Evidence-based medicineは, 科学的に実証済みでない医療行為の排除ではなく, 「エビデンス」 「専門家の経験・知識」 「患者の価値観」 の3要素を総合的に判断して, 個々の患者に対して最良の治療方針を決める行動指針を指し, アリストテレスが提唱した実践知に通じる概念である. エビデンスを正しく適用するためには, その論拠となる臨床研究の結果だけでなく, 研究デザイン・患者背景・評価法・時代的背景を正しく理解する必要がある. 脳動脈瘤のエビデンスとしては, 破裂脳動脈瘤に対するクリッピング術とコイル塞栓術の治療成績を比較したISATとBRAT, 日本人の未破裂脳動脈瘤の自然歴を示したUCAS Japanなどがある. 今後の新たなエビデンス創出のため, 動物モデルを用いた基礎研究, 画像データに基づくradiomics, AIを用いた研究などの成果が, その礎となることが期待される.
動脈瘤クリッピング術はほぼどのような形状の囊状動脈瘤にも対応できることが大きな利点である. 今後の開頭術に求められることは血管内治療に不向きな, もしくは治療不成功の動脈瘤に対して, たとえ深部であっても動脈瘤周囲の解剖学的構造を確実に視認, 剝離できるだけの十分なアプローチを周囲構造を破壊することなく行うことができること, さらに必要な血行再建を容易に行うことができる術野を確保し治療を完遂することである. そのためには動脈瘤各部位に対する到達法の選択肢を知りその引き出しを多くもつことが重要である.
代表的な到達法である前半球間裂到達法と経シルビウス裂到達法およびその変法で治療可能な動脈瘤について詳述する.
脳動脈瘤患者を有する患者を診療する場合, 過去のエビデンス, 治療チームの技量, 患者の希望を考慮しつつ, 総合的かつ客観的に最善の治療法を選択しなければならない.
血管内治療デバイスの開発が目覚ましい昨今, 脳動脈瘤に対する治療法は, さまざまな治療オプションが登場してきた. しかし, 多くの選択肢が生じたことにより, われわれ臨床医は各治療法の長所と短所を熟知し, さまざまな観点から目の前の患者にとって最適な治療法を導き出さなければならなくなってきた.
本稿では, 現在施行可能な脳動脈瘤に対する血管内治療手技をまとめ, どのような思考を経て “acceptable” な治療法に到達すべきなのかを考察したい.
脳動静脈奇形 (brain arteriovenous malformation : bAVM) はその多様性, 稀少性から治療方針決定に難渋することが少なくない. 未破裂bAVMに対するランダム化比較試験であるARUBAは未破裂例に対する安易な侵襲的治療に警鐘を鳴らした. しかし, bAVMの多様性を考慮に入れない試験デザインに対する批判的意見もあり, 最近の研究データに基づいて侵襲的治療の有効性を見直す動きもある. 治療技術やデバイスが日進月歩の状況において, われわれ脳神経外科医の役割は, 侵襲的治療介入を行うべき適切な症例を層別化し, 新規治療技術を導入しながらbAVM全体の治療成績向上に寄与することであろう.
症例は82歳男性. 頭痛, 意識障害で救急搬送となり, 頭部CTで右後頭葉の脳出血と急性硬膜下血腫を認めた. 脳血管撮影で出血部に一致してpiral AVFとnon-sinus type dural AVFの併存を疑う所見を認めた. 直達手術で確認したところ, 両者が併存しており, 異なるシャントポイントから同一単独の脳皮質静脈に流出しており, 根治には位置関係を見極めて処置する必要があった. このような症例においては, 複数のシャントポイントを直視下に確認して確実に処置できる直達手術の優位性が高い.
われわれは, dermoid/epidermoid cystと一致する臨床・画像所見を呈した後頭蓋窩mature teratomaのまれな症例を経験したので報告する. 17歳男性, 頭部外傷後に遷延する頭痛を契機に小脳腫瘍を偶発的に発見された. MRIでは拡散制限を伴う囊胞性病変の所見であった. 術中に毛髪を認めたためdermoid cystと診断したが, 病理組織学的に中胚葉成分を認めたため, 最終的にmature teratomaと診断した. Mature teratomaとdermoid/epidermoid cystとの鑑別が困難なことが多い. また, mature teratomaが大半を占めていても悪性成分を一部含むこともあり, その場合生命予後や術後の補助療法の必要性に影響するため, 病理組織学的診断が重要となる. さらに, mature teratomaは悪性転化して再発する可能性もあるため経時的な経過観察が必要である.
脳波の判読には, ①習熟に時間を要する, ②専門医間でも一致しないことがある, ③長時間ビデオ脳波の判読に要する時間が膨大である, といった問題があり, 機械学習による発作検知の自動化がもたらす恩恵は大きい. 頭皮脳波による発作検知について良好な成績が多数報告されているが, 汎化性能に課題が残る. 一方で, 患者にとっては発作予知が切実な願いである. しかし, 頭蓋内脳波による発作予知の研究は発展途上の段階であり, 臨床応用への道のりはまだ遠い. 標準化された脳波データの大規模データベースの構築と取り扱いに関するガイドラインの整備が欧米では整いつつあり, わが国でも研究体制の拡充が急がれる.