日本東洋医学雑誌
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66 巻, 3 号
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原著
  • 大平 征宏, 齋木 厚人, 山口 崇, 今村 榛樹, 佐藤 悠太, 番 典子, 川名 秀俊, 南雲 彩子, 龍野 一郎, 小菅 孝明, 秋葉 ...
    2015 年 66 巻 3 号 p. 191-196
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    以前我々は減量手術後に易怒性から過食,リバウンドした症例を抑肝散が改善させたことを報告し,肥満症患者の精神面に対する漢方治療が有用である可能性を提唱した。今回,頻用されている減量治療薬および抑肝散の減量治療に対する効果を比較した。
    当院で減量治療目的にマジンドール,防風通聖散または易怒性を指標に抑肝散を投与された肥満症患者107例を後ろ向きに検討した。
    投与3ヵ月後,マジンドールおよび抑肝散で有意な体重減少を認めた。糖代謝への影響を糖尿病患者のみで検討した。HbA1c の改善はいずれの群においても有意差は認めなかった。
    肥満症の減量治療にはメンタルヘルスの問題が重要であり,患者の精神面を意識した漢方治療は有効であることが示唆された。
  • 萬谷 直樹, 岡 洋志, 佐橋 佳郎, 鈴木 理央, 綾部 原子, 鈴木 まゆみ, 神山 博史, 長田 潤, 木村 容子, 伊藤 隆
    2015 年 66 巻 3 号 p. 197-202
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    甘草による偽アルドステロン症の頻度については十分にわかっていない。われわれは甘草の1日量と偽アルドステロン症の頻度の関係について,過去の臨床研究を調査した。甘草を1日1g 使用した患者での偽アルドステロン症の頻度は1.0%(平均)であった。1日2g,4g,6g での頻度はそれぞれ1.7%(平均),3.3%,11.1%(平均)であった。過去の文献において,偽アルドステロン症発症頻度の用量依存的な傾向が示唆された。
臨床報告
  • 沢井 かおり, 渡辺 賢治
    2015 年 66 巻 3 号 p. 203-207
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    防風通聖散はメタボリック症候群の治療薬として広く知られている。精神科領域では合併症としての肥満治療に用いられるが,精神症状そのものに主方として奏効した報告はほとんどない。
    症例は63歳のうつ病男性で,主訴は抑うつ症状である。特にきっかけなく抑うつ症状が増悪し,本が読めず好きな読書を楽しめなくなった。男性更年期を疑い,漢方治療を希望して受診した。やや実証,やや熱証,気滞,血虚と診断し,排便困難感を重視して防風通聖散を開始した。8週後本が読めるようになり,3ヵ月後には読書やテレビに集中できるようになった。その後下痢傾向になったため内服を漸減し,10ヵ月後終診となった。
    防風通聖散は,肥満治療のみならず,証によっては精神症状そのものに応用できる可能性が示唆された。
  • 韓 哲舜, 関矢 信康, 岡本 英輝, 平崎 能郎, 植田 圭吾, 八木 明男, 並木 隆雄
    2015 年 66 巻 3 号 p. 208-211
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    69歳男性。視力視野障害を契機に手術適応のある左緑内障と診断された。点眼薬による治療を受けるも左眼圧が降下しないため,漢方治療を希望して当科初診となった。初診時左眼圧は27mmHg であった。腹部に著明な鼓音を認めたことから半夏厚朴湯を処方した所,1ヵ月後の左眼圧は22mmHg と改善し,さらに腹部の鼓音が消失していた。投与開始から2年後にあっても左眼圧は概ね正常範囲内で推移しており,手術には至っていない。いくつかの眼圧上昇機序において,本症例は交感神経が優位な状態であった可能性があり,半夏厚朴湯はそれらに作用することで眼圧を低下させた可能性が示唆された。また半夏厚朴湯単方が眼圧降下に有効であった報告は見られず貴重と思われた。
  • ―最近経験した自覚症状の乏しい症例から―
    及川 哲郎, 五野 由佳理, 福田 知顕, 堀川 朋恵, 堀田 広満, 森 裕紀子, 川鍋 伊晃, 石毛 達也, 小田口 浩, 若杉 安希乃 ...
