日本教科教育学会誌
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38 巻, 3 号
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  • Ennis, R. H. の批判的思考論に着目して
    土屋 善和
    2015 年 38 巻 3 号 p. 1-11
    発行日: 2015年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,「家庭科における批判的思考力」が具体的にどのような力であるのかを明らかにするために,Ennis, R. H. の批判的思考論を踏まえ家庭科における批判的思考力を検討することを目的としている。Ennis は,批判的思考の能力として「明確化(clarity)」と「相互作用(interaction)」を挙げた。「明確化」は「問題発見力」や「問題把握力」につながるものであり,「相互作用」は「多角的・客観的に思考する力」や「自分の考えを練り上げていく力」につながるものとして考えられた。これらは家庭科教育で重視されてきた生活を把握する「生活分析力」や多面的・客観的に思考し自分の意見を練り上げていく「吟味・検討し創出する力」に相当するものとみなされた。家庭科における批判的思考過程は,「生活の明確化」と「課題の明確化」を通して,実生活においての「行動の思案」をし,意思決定につながる「行動の明確化」により実生活における行動を創出することができると考えられた。
  • 小学校入門期授業への主体的・能動的な子どもの参加
    山本 佐江
    2015 年 38 巻 3 号 p. 13-24
    発行日: 2015年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は指導を改善し学習を高めるための評価情報である形成的フィードバックに焦点を当てて,算数授業の談話から形成的フィードバックを抽出し,問題解決の授業で学習を調整する機能の有効性を検討したものである。問題解決の授業では数学的な考え方や態度を育成するために,子どもが主体的・能動的に問題を解決することが求められている。そのため,Lopez とAllal(2007)によるフィードバックの検討を通して抽出された,問題解決の活動への取組に関する社会数学的規範の枠組を根底にした。結果として,教師の状況描写的,探索的,証拠抽出的,子どもの評価的,状況描写的,探索的,証拠抽出的の7つの形成的フィードバックが抽出された。また授業中の教師と子ども,子どもたち同士のやり取りを通して,形成的フィードバックは学習目標の達成及び子どもたちの関係性を調整していくことが示された。授業の進行において,形成的フィードバックが学習の調整に有効に機能しているということが明らかとなった。
  • 発話プロトコルを手がかりに
    山岡 武邦, 松本 伸示, 隅田 学
    2015 年 38 巻 3 号 p. 25-34
    発行日: 2015年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,中学校理科授業における生徒の誤答に対する教師の対応発問と生徒の期待に関する分析を行うことで,指導法への示唆を導出することを目的とした。具体的には,第3回国際数学・理科教育調査の第2段階調査(TIMSS-R)ビデオスタディ95時間分の国内中学校理科授業における生徒の誤答に対する教師の対応発問を分析した。分析結果を踏まえた質問紙を作成し,2013年9月から10月に,県内公立中等教育学校1校で中学校1から3年生451人を対象に調査を実施した。その結果,次の3点が明らかとなった。(1)教師は,別の生徒を指名するよりも,誤答を述べた生徒で対応する傾向があること,(2)1年生は情緒的対応を期待する傾向があること,(3)3年生は認知的対応を期待する傾向があること。以上より,中学校段階では,学年が上がるにつれて情緒的対応から認知的対応へと移行させる支援を意識しながら中学1年で「ヒント」,中学2・3年で「説明」,中学3年で「同じ発問」という対応を行い,自力で答えさせる指導をすることが効果的であると考えられる。
  • 歴史的分野の調査を中心として
    加藤 寿朗, 梅津 正美
    2015 年 38 巻 3 号 p. 35-47
    発行日: 2015年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,中学生の社会的思考力・判断力に焦点をあてた縦断的発達調査を行い,その発達的変容について明らかにすることである。本調査と分析においては,社会科学力としての社会的思考力・判断力を構成する能力として,事実判断力,帰納的推論能力,演繹的推論能力,社会的判断力,批判的思考力の5つを措定し,次の2点について検討した。(1)中学生の社会的思考力・判断力の発達的特徴について,(2)中学生の社会的思考力・判断力を構成する諸能力の関係について。分析結果より,中学生の社会的思考力・判断力は,学年進行に伴って高くなり,特に2年生から3年生にかけて伸長する傾向が見られること,社会的思考力・判断力を構成する諸能力は独立しているのではなく相互に関連していることが明らかになった。
  • 浅野 三奈, 永田 智子
    2015 年 38 巻 3 号 p. 49-61
