教師の指導性(リーダーシップ)に関する主な先行研究は,三隅(1978)と小池(1982)がある。教師の指導性は,学習指導機能(Performance Function)と集団維持機能(Maintenance Function)に分けられている。三隅(1978)の考案したPM理論を外国語としての英語教育に導入し,調査したのが小池(1982)である。三隅(1978)の実験調査によれば, P機能とM機能が平均より大きいPM型の教師の場合が,一番教育効果が高く,生徒の学校適応も高く,次いでPM型(小文字のPは平均以下の度合を示す),第3位はPm型,最下位はpm型であった。これは一般性を語っており,生徒の置かれている状況や環境と共に変わりうるものだという調査結果を,小池(1982)が報告している。受験というニードの強い時期においては,当然P機能に対する要求の度合が強くなるし,余り「できない」生徒の方がM機能を要求しがちである(逆に「できる」生徒は,P機能の方を強く希望する)ということになる。本実験においては,「人間中心の外国語(英語)教育」(自己実現・対人関係づくり・目標言語による伝達能力の養成という「情意・相互作用・認知の各領域の統合的アプローチ」)を受けた学生(大学1年生)の,教師の指導性に関する態度の変容を調査しようとした。実験期間は,1983年4月から1984年2月までの約1年間であった。PM調査項目による態度調査を,第1回目は1983年10月に,第2回目は1984年2月に実施し,態度変容の差が有意であるかどうかの縦断的調査を行なった。この2回分のデーター結果を統計処理(カイニ乗検定)を行なったところ, P機能の2項目(P-2とP-4)とM機能の5項目(M-13,14,16,17,20)に有意差が見られた。これらの教師の指導性に対する態度の向上・改善は,人間中心の外国語(英語)教育がとりわけM機能の発揮に効果があることを示している。肯定的・支持的教室風土づくりと人間関係の形成と向上につながるということは,自尊感情の向上にも寄与する(縫部1984)。以上の実験結果から,M機能向上の一つの有力なアプローチが明らかになり,このアプローチの効果的な使用により,PM型かpM型の指導が達成できることがわかった。しかし,M機能を強調しすぎ,依存しすぎると,P機能に対する強い要求が出されてくることも明らかになった。これは,学習者が認知面の達成に関して不安をもつためである。
抄録全体を表示