    2015 年 66 巻 3 号 p. 212-217
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    漢方薬による薬物性肝障害の報告例が増えているが,その多くは黄疸などの症状で気付かれ,あるいは自覚症状はない場合でも,入院を要する高度肝機能異常を健診などで指摘される例が多い。われわれは,最近の当施設初診患者から,漢方薬による薬物性肝障害(処方は黄連解毒湯,柴胡桂枝乾姜湯,防風通聖散料)を疑われた症例を3 例見出した。これらの症例はいずれもALT100IU/l 以下で,副作用に直接関連すると思われる自覚症状を認めず,血液検査を行わなければ発見できなかった。いずれも休薬することにより,肝障害は改善・正常化した。黄芩含有処方については,無症状であっても常に肝障害を見逃さないよう注意を払い,服用中は定期的に採血を行っていくことが重要と考える。
  • 前田 ひろみ, 伊藤 ゆい, 吉永 亮, 土倉 潤一郎, 上田 晃三, 井上 博喜, 矢野 博美, 犬塚 央, 山口 昌俊, 藤野 昭宏, ...
    2015 年 66 巻 3 号 p. 218-222
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    ばね指は,手のA1輪状靭帯の部位に狭窄を生じ円滑な指屈伸動作が阻害されることにより発症し,西洋医学的には消炎鎮痛剤,ステロイド剤注入,手術等で治療される。今回温経湯が奏効したばね指の3症例を報告する。症例1は71歳女性。腹部膨満感に対して漢方治療中に右第3指のばね指を発症し,口唇乾燥と手足のほてりを認めた。 症例2は56歳女性。手指の多関節痛に対して漢方治療中に左第4指のばね指を発症し,手のほてりを認めた。症例3は71歳女性。慢性腎不全で加療中に,左第1指のばね指を発症した。手のほてりや口唇乾燥を認めなかったが,皮膚の枯燥感を認めた。温経湯は,手掌煩熱や口唇乾燥を使用目標としており,補血・駆瘀血作用や抗炎症作用,滋潤作用を有する生薬で構成されている。温経湯のこれらの作用が,ばね指改善に寄与した可能性がある。
  • 石川 利博
    2015 年 66 巻 3 号 p. 223-227
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    向精神薬,特にベンゾジアゼピン系薬による依存が問題になってきている。これまで,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors;SSRI)のような代替薬がベンゾジアゼピン系薬に置換できるのではないかと示唆されてきた。今回,向精神薬を柴胡桂枝湯,柴胡桂枝乾姜湯,帰脾湯,加味逍遥散,柴胡加竜骨牡蛎湯などの漢方薬に置換しえた神経症の2症例を報告する。2症例はベンゾジアゼピン系薬を中止する際,症例1は反跳が,症例2は離脱症状と症状再発が出現した。これらの症状は徐々に解消していったが,漢方薬もまたその役を担ったと思われる。漢方治療はベンゾジアゼピン系薬などの向精神薬の代替療法になりうることが示唆された。
  • 木村 容子, 黒川 貴代, 永尾 幸, 山﨑 麻由子, 杵渕 彰, 佐藤 弘, 伊藤 隆
    2015 年 66 巻 3 号 p. 228-235
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    不眠に補中益気湯が有効であった7症例を経験した。内訳は,補中益気湯を就寝前に服用した2例,補中益気湯の服用のみで不眠が改善した3例,補中益気湯を追加した2例であった。全症例において「浅い眠り」の訴えがあり,疲れやすい・食後の過度の眠気・日中の眠気など気虚による所見を認めたが,食欲不振などの「胃腸症状は顕著でない」ことが共通していた。また,7例のうち5例では補中益気湯により朝の目覚めが改善した。不眠に用いられる酸棗仁湯と帰脾湯は,いずれも気と血を補う処方であるが,帰脾湯は脾胃や心を補う生薬を多く含み,より虚証に用いるべきと考えられた。
    疲れやすい・食後の過度の眠気・日中の眠気など「気虚による症状が顕著」であるにもかかわらず,動悸・胸騒ぎ・驚きやすい・健忘・貧血・出血など「心の異常による血虚の症状に乏しい」場合には,浅い眠りや朝の目覚めの改善に補中益気湯が有効であると考えられた。
  • 土倉 潤一郎, 前田 ひろみ, 伊藤 ゆい, 吉永 亮, 井上 博喜, 上田 晃三, 矢野 博美, 犬塚 央, 益田 龍彦, 藤野 昭宏, ...
