日本教科教育学会誌
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41 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • ― 物理基礎「仕事とエネルギー」の単元を通して ―
    山中 真悟, 木下 博義
    2018 年 41 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,高等学校理科において,論証の枠組みを通して批判的思考態度の「合理的に思考しようとする態度」を育成するための指導法を考案し,その効果を検証することを目的とした。この目的を達成するため,単元の学習において「I:『論証カード』を用いて,論証の枠組みを理解させる」「Ⅱ:その後の観察・実験場面において,獲得した論証の枠組みを用い,生徒同士で論証の相互分析を行わせる」という指導法を考案した。 考案した指導法の効果を検証するため,広島県内の公立高等学校2年生75名を対象に,物理基礎「仕事とエネルギー」の単元において授業を行った。その結果,質問紙およびワークシートの分析の結果から,考案した指導法により,合理的に思考しようとする態度を養うことができたといえる。
  • 宮本 樹, 木下 博義
    2018 年 41 巻 1 号 p. 11-21
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,高等学校化学において,生徒による主体的なメタ認知を育成するための指導法を考案し,授業実践を通してその効果を検証することを目的とした。この目的を達成するため,「チェックシールを用いて生徒のモニタリングを活性化するとともに(step1),他者との話し合い活動の中で自分の行った活動の振り返りを行わせ,次時での活動の改善につなげる(step2)」という一連の指導法を考案した。そして,考案した指導法の効果を検証するため,高等学校1年生81名を対象に,「化学反応と熱・光」の単元において授業実践を行った。その結果,考案した指導法は,実験中のメタ認知のうち,生徒が主体的に実験方法を理解したりその方法を点検したりするモニタリング,行動の修正を行うコントロールの育成に寄与することが示唆された。
  • ― 鹿児島県における実践を中心に ―
    原田 大樹
    2018 年 41 巻 1 号 p. 23-34
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿では昭和30年代の共通語指導が国語学力に与えた影響について検討した。先行研究では,共通語指導は,コミュニケーションの不通性を解消するものとして熱心に行われたことが明らかになっている。しかし,共通語を学ぶことは,国内におけるコミュニケーションの不通性を解消する目的をもちながら,国語の学力と大きく関係していたのである。とりわけ,語彙力と関係の深いものとして捉えられていた。また,意欲,それに伴う学習能率とも関係のあるものとして捉えられている。つまり,共通語指導を行うことは,学習活動の効率化と学力そのものの向上という二つの方向性でその目的が語られ,実践されていたのである。また,それらの効果を図るためのペーパーテストも実施され,体系的に指導を行おうとしていたことがわかる。
  • ― TAの経験はアイデンティティ形成にどのように影響を与えるか ―
    岩田 昌太郎, 草原 和博, 川口 広美
    2018 年 41 巻 1 号 p. 35-46
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,以下3つの問題に答えることを目的とした。(1)研究系大学院に学ぶ博士課程の大学院生が,「教科教育法」のTA を経験することで,どのように成長していくのか。(2)(1)の成長は,どのような条件で促進または阻害されるのか。(3)TA の経験を持つことは,大学院生にとってどのような意味を持つのか。以上の考察に基づいて,本稿の掲げた3つの問いに答えたい。その結果,以下の3点が明らかとなった。①大学院生は,TA を経験することで,それぞれ個性的な成長のパターンを示した。大きくは,教師教育者としてのアイデンティティを軸に展開していくもの(大学院生A),研究者としてのアイデンティティを軸に展開していくもの(大学院生B),経験を通して教師教育者・研究者としてのアイデンティティ構築にむかうもの(大学院生C)である。②①の差異は,アイデンティティとその確立の程度に由来していた。また①の成長は,教育実践上のつまずきや悩みで促進されていた。③ TA の経験は,将来,研究者と教師教育者の両方の能力が要求される教科教育学を学ぶ大学院生に,両者を自発的に架橋していく機会を与える点に意味がある。
  • ― 学年段階と年代に焦点をあてて ―
    村井 隆人
