日本教科教育学会誌
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37 巻, 3 号
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  • ESD(持続発展教育)を視点とした家庭科教育内容開発
    篠原 陽子, 越宗 久美子
    2014 年 37 巻 3 号 p. 1-11
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    小学校家庭科衣生活領域では,人と衣服との関係を児童に理解させるために,衣服素材や衣服の構造と人体生理との関係を教育内容として配置し,「衣服の着方」を通して理解させる。人が着用する衣服素材に求められる性能は,①保健衛生的性能(熱・水分移動特性),②強度・耐久性性能,③形態安定性能,④取扱い性能である。本研究では,①に関して,人体の熱バランスを保つために衣服素材には吸水性と乾燥性が必要であること,吸水性と乾燥性は衣服素材によって異なること,その理由を児童が明らかにするための新しい実験として,吸水・乾燥性連続試験を開発した。法則の発見,操作性,定量性,再現性,実験時間等の観点から,従来の試験法と比較し評価した。その結果,吸水・乾燥連続試験は,児童の着用場面(上着あるいは下着の場合)に即した条件を再現することができ,水の吸いやすさと乾きやすさは同時に必要な性能であることを学ぶことが可能となった。
  • 物理基礎「力と運動の法則」の単元を通して
    山中 真悟, 木下 博義
    2014 年 37 巻 3 号 p. 13-22
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,高等学校物理において,批判的思考の反省的側面を育成するための指導法を考案し,その効果を検証することを目的とした。この目的を達成するため,まず他者の思考に対して信頼度判断を行わせ,次に自身の思考に対して確信度判断を行わせるという段階的な指導法を考案した。考案した指導法の効果を検証するため,広島県内の私立高等学校1年生24名を対象に,物理基礎「力と運動の法則」の単元において授業実践を行った。その結果,質問紙およびワークシートの分析の結果から,批判的思考の反省的側面を育成することができたといえる。
  • 米国初等後期用教科書Philosophy for Kids の場合
    福井 駿
    2014 年 37 巻 3 号 p. 23-32
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿では,米国の初等後期用教科書Philosophy for Kids を取り上げ,そのカリキュラムの構成を分析し,特質を解明した。40の教育活動から編成されるPhilosophy for Kids は,各教育活動の構成を,概念の定義を取り上げて内省的に吟味する構造にすることによって,子どもたちが学習の中で概念の定義に関する問い-例えば,正しいとは何か-をみずから立てるようにしていた。そして,カリキュラムの内容として,哲学の主要な学問的領域それぞれから各教育活動のテーマとなる概念を選択し,その配列を,それらの概念を重層的に関連づけるものとしていた。このような構造によって,子どもたちが問いを連続させて我々が物事を理解する仕方を追求できるように編成していた。Philosophy for Kids の特質は,学習の目的を子どもたちが問いを立てることそのものとし,それを子どもたちがみずからできるようにしているところにある。哲学教育に関して,これまで考えられてきた思想を理解することのみにとどまるものを,自ら問いを立てて物事を理解する仕方の別の可能性を作り出す,新しいものに変化させている。このような新しい哲学教育は,従来の教科教育で行われてきた問いを立てることを手段とする学習とは違う,問いを立てることを目的とする学習の在り方を示している。
  • 池﨑 喜美惠
    2014 年 37 巻 3 号 p. 33-40
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    日本人学校の家庭科教育に関する一連の研究として,小学部と中学部の家庭科教師の消費者教育に対する指導意識や指導の実態について明らかにした。その結果,消費者教育の必要性の認識は高く,「意思決定能力」や「批判的思考力」を育成することをねらいと考えていた。また,教師は「教科書・指導書」「インターネット」などから指導する際の情報源を取得していた。 小学部教師は,「マークや品質表示」「ほしい物があるとき,どうすればよいか考えさせる」などの学習を取り上げていた。一方,中学部教師は「販売方法の利点や問題点」「情報収集や活用の重要性」「クーリング・オフなどの消費者保護」などについて指導していた。しかし,治安の問題により実践活動ができないこと,教師の消費者教育に関する専門的知識の不足,情報収集力の不足などが問題点としてあげられ,日本人学校特有の課題が垣間見られた。
  • 「児童の言語生態研究会」の実践を事例として
    秦 恭子
    2014 年 37 巻 3 号 p. 41-50
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    初等国語科における俳句創作は,五・七・五の定型や季語等の指導に止まりがちであり,自身の命と自然界の命との深い交感の一瞬を捉えるという俳句の本質へと導くための方法が十分に開発されていない。そのため本稿では,初等国語科における俳句創作の指導方法を探究するために「児童の言語生態研究会」の実践を考察した。「児童の言語生態研究会」は,指導の方法として「二つの事物の取り合せ」と「題詠」を用いている。一つ目の方法における要点は,二つの事物によって構成された絵画を示すことによって,二つの事物を取り合せて「ハッとする一瞬」を描き出すという俳句創作の本質を視覚的に理解させることである。また二つ目の方法における要点は,「雲の峰」など児童のイメージを活性化する季語を与えて創作させることである。考察の結果,児童の俳句創作を本質的なものに導いていくために,これらの方法が有効に機能することが明らかになった。
  • 秋山四郎編『中学漢文読本』『第一訂正中学漢文読本』の分析を通して
