日本教科教育学会誌
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19 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 溝口 和宏
    原稿種別: 本文
    1997 年 19 巻 4 号 p. 163-172
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2018/05/08
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,公民教育と社会科学教育とを統合する対抗社会化の原理的解明を行うことにある。公民教育は思想・態度の自主的形成を目的とするが,子どもは,社会化の過程で規範や行動様式を無批判に内面化させている。対抗社会化は,社会によって内面化を迫られる規範や行動様式を一旦は対象化することで,子どもの自主的選択を促すものである。対抗社会化の実現には,社会化のプロセス及びその実態を明らかにできる社会科学教育が不可欠である。社会化の過程を対象化するため,具体的には,社会集団の活動が営まれる多様な領域(文化,社会,地理,経済,政治など)ごとに行動様式を取り上げ,分析する。また,行動様式そのものの相対化を図るため,さまざまな規範の異なる社会集団の行動様式を取り上げ,分析する。これによって,子どもは自らの行動を制御できる度合いを高め,規範・行動様式を自主的に選択してゆけるようになると考えられる。
  • 松岡 重信, 李 捷
    原稿種別: 本文
    1997 年 19 巻 4 号 p. 173-181
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2018/05/08
    ジャーナル フリー
    体育の教科目標に関連して,学校文化や健康概念のとらえ直しから議論を展開した。体育授業にかかわって教科の目標とか,単元目標とかも,具体的な素材としてのスポーツを対象化しながら論じていくしかないと思われた。なお,その際でも,直接的には「健康」も一義的な意味をもちえず,したがって,直接の目標には設定しえない。スポーツそのものの中に「教える意味」と「学ぶ意味」を正当に,かつ過程的に位置づけられることが求められていると考える。その正当性とはどこからどのような論理で導かれるかといえば,現時点では,次のように考えざるを得ない。1)体育授業の実践家達の成功事例から実現可能な目標を導出すべきである。そして,成功という時の「内容」「方法」「条件」ともに「成功」といわしめる基準の確認も重要な観点になる。2)「自己学習力」は,われわれにまず存するものであって,<ある>とか<ない>とか,ないから<育てる>とかの論理ではない。われわれ自身の「内」と「外」との相互作用に加えて,自らの「内なる自己」とのコミュニケーションと相互作用を問題にすることになる。3)したがって,「選択制」という授業の方法の検討よりも,どれだけ教師にも子どもにも「意味」のある「関係」を授業のなかに位置づけていくかとする個々の特殊な課題を再把握する方が,遥かに普遍的で重要な課題解決につながる。4)そういった関係性の重視という観点から,われわれは,学校文化・生徒文化というものも,授業の論理に引き寄せていくことを要求されるだろう。
  • 松岡 重信, 李 捷
    原稿種別: 本文
    1997 年 19 巻 4 号 p. 183-194
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2018/05/08
    ジャーナル フリー
    学校という文化装置に納まり切らないスポーツから「教科内容」を構想出来ないように,「教科内容」からも,「国民的共通基礎教養」として機能しないもの,また学校学習の範囲だけで自己完結してしまうものは教科で教える必要もない。だから何よりも教科内容の構成が「国民的共通基礎教養」というか「ミニマムエッセンシャル」というような観点からの評価が必要なのである。また,そうした「ミニマムエッセンシャル」を検討し議論することの中からしか「共通認識」も「実践」への教師の「身構え」も生まれてこない。ここにも「選択制授業」とは相いれない,教師達の「行為」としての授業創りの第一歩の仕事が格別な「意味」をもってはじまると考えられる。これまでの論述を要約すれば,以下のようにまとめられる。1)「身体知」「経験知」を大事にする論理からみれば,これらを「教科内容」論と相即的に考えていく必要性は否定しないが,出原が試案として提起するように必ずしも教室での「講義」という授業形式が優先的に考えられる論理は成立しない。2)現実の社会・世界に存在するスポーツや運動の文化を学校という文化装置に引き寄せる論理は,(1)教育的正当性,(2)地域的価値性,(3)日常生活との密着性と考えられる。3)「教科内容」と「教材」を峻別する論理は二通り考えられ,その統一的原理は,教師と子ども達に「共通」な「意味」を含んだ「ミニマムエッセンシャル」である。
  • 古家 貴雄
    原稿種別: 本文
    1997 年 19 巻 4 号 p. 195-205
