日本臨床免疫学会会誌
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30 巻, 1 号
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総説
  • 布井 博幸
    2007 年 30 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
      慢性肉芽腫症の活性酸素産生異常について,これまで,活性酸素を生成するNADPHオキシダーゼが欠損していること,その酵素は食細胞膜のgp91phox, p22phoxと細胞質のp67phox, p47phox, p40phox, racp21から構成され,刺激により細胞膜で会合し,活性化されることが明らかにされた.この十年で,以下の2つの大きな発展があった.
      一つは2000年に入ってから,この酵素の本体であるgp91phoxのホモログであるNOXファミリーや,p67phox, p47phoxホモログも発見されたことである.今後種々の臓器でこの酵素群が活性酸素産生制御に関わり,各臓器の生理作用への影響が検討されることになる.
      もう一つは,慢性肉芽腫症の根治療法として骨髄移植が1990年代から開始され,移植技術の進歩と相まって,骨髄非破壊的移植法が用いられ移植成績が向上していることと,これまで期待されていた遺伝子治療の成功が治療前処置の導入により2006年に報告がされたことである.この成功により,慢性肉芽腫症治療法のさらには遺伝性疾患の治療選択を広げようとしている.
  • 谷内江 昭宏
    2007 年 30 巻 1 号 p. 11-21
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
      ヘムオキシゲナーゼ(heme oxygenase ; HO)はヘム代謝に関わる酵素であると同時に,細胞を酸化ストレスによる傷害から守る細胞保護蛋白である.HOの内,誘導酵素であるHO-1を欠損する症例の病態解析により,このようなHOの働きが特定の細胞の保護にとどまらず,多様な組織や臓器における細胞保護に関与していることが示された.また,腎組織や腎由来細胞株を用いた検討では,HO-1蛋白が特定の細胞に局在していること,それらの細胞ではHO-1産生が特に重要な意味を持つことが示唆された.さらに末梢血単球を用いた解析では,特定の単球亜群で恒常的にHO-1蛋白が発現していること,これらの単球が急性炎症疾患で増加することが示され,単球/マクロファージによるHO-1産生が炎症制御に重要な役割を果たすことが明らかとされた.一方で,HO-1遺伝子導入により過剰にHO-1蛋白を発現させた場合には,むしろ細胞傷害を促進する可能性があることも示され,生体内ではHO-1産生の局在や量が巧妙に制御されていることが示唆された.最近の報告では,HO-1蛋白が制御性T細胞による免疫制御に深く関わっている可能性も示されており,HO-1産生の誘導を標的とした介入が多様な炎症性疾患に対する新たな治療戦略の一つとして期待される.
  • 末松 綾子, 高柳 広
    2007 年 30 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
      骨格系と免疫系は,サイトカイン,シグナル分子,転写因子や膜受容体などの多くの制御分子を共有し,非常に密接な関係にある.関節リウマチ(RA)における炎症性骨破壊研究の発展が,両者の融合領域である骨免疫学に光をあてた.その後,種々の免疫制御分子の遺伝子改変マウスに骨異常が見い出され,骨免疫学の重要性が浮き彫りとなった.骨と免疫系をつなぐことになった最も重要な分子である破骨細胞分化因子(RANKL)は,破骨細胞分化を制御する中心的なサイトカインである.骨免疫学はRANKLを中心とした研究からRA骨破壊のメカニズムの解明や骨免疫疾患の新しい治療戦略にますます重要になっている.ここでは,免疫系と骨軟骨細胞のクロストークについて概説し,T細胞が産生する制御因子による破骨細胞分化制御,破骨細胞分化マスター転写因子NFATc1の同定,免疫グロブリン様受容体群を介したRANKL共刺激の発見やカルモジュリンキナーゼ(CaMK)による破骨細胞分化および機能の制御などの最新の知見を紹介する.
  • 黒坂 大太郎
    2007 年 30 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
      全身性エリテマトーデス(SLE)においてT細胞のテロメラーゼ活性は活動期,非活動期どちらにおいても高い.一方,B細胞のテロメラーゼ活性は活動期においてのみ異常に高い.また,正常群と比べてT細胞のテロメア長は短く,B細胞のテロメア長は変わらない.このことからSLEのT細胞は常時活性化しているが,疾患の顕在化にはそれだけでは不十分で,B細胞の活性化が重要であると考えられた.SLEの臨床症状を抑えるだけならば,B細胞の抑制だけで十分かもしれない.しかしながら,本質的な治療を行う為にはT細胞をもターゲットに入れた治療が必要であると考えられた.近年SLEの治療に各種生物製剤が用いられ始めている.今後,このような生物製剤を用いた場合の各リンパ球におけるテロメラーゼ活性の動向は興味深い.SLEに対する生物製剤を用いた治療戦略を組み立てる際に,各リンパ球におけるテロメラーゼ活性の測定は,適切なターゲット細胞の設定,治療薬の選択,治療効果の判定などに有用となると考えられた.
