日本教科教育学会誌
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40 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • ― 兵庫県古市尋常高等小学校の「教科の生活化」に注目して ―
    酒井 達哉
    2017 年 40 巻 3 号 p. 1-11
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,新教育運動の衰退が進む中,郷土教育運動や生活綴方運動が盛んになる前夜ともいえる昭和初期,すなわち1927(昭和2)年から1929(昭和4)年までの時期に,一般の公立小学校において行われていた生活教育の実践は,何を目指して,どのように展開されたのか明らかにすることである。この目的のために焦点を当てたのは,兵庫県古市尋常高等小学校で行われた生活教育実践であり,同校に関する資料を用いることにより次の二つのことが明らかになった。一つは,「生活教育の徹底」という兵庫県の教育方針に基づき,同校は児童の学習を生活と結びつけるという「教科の生活化」を独自の視点から進めたことである。それは「児童生活の顧慮」という点から,児童の学習を直観や,具体性を通した理解,さらには行動につなげることを重視するというものであり,県の一般的な教育方針に具体的で実践的な内容を提示する試みであった。もう一つは,同校の生活教育が,児童の発表の習慣を重視するという,大正期に及川平治の指導を通して得た実践的経験を踏まえて展開されたということである。
  • ― 四面思考シートを用いた教育実践と評価 ―
    榊原 範久, 水落 芳明
    2017 年 40 巻 3 号 p. 13-23
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,小学校社会科における批判的思考態度の醸成を目指した教育実践とその評価を行った。現在の小学校の教育現場において,学習者が情報に基づき筋道を立てて考え,自分の考えを明確に記述することの課題が指摘されている。そこで,自分自身の思考の推論過程で結論の導出の手がかりとなる根拠を多面的に思考するツール「四面思考シート」を考案し,実践に取り入れた。その結果,学習者が多面的に思考し,批判的思考態度の醸成において有意な向上が見られた。
  • 上之園 哲也, 松浦 幹雄, 中原 久志, 勝本 敦洋, 森山 潤
    2017 年 40 巻 3 号 p. 25-35
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,中学校技術・家庭科技術分野のものづくり活動における批判的思考の検討に必要な基礎的知見を得るため,その構造を把握し,関連要因の影響を検討することである。ものづくり活動における生徒の批判的思考について中学校3年生を対象に調査を実施した。得られた回答を基に因子分析を行った結果,ものづくり活動における生徒の批判的思考は,①資料や手引きなどの様々な情報を活用し,プランやアイデアを多角的に検討しようとする「多角的アイデア検討」,②他の生徒や教員との相互作用を通して自己の作業の状況をモニタリングしようとする「作業状況判断」,③作業環境の状況を判断し,適切な作業方法を多角的に検討しようとする「作業方法最適化」,④設計図や実際の寸法などの情報に基づいて作業の正確さを客観的に捉えようとする「加工精度評価」の4因子構造であった。また,これら因子を基準変数とする重回帰分析を行った。その結果,日常生活における批判的思考態度の「探求心」,「証拠の重視」の2因子が,ものづくり活動における批判的思考に重要な役割を果たしていることが示唆された。
  • 石橋 一昴
    2017 年 40 巻 3 号 p. 37-46
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,確率教育における独立概念の理解へ向けた,指導内容と方法について考察することである。今日の確率教育において重要性が高まってきている概念の一つとして独立概念があるが,その理解には古くから困難性が指摘されており,未だ解消には至っていない。このような現状に対し,先行研究からカリキュラムに原因を求めることが有効であるという示唆を得た。そこでまず,独立概念の理解の困難性の原因について考察し,「直観との乖離」と「排反事象との混同」を同定した。次に,それらの改善に向けた視座として「偶然概念の理解の強調」と「「排反事象」,「独立試行」,「独立事象」の区別」を導出した。その後,現行カリキュラムが前述の2つの視座を意識した構成でないことを指摘し,次期学習指導要領改訂の展望と確率概念の形成に関する水準に基づき,小学校高学年における実験による確率指導と,高等学校数学A における独立事象の導入を提案した。さらに独立事象の指導方法として,命題の設定とカルノー図による図的表現を提案した。