    2015 年 66 巻 3 号 p. 236-243
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    一般に黄連湯を皮膚疾患に対して使用することは稀である。今回,「上熱中寒」を参考にして,黄連湯を顔面紅斑 ・紅潮に用い,有効であった5例を経験した。「上熱」や「中寒」に関して,具体的な症候はこれまであまり報告されていないが,「温まると悪化する顔面紅斑・紅潮」「赤ら顔」「ほてり」「のぼせ」「舌の黄苔」を「上熱」,「温かい飲み物を好む」「冷たい飲み物で下痢が悪化する」「他覚的な心下の冷感」を「中寒」と考えることで,黄連湯を皮膚疾患に応用することが可能であった。
  • 伊藤 隆, 木村 容子, 大田 静香, 山本 昇伯, 須田 憲男, 中澤 一弘
    2015 年 66 巻 3 号 p. 244-249
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    こむら返りに対する芍薬甘草湯の効果は知られているが,近年,偽アルドステロン症の副作用が多く報告されている。こむら返りに用いることのできる漢方製剤で,甘草を含まないものが期待されている。今回,こむら返り患者26例(平均年齢70.7 ± 12.1歳)に対して,甘草を含まない漢方製剤である四物湯エキスを投与したところ,改善18例(69%),不変8例(31%)であり,前者の腹力は後者よりも推計学的に有意に低い結果であった。また,特に今回の有効例のうち,代表的な4例について詳述した。四物湯は貧血様症状に用いられてきたが,こむら返りには用いられて来なかった。四物湯は,芍薬甘草湯と同等の有効率であり,実証ではない高齢者で緊急性が求められない場合にはより用いられてよい方剤と考えられる。
  • 森 裕紀子, 鈴木 邦彦, 及川 哲郎, 花輪 壽彦
    2015 年 66 巻 3 号 p. 250-255
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/11/05
    ジャーナル フリー
    白朮附子湯は『傷寒論』に「風湿相摶身體疼煩」1)と記載があるが報告は少ない。今回梅雨時に発症した四肢の痛みの再発例に対して白朮附子湯が著効した症例を経験した。症例は45歳女性。X-1年6月に,両手足の痛みとしびれが出現し暖まると痛みは改善し,疲れると痛みは増し筋肉痛のようなだるさがある。1年半前に同じ症状で主に駆瘀血薬を1年間服用し症状が消失していた。前回同様に瘀血所見が強く駆瘀血薬を処方したが症状は消失しなかった。以前の痛みの発症も梅雨時だったことに注目し,表湿に冷風が加わり生じた痛みと考え白朮附子湯に転方したところ2週で痛みは消失した。翌年6月も痛みが再発し白朮附子湯を処方し11日で治癒した。痛みの性質と発症時期から初診時の痛みも湿による痛みだったと推測する。梅雨時に発症する痛みは,冷房設備の整った環境で生活する現代において今後増える病態であり,白朮附子湯は考慮すべき処方の1つである。
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