    2018 年 41 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,近年増加しつつあるといわれる説明的文章の批判的読みの授業実践の展開を明らかにし,その成果と課題を明らかにすることである。1995年から2014年までの授業実践を分析した結果,論証の中でも事実を批判する実践が重視されていること,高学年以降は修辞も重要な対象となり,質的な変化が中学校でみられることが確認できた。2005年以降の展開としては,全体的な傾向は変わらないものの,中学校における実践の増加と多様化が確認できた。実践の増加については,PISA 調査とそれを受けた一連の教育政策の影響が一因として考えられた。多様化については,指導のしやすい対象の実践がみられるようになったことや,批判的思考研究の知見の受容が要因として考えられる。授業実践の課題として,事実への批判に留まりがちで論拠を対象とした実践が望まれること,批判的読みにおいて重要となる合理性と反省性の統合という観点からメタ認知的能力を扱った実践が少ないことを指摘した。これらの課題を受けて,論拠やメタ認知を扱った実践の特徴を分析し,授業実践の展望とした。
  • 保森 智彦
    2018 年 41 巻 1 号 p. 59-71
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究では,経験年数の異なる小学校教師のPCK の3側面である教材内容,子ども,指導方略に関する知識の特徴を明らかにし,教師の熟達化を支援するための知見を得ることを目的とする。調査対象は,経験年数の異なる小学校の教師(A:勤務経験4年,B:12年,C:21年)であった。調査方法は次の通りである。(1)3名の現職教師に自分の算数の授業VTR を視聴してもらい,インタビューを行った。(2)三島(2007)の授業・教師・子どもイメージに関する質問紙調査を行った。その結果は次の通りである。(1)教師A と教師B は教師中心の発話が多く,教師C は学習者中心の発話が多かった。(2)教師A と教師B は児童を非創造的と捉え,信頼感が低く,教師C は信頼感が高かった。これらの知見を踏まえ,教師の熟達化を支援するマトリクスを開発した。
  • 渡邉 政寿, 大場 浩正
    2018 年 41 巻 1 号 p. 73-84
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本研究は,日本人高校生の英語作文力が4か月間の教室内英語多読を経てどのように変化するかを調査したものである。「多読+ 英作文(ERW)」群と「多読のみ(ER)」群に分け,事前・事後に作文力と読解力テストを実施した。研究課題は,(1)教室内英語多読によって英語作文力が向上するか,(2)もし向上するなら,どの側面(内容,論理・構成,語彙,言語使用,句読点等の形式)か,及び(3)英語作文力のどの側面が英語読解力と読了語数に関連があるかであった。分析の結果,英語作文力の下位群では多読後に「句読点等の形式」以外において有意な伸長が認められた。また,ERW 群で「言語使用」,ER 群では「語彙」において英語作文力と読解力との相関がより強まり,指導法による差が認められた。更に,読了語数よりも読解力が英語作文力に影響を与えること,及び英作文評価観点の5項目にはそれぞれ「読解力」の有意な影響があることが判明した。
  • ― 文系大学生の授業実践を通して ―
    井上 秀一
    2018 年 41 巻 1 号 p. 85-94
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    学士課程の修了にあたって求められる能力として,中央教育審議会が取りまとめた「学士力」,経済産業省が提唱する「社会人基礎力」等がある。これらに共通する部分に問題解決力があるが,学士課程の数学教育では文系の大学生に対して問題解決力の育成には目が向けられてこなかった。本研究は,初年次教育や教養課程において,問題解決力を涵養する教育の枠組みに数学的モデリングを位置付け,現実の世界から「問いを発見し,問いを立てる」ことを盛り込んだ数学的モデリングの授業デザインを作成し,それをもとに,アクティブ・ラーニングの学習形態で学生が主体的に取り組む授業を行った。その結果,学生の現実世界の問題に対する意識が高まり,新たな問題に生き生きと積極的に取り組み,協働で活動する姿勢が随所で見られた。本研究の成果を報告する。
  • ― SCIS の取り組みに着目して ―
    大貫 守
    2018 年 41 巻 1 号 p. 95-105
    発行日: 2018年
    公開日: 2020/01/26
    ジャーナル フリー
    本稿では,米国の科学教育研究者であるロバート・カープラスの科学教育論について,彼が設立したSCIS プロジェクトの取り組みに即して検討を行った。カープラスは,一般教育として科学的リテラシーを育てることを目標に科学教育を展開していた。そこでは,ピアジェの知的発達の段階を踏まえ,対象を捉える概念・説明的概念・解釈的概念を軸としてカリキュラムを構築していた。指導過程については,ピアジェの均衡化とクーンの理論転換の理論をもとに児童自身の観察と解釈,概念を用いた再解釈の過程を重視し,指導方略として学習サイクルを提案していた。それにより,前概念から科学的に適切な概念への変容や,知的発達を促すような教師の働きかけが可能になっていた。これらを通して,児童が科学的概念を習得し,身の回りの現象の解決に向けて適切な概念を抽象的に操作できる力を養っていた。
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