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2018/05/08
    ジャーナル フリー
    本研究では,大学生に英語の脚注を利用させながら,2種類のテキストを読ませ,その理解の程度と,脚注の使用の頻度との関係を調査した。なお,被験者は,上位群・下位群に峻別された。その結果,下位群は脚注を利用した頻度が多い割合には,テキストの理解度テストの結果は上位群に比べて悪かった。一方,上位群は,脚注の利用の効率は経済的で,且つ,高い傾向にあった。なお,両者の参照した脚注の種類は,あまり変わりなかった。調査の結果として,poor readerについては,脚注を多く使わせる機会をなるべく減らし,むしろ,テキストの方の難易度を下げるべく,テキストを易しくリライトすることが望ましい,という結論を得た。
  • Megumi SEGAWA
    原稿種別: 本文
    1997 年 19 巻 4 号 p. 207-214
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2018/05/08
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は2種類の社会科教材が,カナダの高校生の先住民族に対する意識に与える影響を比較することである。調査は1993年11月にブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の2つの公立高校の第11学年の生徒169名を対象に行われた。2つの実験群用教材は,多彩文化主義(multiculturalism)及び反差別主義(anti-racisism)教育論をもとに開発された。多彩文化主義教材を学習したグループは先住民族出身で経済界で活躍している人物の例や,先住民族の近年のカナダ政府からの政治・経済的自立に向けての活動について学習した。反差別主義教材を学習したグループは,過半数の先住民族の現状及び彼等が直面している社会的問題(教育,福祉,失業率など)と,その原因を作った19世紀のカナダ政府の先住民族に対する政策について学習した。統制群は実験期間中も従来のカリキュラムに従って学習を続けた。学習者の先住民族に対する共感/同情,態度,差別意識の変化は3種類の質問紙によって測定された。統計的処理の結果,多彩文化主義教材を学習したグループは他のグループに比べ,先住民族に対しより肯定的な態度を示すようになった。また反差別主義教材を学習したグループは他のグループに比べ先住民族に対しより高い共感/同情を抱くようになり,政府の人種差別的政策を避難する意識が高まった。
  • 宮川 秀俊, 魚住 明生
    原稿種別: 本文
    1997 年 19 巻 4 号 p. 215-227
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2018/05/08
    ジャーナル フリー
    技術科教育において,より効果的な自己教育力の育成をめざした指導過程を究明することを目的として,複数題材を用いた「電気」領域の一学習を例にとり,自己教育力診断テストと自己教育力評価テストを実施して検討した。その結果,複数題材を用いた指導過程は,指導計画全体にわたって自己教育力の育成を図れることがわかった。特に製作実習を中心とした学習は自己教育力を育成するのに効果があり,また,男子女子生徒の比較では両者ともに自己教育力を育成することができるのが認められた。本指導過程においては,自己教育力を育成するのに主となる構成要素は,課題意識と集中力,学習の仕方であることがわかった。
  • 池崎 喜美恵
    原稿種別: 本文
    1997 年 19 巻 4 号 p. 229-236
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2018/05/08
    ジャーナル フリー
    全国の帰国子女教育研究協力校やセンター校の家庭科教師を対象に,帰国子女教育における家庭科指導の実態を調査し,昭和62年に実施した調査結果との比較を試みながら,考察を加えた。その結果,中学校教師の約半数が授業中に帰国子女が在籍していることを意識している程度で,全体としては,家庭科教師は,帰国子女に対する指導の困難性をあまり感じていない。家庭科に対する関心を一般児童・生徒と比較すると,小学校教師は「高い」,中学校教師は「かわらない」ととらえるものが多くなった。また,理解の面では大半が差がないと評価しているが,小学校教師には「高い」と認識するものが増加し,中学校教師には意識の変容がみられなかった。家庭科教師は帰国子女の在留国の家庭科学習の実態を十分把握し,つまづいている子どもへの個別指導を心がけなければならない。さらに,一般児童・生徒と帰国子女とが相互啓発しあって授業を進め,異文化理解という観点から,海外生活経験を授業の中で生かせるよう新しい視点の家庭科指導を模索する必要がある。
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