    発行日: 2015年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    高等学校家庭科における住生活学習の課題から,教材開発の二つの視点(①限られた授業時間でも生徒は基礎的・基本的な知識を習得できる。②生徒は習得した知識を生活へ活用する主体的な学習ができる。)を踏まえた教材の開発を行った。特に,教材開発の視点②のために教材に鳥瞰図を組み込んだ。開発した教材を用いて授業を実践してもらい,生徒にテストとアンケートを実施した。テストの結果,ほとんどの生徒は基礎的・基本的な知識を習得した。アンケートの結果,多くの生徒の住生活への意識が向上し,学習を実生活へ生かそうとする態度がうかがえた。以上のことから,本研究で開発した教材は有効であることが示唆された。
  • 教養教育での大学1年生を対象とした事例研究
    中山 玄三
    2015 年 38 巻 3 号 p. 63-75
    発行日: 2015年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本事例研究では,教養教育での大学1年生(17人)を対象に,協働的な学びが,問題解決力の育成に有効かどうかを検証することを主な目的とした。その結果,次の事項が明らかになった。全体的に見て,協働的な学びは,問題解決の課題達成度を伸ばすことが可能であり,有効である。また,事前テストでの課題達成度に基づいて上位・中位・下位の3つの集団に分けて見てみると,協働的な学びは,問題解決で活用する知識を含む「思考方略」の課題達成度という点で,下位群では「分類」「仮説検証」「因果推論」に有効,中位群では「分類」「仮説検証」に有効であるが,上位群ではいずれの思考方略にも有効ではなかった。さらに,問題解決で活用する知識を含む「思考方略」の質的レベルの人数を見てみると,「分類」「仮説検証」「因果推論」の思考方略では質的高まりが認められ,協働的な学びが有効である。
  • 「テイルの用法」と「動詞タイプ」の影響に関する縦断的考察
    陳 建瑋
    2015 年 38 巻 3 号 p. 77-90
    発行日: 2015年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,第二言語としての日本語学習者のテイルの習得過程で「テイルの用法」,「動詞タイプ」,「日本語学習期間」の3つの要因がテイルの習得に如何なる影響を与えるのかを論じたものである。分析には台湾人日本語学習者の作文データを用い,2年間で4回分の作文データが揃っている40名の学習者を対象に,テイルの習得状況について分類木分析で縦断的な考察を行った。その結果,3つの要因の中で台湾人日本語学習者のテイルの使用に最も影響が強いのは「テイルの用法」の違いであり,続いて「動詞タイプ」の違い,そして最も影響が低いのは学習者の「日本語学習期間」であることが明らかになった。
  • 信頼概念の獲得をめざした第5学年単元「世界のMAZDA」を事例に
    新谷 和幸
    2015 年 38 巻 3 号 p. 91-101
    発行日: 2015年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    「概念カテゴリー化学習」とは,概念のカテゴリー化を基に学習材から獲得概念を導き出し,その有用性を通して社会認識を深める学習である。本稿では,「概念カテゴリー化学習」の学習指導過程を,次の3つの学習段階から構成させる必要があると論じた。第1に学習材の意味内容を学習する段階(先行オーガナイザー形成過程)では,概念のカテゴリー化を行う基盤として,獲得概念の意味内容を導き出す枠組み(先行オーガナイザー)を形成する。第2に概念のカテゴリー化を行う段階(概念カテゴリー化過程)では,学習材の意味内容を基に,類推-同定やカテゴリー化(先行オーガナイザーの比較・説明作用の活用),上位概念での包摂(新たな先行オーガナイザーの形成)を繰り返し行うことで,獲得概念を社会における重要な概念として認識する。第3に獲得概念を通して社会認識を深める段階(概念有用性認識過程)では,学習内容を批判的にとらえることで概念の社会認識を深めるとともに,概念との関わりから児童に社会の一員としての意識を育む。このように構成することで,児童が概念のカテゴリー化を円滑に働かせ,獲得概念の有用性をとらえながら自己の生活や存在を見つめ直すことができる,概念のカテゴリー化を生かす学習指導過程となる。
  • 構築型評価モデルによる比較考察を通して
    岡田 了祐
    2015 年 38 巻 3 号 p. 103-116
    発行日: 2015年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,多様な子どもの学びを捉える構築型評価モデルを使って,典型的な社会科授業の一つである概念的社会認識形成型社会科,その中でも概念の構築型授業における子どもたちの社会認識形成過程について理論的な説明をすることにある。当該授業では5つの認識類型が混在しており,各類型から1名ずつ抽出し,上記のモデルを使って個々の認識形成過程を分析した上でそれらを比較考察した。その結果,自他の観点の比較による因果の関連づけの有無が飛躍とつまずきの分岐点となることが当該授業における認識形成過程の特質として浮上し,それを踏まえ指導を検討した。本稿の意義は以下の4点である。①当該授業における5つの認識類型を見いだし,個々の認識形成過程を実証した点。②当該授業における個々の認識形成過程が異なる理由を実証した点。③認識形成過程の評価の具体を示した点。④目標論のみの評価では捨象される子どもの学びを明らかにした点。
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