本論文では,比較の主体を中国に客体を日本に,比較の主題を初等理科教育として,比較教育的アプローチを通し,中国の初等理科教育の特性についてより理解し,また,今後のあるべき姿を探究し示唆を得るための基礎的資料や情報を得ることを目的とした。このため,まず,両国のカリキュラムを教育目標,教育内容,授業時数,評価の観点の4つの視点から比較した。さらに,特に両国で共通の学習内容が多いB区分「物質とエネルギー」を対象に学力調査問題を作成し,実施した。この学力調査問題は,知識I(機械的な知識の再生),知識II(複数の知識の適用),実験技能(実験とそれに付随して必要な技能)の3つの要素から構成されたものであった。結果として,知識Iについては,両国の得点に有意な差が認められなかったが,知識II及び実験技能では,日本の得点が有意に高いことが明らかとなった。この原因については。「カリキュラム」の比較調査から(1)中国の授業時数は日本より少ないにもかかわらず,学習内容が日本より多く,さらに,観察・実験場面で既習した知識を活用することが少ない,(2)中国では,日本よりもより「教える」という側面が重視され,「子どもが自分で考える」ということが希薄であるという2点が推察される。
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