  • 川上 純, 玉井 慎美, 江口 勝美
    2007 年 30 巻 1 号 p. 37-40
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
      近年の臨床研究で関節リウマチの予後は早期からの治療介入により改善し,かつ,生物学的製剤の早期治療では約半数の症例で臨床的寛解が得られることが明らかとなった.すなわち関節リウマチの早期診断および早期からの適切な治療法の選択は極めて重要である.私たちは早期関節炎の前向き症例対照研究により,初診時に抗CCP抗体およびMRIでの骨髄浮腫が陽性の早期関節炎は,高率に関節リウマチに進展することを明らかにした.これら臨床的評価に加え遺伝学的解析も含めた早期関節炎の層別化を試みており,これらのデータをもとに早期関節炎の捉え方と病態解析の方向性について述べる.
原著
  • 山本 元久, 高橋 裕樹, 小原 美琴子, 鈴木 知佐子, 苗代 康可, 山本 博幸, 篠村 恭久, 今井 浩三
    2007 年 30 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
      近年,関節破壊をきたす病態において,血清cartilage oligomeric matrix protein (COMP)の測定が可能となり,軟骨破壊を反映する新規マーカーとして注目されている.今回,リウマチ性疾患に対する血清COMPの診断能を評価し,その上でインフリキシマブ(IFX)を投与した関節リウマチ(RA)症例を対象に,1年間の治療による軟骨破壊抑制効果を,10例の治療前後の血清COMP濃度と6例のSharp scoreの変化(ΔSharp)で評価,解析した.血清COMP濃度は,投与前の平均23.04±7.14 U/lから治療後は8.69±2.89 U/lまで低下した.またこの期間のΔSharpは0.17±9.62点であった.このうち軟骨の画像上の変化を反映する,関節裂隙狭小化スコアの変化(ΔSharp-JNS)は−0.50±6.38点であった.当初,これらの症例ではIFXと併用されているメトトレキサート(MTX)の効果も加味されていると考え,参考としてMTX単独治療群(CRP陰性化群およびCRP陽性群)も合わせて評価したが,これらの群では血清COMP濃度およびΔSharp-JNSの低下は認められなかった.このことからIFX治療自体が軟骨破壊を抑制し,血清COMP濃度がその治療効果判定マーカーとして,有用である可能性が示唆された.
症例報告
  • 小原 美琴子, 高橋 裕樹, 鈴木 知佐子, 山本 元久, 苗代 康可, 山本 博幸, 嵯峨 賢治, 篠村 恭久, 今井 浩三
    2007 年 30 巻 1 号 p. 48-54
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
      症例は52歳女性.1984年,腰背部などに皮疹を認め,当院皮膚科を受診,生検にて深在性エリテマトーデス(LEP)と診断された.中等量のプレドニゾロン(PSL)にて治療中の2003年10月に腹痛・発熱・粘血便が出現し,当院緊急入院となった.抗DNA抗体上昇・血清補体価低下と腹部CT上,腸管壁の浮腫性変化を認め,ループス腸炎と診断し,ステロイド大量投与を開始した.一過性の改善をみたが,第24病日より再び下血をきたし,下部消化管内視鏡検査にて直腸に深掘れ潰瘍が認められた.注腸造影検査上,穿孔も疑われ,第50病日直腸切除および人工肛門造設術施行となった.病理組織学的に漿膜下層まで組織が欠損し,血管には炎症細胞浸潤がみられたため,大腸病変の原因として血管炎が示唆された.2004年11月には再発なくPSL 10 mg/日まで減量となり,2005年2月に人工肛門閉鎖術施行後も順調な大腸機能の回復をみた.一般にDLEに合併する全身性エリテマトーデス(SLE)は軽症とされるが,本例はLEPから重篤なループス腸炎・腸潰瘍を伴ったSLEに移行した稀な一例であった.SLEの消化管病変に対しては,腹部外科医との密接な連携により外科治療も念頭においた慎重な経過観察が必要であると考えられた.
  • 越智 小枝, 南木 敏宏, 駒野 有希子, 鈴木 文仁, 小川 純, 杉原 毅彦, 長坂 憲治, 野々村 美紀, 萩山 裕之, 宮坂 信之
    2007 年 30 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
      全身性エリテマトーデス(SLE)の経過中に発熱・嘔吐・下痢と共に激しい頭痛を生じ,MRIにて肥厚性硬膜炎と診断された1例を経験したので報告する.症例は34歳女性,1985年にSLEと診断された.2002年8月に発熱・頭痛が出現し緊急入院.頭部挙上にて増悪する激しい頭痛および難聴をみとめた.検査所見にて抗ds-DNA抗体上昇,血小板減少,またMRI上硬膜の肥厚をみとめたためSLEに伴う肥厚性硬膜炎と診断した.副腎皮質ステロイド薬によるパルス療法とその後の副腎皮質ステロイド薬大量投与により臨床症状,検査所見共に軽快した.本症例は起立時に頭痛・難聴が増悪する所見があり,臨床症状において低髄圧症候群との鑑別を要した.SLEに肥厚性硬膜炎を合併する症例は稀であり,興味深い1例と考えられた.
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