社会活動の効率性向上には, 活動に参加する個々がより能力を発揮するための考え方として, Diversity and Inclusionが求められている. もともと小児脳腫瘍は多様性に富んでいる疾患群である. 発症年齢によって身体的, 心理的, 環境的要素が大きく異なる. またその腫瘍型は, 目まぐるしく分類や定義が変化している. 小児脳腫瘍は, 病理組織学的類似性よりも分子生物学的性格の類似性のほうが, より臨床像を反映しているとされ, 分子生物学的解析技術の進歩が必然的に腫瘍型の新たな分類を提案することとなる. しかしながら, 細分化された腫瘍型それぞれに見合う適切な治療はいまだ提案されてきていない. これらに対応し得る治療法を見出すためには, さまざまな知識や知見をもつ人々をこの分野に取り込んでいく必要がある. 本稿では, この考え方に基づいて, 小児脳腫瘍分野を捉えて現状と展望を考察する.
小児脳血管障害は年齢の観点から周産期脳卒中と小児脳卒中に, 病態の観点から動脈性虚血, 脳静脈・静脈洞血栓症, 頭蓋内出血に分類される. 周産期脳卒中では動脈性虚血が多く, 小児脳卒中では頭蓋内出血が多い. 乳幼児もやもや病では脳梗塞の発症が多く予後不良であり, 手術待機中の脳梗塞発生の回避が課題である. 小児脳動脈瘤は内頚動脈終末部に好発し巨大動脈瘤が多い. 全身合併症, 紡錘状, 母血管閉塞は, 新生または増大の危険因子である. 小児脳動静脈奇形は成人と比較し出血率, 死亡率が高い. 摘出術は安全で消失率は高く, 定位放射線治療の効果は成人と同等である. 再発を検出するうえで小児では摘出後の長期の画像フォローが重要である.
胎児が水頭症病態 (一次的脳脊髄液循環異常) にあるかどうかの判断は難しく, 水頭症病態にない脳容積減少に伴って二次的に生じる脳室拡大も広義に胎児期水頭症と診断されることが多い. 広義の水頭症の中には, 染色体異常や多発奇形症候群など種々の原疾患が含まれることから, 胎児期水頭症の正確な診断や病態把握は患児の予後予測の意味においてもきわめて重要である. 本稿では, 胎児期の脳室拡大や水頭症の定義を提示した後, 当院で過去8年間に経験した胎児期水頭症104例の診断・治療・予後から胎児期水頭症の現状について考察する. トピックスとして脊髄髄膜瘤の胎児手術とX連鎖性遺伝性水頭症に対する着床前診断についてもとりあげる.
Extraventricular neurocytoma (EVN) はまれな中枢神経原発腫瘍の1つである. 本症例は27歳女性でトルコ鞍部に発生し, 月経不順で発症した. 下垂体腺腫が疑われ, 内視鏡下経蝶形骨洞手術 (eTSS) にて部分摘出が行われた. 病理検査では乏突起膠腫に類似した蜂の巣構造がみられ, synaptophysinとNeuNが陽性であり, EVNと診断された. トルコ鞍部に発生したEVNは下垂体腺腫や頭蓋咽頭腫との鑑別が画像上困難であり, 診断には病理検査が決定的となる. EVNは非常にまれな腫瘍であるがさまざまな部位に発生し得るため, 神経細胞系の腫瘍が疑われた場合はEVNの可能性を検討する必要がある.
中大脳動脈 (middle cerebral artery : MCA) で網目状の血管網を形成し, MCA近位に狭窄・閉塞がみられるrete MCAは比較的まれなMCAのvariantとされている. 今回rete MCAと思われる3症例を経験した. 1例は脳出血で発症し開頭血腫除去術が施行された. 2例はMRIで偶発的に発見され, うち1例はM2で網状血管を形成していた. 2例とも各種検査を施行し, 外科的治療介入せずに経過観察の方針となった. Rete MCAはもやもや病や動脈硬化性病変との鑑別が難しく, 明確な診断基準はない. Rete MCAに対して外科的治療を行うべきかどうかについて明確な指針もなく, 各症例十分に検査を行ったうえで治療方針を決定する必要がある.
肉芽腫性アメーバ性脳炎 (granulomatous amoebic encephalitis : GAE) を早期に疑い, 治療介入に至った症例を報告する. 症例は43歳の男性. 左上下肢の脱力で前医に救急搬送された. MRIで一部広範な脳浮腫を伴う両側大脳半球の多発病変を認め, 紹介となった. 開頭生検術を施行し, Periodic acid-Schiff staining (PAS染色) でアメーバ性脳炎が疑われ, 術後早期から薬物療法を開始した. 薬物療法抵抗性の増大病変を再摘出後は, すべての病変の制御が可能となった. 国立感染症研究所でBalamuthia mandrillaris, もしくは他の自由生活アメーバによるGAEと診断された. アメーバ性脳炎の致死率は高いが, 内服と外科的治療の併用で生存できた報告があり, 早期診断が重要である.
日常診療に役立つITのうち, 日常的に必要性の高い動画の取り扱いおよび文献検索についてまとめた. Windowsではファイルの拡張子を表示する設定にして, ファイル形式を把握することで, Microsoft PowerPointと連携するなど適切に処理を行うことができる. 手術の記録として必須の動画の効率的かつ仕上がりよい編集にはAppleのiMovieをお勧めする. 変換や保存の際は解像度にも留意する. 文献を検索するにはまずガイドラインや教科書にあたる. 文献検索の作業はタイトルの確認, 抄録の確認, 論文全体の熟読, の3つのステップに分けて, 割くことにできる時間よりそれぞれに50~100件程度, 20~50件程度, 20~30件程度になるように絞り込みを行うとよい. 脳神経外科診療に役立てば幸いである.