日本東洋医学雑誌
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60 巻, 5 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 岡村 信幸, 高山 健人, 海田 朋美
    2009 年 60 巻 5 号 p. 493-501
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    最も代表的な利水剤である五苓散は浮腫性の疾患によく用いられる。五苓散の腸管における利水作用を明らかにする目的で,硫酸マグネシウムによる下痢モデルマウスに対する効果を検討した。このモデルに対して,対象薬の人参湯エキス顆粒(166mg/kg, p.o.)は効果がなかったが,五苓散エキス顆粒(133mg/kg, p.o.)は有意な止瀉作用を示した。五苓散の温水抽出物(生薬末を37℃,30分抽出した凍結乾燥品)は熱水抽出物(五苓散料の凍結乾燥品)に比べ有意な止瀉作用を示した。白朮五苓散と蒼朮五苓散の止瀉作用比較において,朮の違いによる差異は認められなかった。五苓散の構成生薬である白朮,猪苓,茯苓,桂皮は五苓散に比べ弱い傾向がみられるものの,単味でも有意な下痢の改善を示した。五苓散から生薬を1種類ずつ抜いた一抜き五苓散はいずれも止瀉作用が低下した。五苓散変方(個別抽出した5種の生薬抽出物の混合品)の止瀉作用は,同時抽出した五苓散に比べて明らかに止瀉作用が減少した。
    これらのことから,この下痢モデルに対する五苓散の止瀉作用は特定の生薬によるのではなく,5種の生薬を同時抽出することが最も効果的であると示唆された。
  • 石田 和之, 佐藤 弘
    2009 年 60 巻 5 号 p. 503-511
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    [目的]非接触型赤外線温度計により冷えのぼせの病態を解析した。
    [対象・方法]20~60代の女性患者98名を対象とし,4群(A群:冷えなし・のぼせなし;B群:冷えなし・のぼせあり;C群:冷えあり・のぼせなし;D群:冷えあり・のぼせあり)に分類。赤外線温度計で舌先・上腹部・下腹部・足底の体表温度を測定。
    [結果]B群はA群に比べ舌温度が高く,舌-上腹部温度差が大であったが,D群とC群間では差違はなかった。しかし,舌温度と舌-足底温度差の相関を解析すると,C群はr=0.77と相関を認めたが,D群では認めなかった。舌-足底間温度差を参考にD群を温度差大群・温度差中等群・温度差小群に3分類し,腹力やBMI,四診所見を検討した結果,温度差大群が陰・虚証,温度差小群が陽・実証の傾向を示した。
    [考察]冷えのぼせには全身的な温度勾配が重要で,陰陽・虚実などの証が影響していた。
    [総括]冷えのぼせには証が関与し,証の重要性が示唆された。
臨床報告
  • 津田 篤太郎, 八代 忍, 蒲生 裕司, 渡辺 浩二, 星野 卓之, 日向 須美子, 及川 哲郎, 花輪 壽彦
    2009 年 60 巻 5 号 p. 513-518
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    症例は65歳女性。2005年7月より顎下腺および耳下腺の腫脹を自覚し,同年10月には眼や口腔内の乾燥症状が出現した。2006年6月ガリウムシンチ,頭頸部MRI,口唇生検を施行し,ミクリッツ病と診断し,プレドニゾロン(PSL)10mg/日投与を同年8月より開始した。唾液腺腫脹はやや改善し,2007年5月にかけPSL7mg/日まで漸減したが,血清IgGが増加傾向となり更なる減量が困難で,2008年1月よりツムラ八味地黄丸エキス7.5g/日を開始した。唾液腺腫脹が消失し,血清IgGも改善した。2008年5月にかけPSLを6mg/日に減量しているが増悪を認めない。
    ミクリッツ病はステロイドが有効とされるが,当症例はステロイド抵抗性が問題となった。我々はCalcein-AMを用いたP糖タンパクの機能アッセイにより,八味地黄丸が薬剤耐性を解除しうることを示唆する結果を得たため,考察を含め報告する。
  • 笠原 裕司, 小林 豊, 地野 充時, 関矢 信康, 並木 隆雄, 大野 賢二, 来村 昌紀, 橋本 すみれ, 小川 恵子, 奥見 裕邦, ...
