日本教科教育学会誌
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40 巻, 4 号
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  • ― 愛知県宝飯郡御津町立御津南部小学校の開発研究を事例として ―
    白井 克尚
    2018 年 40 巻 4 号 p. 1-11
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,新教科創設期(1988~1990年度)における生活科の授業づくりがどのように行われていたかを,全国の生活科に関する研究推進校を代表する取り組みとして愛知県宝飯郡御津町立御津南部小学校の開発研究を事例として取り上げ,その実態を明らかにすることである。第1学年単元「かぞくをしょうかいしよう」の研究実践を中心とした生活科の授業づくりの特質は,以下の三点である。第一に,育てたい子どもの姿をふまえた自発的な研究主題の設定を行い,「生活科の授業づくりのための四つのポイント」を意識して生活科の単元構想を行っていた点である。第二に,既存の教科の枠を超えて,子どもたちの実態に応じた生活科の単元構成の修正や改善を行っていた点である。第三に,生活科の単元全体で子どもの思いや気づきを生かすための表現活動を重視し,評価の手立てを工夫しながら研究実践に取り組んでいたことである。
  • ― 2人の大学院生による授業改善のセルフ・スタディー ―
    金 鍾成, 弘胤 佑
    2018 年 40 巻 4 号 p. 13-24
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,私たちが社会科教育学と歴史学におけるコラボレーションを実施し,その意義と可能性を考察するセルフ・スタディーである。教育学研究科に属し社会科教育学を専攻している大学院生の金と,同じく教育学研究科に属し歴史学を専攻している大学院生の弘胤は,弘胤が過去に開発・実践した授業の改善に取り組んだ。研究の手続きとしては,各自の教育観やコラボレーションに関するエッセイ,新旧の学習指導案と子どもの成果物,授業改善のために行った対話をコーディングし,それらをナラティブとしてまとめた。その結果,私たちは互いの「良い授業観」を「鏡」とし各自のそれを相対化することで,より柔軟な態度を持つ教育者・研究者として成長できた。また,異なる「鏡」を持つ私たちが相互に「鏡」を照らし合わせることによって,「学」に閉じこもりがちな授業づくりの視点をソトに開く,いわゆる開かれた社会科授業づくりの意義と可能性を示すことができた。
  • 千菊 基司
    2018 年 40 巻 4 号 p. 25-37
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,発話過程の形式化の速度向上を図る指導がもたらす,発話の質の向上を検証することを目的として行った。高校2年生の1クラス(スピーキング群)を対象に,複数の絵によって示されたストーリーテリングの活動を一定期間行い,その前後の発話の質の変容を,同様の指導を受けていない別クラス(対照群)と比較した結果,複雑さと流暢さに向上が見られた。特に,絵に付随して与えられた文字情報の発話への取り込み方を比べると,スピーキング群の発話の質が向上したことがわかった。スピーキング群の経験した活動では,概念化の段階で受ける認知的負荷を減らし,形式化の段階で既習語彙へのアクセスに必要な注意資源を確保して練習することが可能になり,複雑さ・正確さ・流暢さのそれぞれの観点から質の良い発話が練習時に達成され,指導後の調査での発話の質の向上につながったと考えられる。
  • ―「 算術教育要目」の検討を通して ―
    小西(木村) 惠子
    2018 年 40 巻 4 号 p. 39-49
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    生活算術実践家として著名な成蹊小学校の香取良範は,篠原教育学に基づいた独自の算術教育論を背景に尋一から尋六までの「算術教育要目」を作成した。これは近代的な算術教育を目指し黒表紙教科書の課題解決を求めた生活算術運動で行われた児童の現実生活を重視した様々な取組みを経て,黒表紙教科書のカリキュラムとの融合調和をはかった生活算術実践家の一人としての香取の現実的解答である。算術科における新教育運動の現れである生活算術運動が後期にはすでに一部で一般性を目指した段階に進んでいたことを示したものといえる。教師主体の教授から児童の主体性に着眼した学習へと移行する算術教育観の価値観の変容が算術科のカリキュラム構成に与えた影響は大きい。香取は,生活算術運動を通して得た算術教育観と黒表紙教科書の国定カリキュラムとの間で自身の算術教育観を模索した結果,双方の調和を図った移行期カリキュラムを構成することに成功している。
  • ― 学習者による文字化活動をとり入れた授業の分析 ―
    上山 伸幸
    2018 年 40 巻 4 号 p. 51-61
