体内の関心領域を非侵襲的に観察し, その領域の生物学的特性を明らかにすることは放射線医学が目指す究極の目標といっても過言ではないだろう. 近年のコンピュータ技術と生物統計学の進歩から, radiogenomicsという新しい研究分野が花開きつつある. この研究分野が目指すところは, 定量的に取得された数百~数千の画像特徴量を数理学的に解析し, 遺伝子変異など病変の生物学的特性を非侵襲的に推定することである. 本総説ではradiogenomicsの基礎から応用までを, 技術的な限界や問題点にも焦点を当てつつ解説する.
膠芽腫は増殖・浸潤能が高く, その全摘出は不可能ではあるものの, 後方視的解析の積み重ねにより, 安全な範囲での最大限の摘出は予後延長に寄与すると考えられている. しかし, 特に再発例に対する手術摘出においては, 適正な患者選択を行わないと手術によりむしろ予後を悪化させる可能性もあり注意が必要である. 術前術中の機能マッピングを含めた手術支援技術の進歩の他, 光線力学的診断・治療法など, 種々の手術に関わる新規技術も利用可能となってきている. しかしながら, 非造影病変摘出の是非, 高齢者に対する手術適応, 脳可塑性の利用, 分子情報を考慮した手術戦略, 免疫療法との組み合わせなど, 今後も解決すべき課題は依然として多い.
近年の次世代シークエンサー技術の発達により, がんゲノム解析が人工知能 (AI) に結びつき実臨床が現実化された. 2019年にはがんゲノム臨床中核拠点が制定され, 6月には2種類のがんゲノムパネル検査が保険収載された. このようにがんにおけるゲノム個別化医療が驚くべき速さで進歩している中, 各拠点がハード面, ソフト面の充実を急いでいるが, いまだに解決すべき課題も多い.
その中で膠芽腫を含めた悪性脳腫瘍に対する恩恵の可能性と, 悪性脳腫瘍におけるゲノム個別化医療の現状と今後の展望を概説する.
本邦の膠芽腫の補助療法は, 放射線治療, テモゾロミド, ベバシズマブ, 交流電場腫瘍治療システムが挙げられる. 補助療法の標準治療は放射線60Gyとテモゾロミドの同時併用とそれに引き続いたテモゾロミドの維持療法で, オプションとして交流電場腫瘍治療システムが追加される. NCCNのガイドラインでは, 高齢者やKPS<60の状態が悪い患者では, 寡分割照射による放射線治療が推奨され, テモゾロミドによるDNAダメージを修復する酵素のMGMTのプロモーター領域がメチル化されている患者ではテモゾロミド単独治療も選択肢となる. ベバシズマブは脳浮腫を改善させるが生存期間延長効果はなく, 高血圧やタンパク尿, 血栓塞栓性合併症への対策と真に有効な患者の選別などが課題である. 新たな分子標的の発見と患者の層別化が期待される.
過去数十年にわたる癌研究の成果は, 近年やっとその成果をもたらしつつあり, さまざまな癌の生存期間が延び, 中には治癒が期待できるものも出てきた. 一方, 脳腫瘍の中でも頻度の高い膠芽腫の予後はあまり昔と変わっていない, という辛い指摘がある. それはなぜなのかをもう一度腰を落ち着けて, 分析的に考察し, これからの取り組みに反映させることは意味がありそうである. あらゆる癌の中で膠芽腫の死亡率が最も高い理由は, 脳にあること, 浸潤性が高いこと, 放射線治療や化学療法に対する抵抗性が高いこと, 増殖が速いこと, 免疫系の活動が乏しいこと, などが挙げられよう. これらを解決する糸口としては, 地道な研究の継続と, まったく新たな治療パラダイムの開発という2つの側面からのアプローチが続けられることが必要だろう.
CS-DAVFに対する治療介入後に医原性静脈洞閉塞を伴い, ACC-DAVFとTS-DAVFの新規出現をきたした症例を報告する.
症例は頭痛を主訴とする74歳女性であり, 精査でCS-DAVF (Borden type III) を認めた. TVEによる治療は成功しなかったが, 再治療を企図した2週間後の精査でCS-DAVFの消失と同側のS状静脈洞閉塞を認めた. しかし1年後の精査で, 同側のACC-DAVF (Borden type I) とTS-DAVF (Borden type II) を新規に認めた. TS-DAVFに対してTVEとTAEを施行し完治が得られ, 再発は認めなかった. DAVFの塞栓術後, 医原性静脈洞閉塞を伴った場合には新規DAVFをきたす可能性があり, 定期的な画像検査が必要である.
頭蓋内電極を留置したてんかん症例では, 電極留置後にてんかん焦点探索を行い, その結果をもとに焦点切除術を実施する. 発作時脳波所見や, 電極と脳の解剖学的位置関係を反映させた手術イラストを作成することは, 焦点切除術前計画の一助となると考える. 頭蓋内電極留置術から焦点切除術へ至るイラスト作成の工夫について, 実際のイラストを提示しながら述べる.