  • ― 粒子領域固有の認識方法の獲得と人間性の育成に着目して ―
    川崎 弘作, 中山 貴司, 雲財 寛
    2017 年 40 巻 3 号 p. 47-58
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,粒子領域の学習内容において,「理論」の構築過程に基づく学習指導が,科学固有の認識方法の獲得や人間性の育成に有効か否かを検証することを目的とした。科学理論とは,観察できる個々の現象を統一的に説明することのできる考えと捉えることができる。そして,科学理論は直接的に実証することが困難であることから,その考えが個々の事象を一貫して説明しやすく,後に実験により検証される新たな予測を生み出すこと,仮説演繹的な実験により反証されないこと等を通して確立されていくという構築過程を持つ。このような考え方に基づく学習指導を小学校第5学年の児童を対象に「もののとけ方」を通して実践を行ったところ,本研究の目的を達成したと判断できる結果を得ることができた。
  • Number Sense とその在り方
    東 達也, 福田 博人
    2017 年 40 巻 3 号 p. 59-67
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は今日的な算数・数学教育を通して獲得すべきNumber Sense とその在り方を明らかにすることであった。そのために,Number Sense の先行研究を批判的に考察し,結果として2点が挙げられた:Number Sense の邦訳として数感覚が用いられているが,その意味においては感覚と直観の意味が混在している点,Number Sense を捉える上で数と演算という算数・数学的な内容のみに焦点が当てられ,社会の変化による今日性からの考察が十分に為されているとは言い難い点。本稿では,Number Sense の邦訳として数直観を用いた。その後,福田(2016)の問題設定モデリングと吉川(2011)のユングのタイプモデルに基づき,数直観と数論理の往還モデルを提示した。そして,論理的思考の獲得のために数直観の獲得が必要であるだけでなく,その逆(数直観の獲得のために,論理的思考の獲得が必要であること)もまた然りであることを示唆した。
  • ─ 代数的推論の観点から ─
    和田 信哉, 中川 裕之, 岩田 耕司
    2017 年 40 巻 3 号 p. 69-80
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿は,算術から代数への移行に関し,「初期の代数」の観点から算数へアプローチする研究の一環として,小学校第3学年「□を使った式」の授業構成について実証的に検討するものである。具体的には,児童の□の意味,式の見方,演算の相互関係の認識それぞれの変容を分析し,そこで現れる代数的推論を同定し,それらの変容とのかかわりを明らかにすることを目的とした。その結果,本授業構成では,一般的な指導とは異なり□を一般数として導入することで,児童たちは自然と□を使っていた。また,□の意味や式の見方,演算の相互関係の認識が相互作用的に変容して高まる姿がみられた。そしてその高まりには,代数的推論が密接にかかわっていることを示した。
  • 荒井 きよみ
    2017 年 40 巻 3 号 p. 81-90
    発行日: 2017年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,児童への給食における「5分間指導」学習による,家庭に関する専門学科高校生の生活認識の変容について明らかにし,その学習効果を検討することである。「5分間指導」学習の前後で,食に関する質問紙調査を行い,その生活認識得点の平均を「5分間指導」実践群と観察群で比較した。さらに自由記述による感想文をM-GTA により分析した。その結果,第一に,事後に実践群の生活認識得点は有意に増加したが,観察群に有意な差は認められなかった。さらに,2元配置分散分析を行ったところ,「必要な栄養がとれているか概ねわかる」等5項目において群×前後の交互作用が有意に認められた。第二に,専門学科高校生の生活認識として「第三の視点」「自己をアップデイト」の2つのカテゴリーと,「プロへのキャリアパス」の概念が生成され,その関係性から変容プロセスが導出された。したがって,専門学科高校生にとって「5分間指導」学習は「将来についての視野拡大,生活の向上」に有効な学習活動であることが示唆された。
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