    西岡 智史
    2014 年 37 巻 3 号 p. 51-60
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は近代的な漢文教科書の草分けである金港堂刊・秋山四郎編『中学漢文読本』(明治27年初版・明治29年訂正再版)とその改訂版『第一訂正中学漢文読本』(明治33年初版・明治34年訂正再版)の分析を通して,近代的な漢文教育の形成過程を考察するものである。『中学漢文読本』と『第一訂正中学漢文読本』の比較から,教科書の改訂を通して学校制度に応じた学習内容の段階化が進められたことが指摘できる。また『中学漢文読本』の中国漢文教材は『史記』や『資治通鑑』『唐宋八大家読本』といった,旧来の漢文学習教材中心であったが,『第一訂正中学漢文読本』ではそれらが縮減され,代わって明代や清代の漢文などが加えられて内容の多様化が図られていた。そのため『第一訂正中学漢文読本』の方が近世漢学や明治10年代の「和漢文」科で用いられた丸本漢文教科書の内容から一段と脱却したといえる。
  • 金沢 緑, 松浦 拓也
    2014 年 37 巻 3 号 p. 61-69
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,小学校理科の学習指導案の作成を支援するツールとして,「授業設計・評価マトリクス」を開発し,その効果を検証することである。開発したマトリクスは,時間,能力,評価基準の3つを軸として構成した。調査協力が得られた20人の小学校教師を,10人ずつマトリクスを使用する実験群と,マトリクスを使用しない統制群とに分け,2回分の理科の学習指導案を収集した。両群とも,1回目は従前に作成した学習指導案,2回目は新たに作成した同学年,同単元の学習指導案を分析対象とした。その結果,実験群の2回目の学習指導案において,想定した児童の反応の記述数が有意に増加した。さらに,実験群では高いレベルの児童の反応を想定することができた。このことから,「授業設計・評価マトリクス」は,小学校理科の学習指導案の作成を支援するツールとして効果があることが実証された。
  • 汎用的能力の育成に向けて
    後藤 顕一
    2014 年 37 巻 3 号 p. 71-83
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    高等学校理科の新科目である理科課題研究は,自然に対する知的好奇心や探究心を高め,科学的な思考力・判断力・表現力の育成を図る観点から,探究活動を充実する科目として設定された。生徒自らが科学に関する課題を設定し,観察,実験などを通して研究を行い,科学的に探究する能力と態度を育てるとともに,創造性の基礎を培うことが目標である。理科課題研究は,諸問題に対して自ら問いを見いだし,より良き解決を図ろうとする力の育成,及び創造性を求めており,学習を通じてこれからの社会に求められる汎用的能力の育成への寄与が期待できる。本研究では,理科課題研究の学習過程と資質・能力の関係をまとめ,教科を横断するような汎用的能力である「判断力」や「表現力」,「人間関係形成力」や「社会参画・形成力」といった能力の育成に理科課題研究の学習がどのように寄与し得るのかについて検討した。学習過程のうち「課題研究の成果をまとめる」「評価する」といった学習場面に着目して具体的な学習活動を示した。「熟議」や「相互評価表を活用した取組」といった協働的な学習活動を取り入れた学習プログラムを考案し,協力校における試行実践では,「探究する能力や態度」のうち,判断力の要素と考えられる「種々の情報から適切な情報を選択する」,表現力の要素と考えられる「目的をもとに的確に整理し表すことができる」,人間関係形成力の要素と考えられる「相手の考えを聞く・自分の考えを伝える」力や社会参画力の要素と考えられる「目的を共有し手立てを合意し決定する」といった力の育成等が期待できる結果を得た。
  • 小学校2,3,4,5年生を対象として
    筒井 茂喜, 佐々 敬政, 日高 正博, 後藤 幸弘
    2014 年 37 巻 3 号 p. 85-98
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,小学2,3,4,5年生児童を対象として身体接触を伴う運動「組ずもう」の教育的効果を「攻撃的な感情の表出」の抑制,「身体への気づき」及び「筋出力の制御力」の観点から検討するとともにその学年差を明らかにした。すなわち,「組ずもう」の全8時間からなる授業の効果を「攻撃性質問紙調査」「自他の身体への気づき調査」「最大握力の二分の一発揮課題の正確性」によって把握した。その結果,「組ずもう」は,すべての学年において児童の「筋出力の制御力」を高めるともに「身体への気づき」を促し「攻撃的な感情の表出」を抑制することが認められた。また,この学習効果は,「攻撃的な感情の表出の抑制」「身体への気づき」「筋出力の制御力」のすべての側面において量的には2年生で大きく出現する傾向が認められた。
  • 考える主体を育成する「大人への条件」(小浜逸郎)の授業づくり
    辻 尚実
    2014 年 37 巻 3 号 p. 99-108
    発行日: 2014年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,評論文における学習者の「読み」を,筆者のものの見方や考え方にまで深めて考えさせ,自己の生き方において意味付けさせる指導法の開発を目指したものである。読者論的な観点から授業を構想し,アクション・リサーチに取り組んだ結果,以下の四つの授業仮説の有効性を確認することができた。1)学習者の考えを意識化させるために,評論文のテーマに関わる内容について自己の考えを書かせ,筆者や他の学習者の考えと関連付けさせたり,比較させたりすること,2)筆者のものの見方や考え方を読みとらせるために,筆者の理由づけを詳述させること,3)筆者の考え方を,自己の生き方において意味付けさせるために,現代社会の事象と関連付けて自己の考えを書かせること,4)評論文の読解を通じて学習者の認識を深化・拡充させるために,筆者の考えを軸として,自己の考えと他の学習者の考えとを比較させること。
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