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,小学校国語科における話し合い学習指導において,学習者が話し合いを文字化する活動をとり入れた際にどのような学習が成立するのかについて,小学校5年生を対象とした授業の分析を通して検討を行った。先行研究では,話し合いの方法知をメタ認知させる重要性が指摘されている。振り返り活動をとり入れた授業実践も提案されており,教師が作成した話し合いの文字化資料を教材とする学習指導の有効性が明らかとなっている。しかし,学習者による文字化活動をとり入れた授業についての研究は充分でなく,学習者が作成した文字化資料がどのように活用可能かが不明であった。授業分析の結果,小学校高学年における〈計画的な進行〉の学習が成立することが明らかとなった。本研究の意義は,学習者による文字化活動の可能性と限界を実践的に解明したことにより,国語科における話し合い学習指導論構築のための基礎的な知見を提示した点にある。
  • 古田 久
    2018 年 40 巻 4 号 p. 63-69
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,運動嫌いと運動不振の関係を明らかにすることであった。質問紙を用いて調査し,大学生448人から回答を得た。質問は,デモグラフィック特性やスポーツ系団体への所属状況,体育・スポーツ活動の実施状況などの個人の特性に関する項目,運動の好き・嫌い,及び大学生版運動不振尺度(古田,2016)であった。統計的な分析の結果,運動不振学生は,スポーツ系団体への所属が少なく,体育・スポーツ活動の実施状況も低く,また運動が嫌いであることが明らかとなった。本研究によって,運動嫌いと運動不振の間に関連があることが認められただけでなく,「運動不振→運動嫌い→運動離れ→運動不振のまま」という悪循環が存在する可能性が示唆された。この悪循環を断ち切ることが教師にとって重要な課題となる。
  • ― 算数・数学科を例に ―
    長尾 篤志
    2018 年 40 巻 4 号 p. 71-77
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    次期学習指導要領は,各教科等で育成すべき資質・能力を明確化し,主体的・対話的で深い学びに向かう指導やカリキュラム・マネジメントを通して一人一人の子供に資質・能力を育てようとしている。また,平成28年12月の中教審答申には,各教科の物事を捉える視点や考え方として見方・考え方が示されている。各教科の指導においては,この見方・考え方を働かせて実践を行うことで,思考力・判断力・表現力のみならず知識・技能などの理解も深まると考えられる。主体的・対話的で深い学びを実現するには,親和的な学習の場を創造することも重要である。
  • ― 国語科の視点から ―
    田中 宏幸
    2018 年 40 巻 4 号 p. 79-84
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    国語科は,「国語で理解し表現する言語能力を育成する教科」である。この言語能力を育成するには,課題の設定に工夫を凝らして「主体的な学び」の姿勢を喚起することや,他者との意見交換等によって「読み」の深化や「考え」の更新を促すことが重要であり,学習過程に「書くこと」を効果的に関連づけていくことが有効な手立てとなる。その指導法について,教育実践史研究の観点から,金子彦二郎(昭和初期・高等女学校),大村はま(昭和後期・中学校),平野彧(昭和後期・小学校)の「課題の設定」や「学習の手引き」の特色を整理し,これからの国語科教育実践に生かす方法を解明する。
  • ― 理科の視点・立場から ―
    髙木 正之
    2018 年 40 巻 4 号 p. 85-91
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    新しい小学校学習指導要領ではすべての教科の目標に「見方・考え方を働かせて」という文言が入った。理科においては,量的・関係的,多様性と共通性といった見方と,「比較」「関係付け」といった考え方が例示された。これらをキーワードにして,教材解釈を行い,問題解決学習を通して,資質・能力を育てる授業を検討していく必要がある。また,「目的・計測・制御」といった考えに基づく観察,実験や「ものづくり」のあり方,「プログラミング的思考」を育む指導が示され,学校現場では,これらの新しい考えを導入した上で資質・能力を育てるための授業づくりが求められている。
  • 森山 潤
    2018 年 40 巻 4 号 p. 93-98
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    2017年3月公示の新学習指導要領における中学校技術・家庭科技術分野の改訂内容をITEA/ITEEA や日本産業技術教育学会が提唱する技術リテラシー(技術的素養)の観点から検討した。その結果,技術分野の目標,内容の構成には,技術ガバナンス力育成と技術イノベーション力育成の両者がともに重視され,技術リテラシー(技術的素養)の概念が明確に位置づけられていることを指摘した。これらの考え方について技術科教員を対象に研修会を開催し,新教育課程に対する意識調査を実施した(n=80)。その結果,新学習指導要領と技術リテラシーの考え方との関連性については概ね高い理解が得られた。しかし,双方向性のあるコンテンツのプログラミングが追加された内容「D情報の技術」及び第3学年の最後に取り扱う「統合的な内容を含む問題解決」に対しては適切な教材の不足,指導時間数の少なさ等を理由に実践困難感を強く感じていた。これらの結果を踏まえ,新教育課程における授業デザインの方向性と実践上の課題について展望した。
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