    2009 年 60 巻 5 号 p. 519-525
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    奔豚と思われた諸症状に呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキスの併用が奏効した症例を6例経験した。5例はパニック障害,1例は全般性不安障害と推定され,6例いずれも,動悸,吐き気,めまい,頭痛やそれらに随伴する不安感などを訴えて,肘後方奔豚湯証と考えられた。呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキスの併用投与で症状軽快し,あるいは肘後方奔豚湯からの変更で症状は再発しなかった。呉茱萸湯エキスと苓桂朮甘湯エキス併用は肘後方奔豚湯の代用処方として奔豚の治療に有効である可能性が示された。
  • 永井 良樹, 増田 寛次郎
    2009 年 60 巻 5 号 p. 527-531
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    桂枝茯苓丸が卓効したベーチェット病の65歳の男性例を報告する。患者は38歳の時眼痛,ぶどう膜炎を発症,ベーチェット病と診断された。一年余りの後,潰瘍性の舌炎を発症,ベーチェット病の一症状と診断された。56歳の時足関節に関節炎が発症,ついで口内炎,舌炎を発症,コルヒチンとサイクロフォスファマイドが投与された。その後,口内アフタ性潰瘍,関節炎を繰り返し発症した。西洋医薬に抵抗する難治の口内潰瘍を発症したため,漢方治療を紹介された。桂枝茯苓丸が投与され,難治の口内潰瘍は完全に消失,関節炎に襲われることもなくなった。患者はベーチェット病の諸症状から解放された。
    ベーチェット病を治療するにあたり,桂枝茯苓丸の使用が考慮されなければならない。
    また,治療初期に,黄連解毒湯によると思われる肝障害が発症した。肝障害は黄連解毒湯を中止することによって消失した。薬剤疫学的に,黄連解毒湯に含有される黄芩が原因として疑われる。
  • 篁 武郎
    2009 年 60 巻 5 号 p. 533-537
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    大気とは胸中に居を定めて全身を支持する諸気の綱領である。心身に対する能力以上の負荷,空腹時や病後の重労働,下痢,破気薬の過剰摂取,極度の気虚などが原因となって大気は胸中から下陥し得る。
    今回瀉下薬によって大気下陥した一症例を報告する。症例は39歳,女性。焦燥,情動失禁の治療中に,随伴する便秘に対して瀉下薬(麻子仁丸)を用いたところ,便秘の改善と共に大気下陥して呼吸困難,無気力などの症状を呈した。昇陥湯加減によりこれらの症状は軽快した。
  • 大野 賢二, 寺澤 捷年, 関矢 信康, 鎌田 憲明, 地野 充時, 笠原 裕司, 平崎 能郎, 並木 隆雄
    2009 年 60 巻 5 号 p. 539-543
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    冷え症と口内炎を伴う原因不明の結節性紅斑に対して漢方治療が奏効した一例を経験した。患者は44歳女性で月に数回,両側下腿伸側を中心に有痛性紅斑が出没した。清熱補気湯で口内炎の改善を認めたが結節性紅斑には効果を示さなかった。そこで裏熱と気逆の症候があることから,清熱補気湯証と白虎加桂枝湯証の併病と考え隔日交互服用としたところ,結節性紅斑の再発を認めなくなった。本症例のような複雑な病態の治療にあたっては併病の可能性も考慮すべきだと考える。
  • 柴原 直利, 八木 清貴, 関矢 信康, 小尾 龍右, 引網 宏彰, 後藤 博三, 嶋田 豊
    2009 年 60 巻 5 号 p. 545-550
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    近年,医療においてQOLが重要視されるようになったが,尿失禁は重篤な症状を呈することがないこともあり,治療の普及が遅れている。今回我々は苓姜朮甘湯が奏効した尿失禁の3例を経験したので報告する。症例1は63歳,主婦。30歳頃に発症した腹圧性尿失禁で,腰痛が増悪し,下肢のシビレ感も認めるようになったために当科を受診。当帰芍薬散合人参湯では効果なく,苓姜朮甘湯の投与により改善がみられた。症例2は46歳,主婦。27歳頃に発症した腹圧性尿失禁で,腰痛と尿失禁に対する漢方治療を希望して当科受診。当帰芍薬散加附子により腰痛はやや改善したが尿失禁は不変であり,苓姜朮甘湯への転方により両症状ともに改善した。症例3は70歳,主婦。第12胸椎圧迫骨折に伴う脊髄円錐症候群に起因する膀胱直腸障害,混合性尿失禁と診断された。苓姜朮甘湯の投与により便失禁は消失し,腰痛・尿失禁ともに改善傾向を示した。
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