した. 今はイントロンまでを読み込む全ゲノム解析 (WGS) が主流となり, パネル解析は間もなく終焉を迎える. 2020年にはパネルでもエクソンでもなく, WGSで解析するのが通常という時代が到来する. 加えて人工知能 (AI) の登場である.

     WGSでは数千~数百万の遺伝子異常がみつかる. 代表的なAIはWatson for Genomicsである. 電子化知識は氾濫し, グリオーマ関連の論文をキャッチアップするだけでも膨大な時間がかかる. Watsonは2,000万報を超える論文情報をはじめ, 癌の変異や生命のメカニズムに関する膨大な知識を日々学び理解し推論する. 遺伝子変異情報を元に適切な薬剤の情報を与える. さらにHuman Cell Atlasの開始である. 癌, ニューロサイエンス, 発生などの分野でひとつひとつの細胞の挙動を明らかにしていくというプロジェクトである. ゲノム・細胞・そして個体というドグマの中で, 医療はわずか2~3年で激変しているだろう.

  • 西本 伸志, 福間 良平, 栁澤 琢史, 貴島 晴彦
    2018 年27 巻12 号 p. 896-903
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル オープンアクセス

     近年の機能的磁気共鳴画像法 (fMRI) 技術の進展および機械学習技術の高度化に従い, 日常的な知覚・認知に関わる脳機能・脳内情報の定量的な解明が進んでいる. このような研究は, 全脳を対象とした包括的脳機能マップに基づく術前・術中の情報提供や, 侵襲脳計測・刺激技術を介した高度なブレイン・マシン・インターフェースなど, 先進的な技術の数理基盤となる可能性がある. 本稿ではこれら最近の脳情報の解明に関する現状と展望について紹介する.

温故創新
原著
  • 村木 岳史, 佐藤 憲市, 高梨 正美, 尾崎 義丸, 浅野目 卓, 石田 裕樹, 中村 博彦
    2018 年27 巻12 号 p. 906-913
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル オープンアクセス

     中枢神経系原発悪性リンパ腫 (PCNSL) の多くは初期治療後の寛解にもかかわらず再発を余儀なくされる. 再発PCNSLに対するガンマナイフ治療 (GK) の治療成績を報告し, 有効性と安全性を検討した. 再発PCNSL 13例 (109病変) に対してGKが行われ, 87病変 (84%) でCRが得られ, CRまでの期間は平均1.8カ月, 奏効率は91%であった. GKからのPFS, GKからのOS, 初期治療からのOSの中央値はそれぞれ7カ月, 19カ月, 47カ月であった. 再発PCNSLに対するGKは全脳照射後や高齢者においても治療可能であり, 低侵襲で高い奏効率と即効性を示し, サルベージ治療として有用である.

症例報告
  • 萩原 伸哉, 宮嵜 健史, 内村 昌裕, 藤原 勇太, 辻 将大, 神原 瑞樹, 吉金 努, 中右 博也, 永井 秀政, 秋山 恭彦
    2018 年27 巻12 号 p. 915-920
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/25
    ジャーナル オープンアクセス

     2015年に発表された5つのランダム化比較試験により, 機械的血栓回収療法の有効性が確立した. 本邦の適正使用指針では発症8時間以内が治療適応となるが, いわゆるwake up strokeやunknown onsetなどでは, その適応に悩む症例がある. われわれは発症から18時間経過した右内頚動脈塞栓症例において, diffusion weighted image (DWI)-fluid attenuated inversion recovery (FLAIR) mismatchの存在から機械的血栓回収療法を施行し神経症状の回復を得た症例を経験した. 本症例では右頚部内頚動脈から中大脳動脈にかけて連続する多量の血栓が存在し, 血栓の飛散が段階的に生じたことでtherapeutic time windowが延長された可能性も示唆された. 発症から時間が経過した症例においても, DWI-FLAIR mismatchが認められる症例では機械的血栓回収療法が有効となる可能性が示唆された.

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