本稿は,美的教育思想の体系的論述で知られるベネット・リーマーが1967年に作成した,一般音楽のためのカリキュラムである Development and Trial in a Junior and Senior High School of a Two-year Curriculum in General Music に着目し,そのカリキュラムの構造的特質に言及するものである。本カリキュラムは,必ずしも音楽を専門的に学んでいない生徒の「美的感受性」を涵養することを目的に,リスニングに特化したシステムを採用している。様々な音楽的アイディアを体感するための歌唱行為,創作行為は行われ得るが,それらはあくまでリスニングの補助として存在しているのである。リーマーが,音楽作品の構造的特徴を分析的に聴き取る能力を徹底して育もうとしていることがわかるだろう。そして,このようなリスニングへの固執は,音楽の構造が有する緊張感や安堵感,焦燥感などが,人間感情のそれと同様の性質を有するがために音楽を学ぶべきであるとするリーマーの美学に帰結する。本カリキュラムは,一貫した美学的論拠が通底させている点で,史的に特筆されるものであった。