エンドセリン受容体拮抗薬であるボセンタンは,全身性強皮症に伴う皮膚潰瘍の新規発症を有意に減少させる効果があることが2つの良質な無作為化二重盲検試験で明らかにされている。また,同薬は全身性強皮症の血管障害に対して疾患修飾作用を有している可能性が示唆されている。今回我々は,ボセンタンが全身性強皮症の血管障害に及ぼす作用の分子メカニズムの一つを明らかにすることを目的に,培養皮膚微小血管内皮細胞と強皮症血管障害モデルマウス(Fli1
+/- マウス)を用いて検討を行った。一連の研究結果により,(1)皮膚微小血管内皮細胞において ET-1 刺激は “c-Abl-PKC-δ” 経路を介して Fli1 をリン酸化してその DNA 結合能を低下させ,かつ分解を促進することにより蛋白発現量を低下させること,(2)ボセンタンは autocrine ET-1 刺激を阻害することにより,皮膚微小血管内皮細胞において Fli1 のリン酸化を阻害し,その DNA 結合能と蛋白発現量を亢進させること,(3)ボセンタンは in vivo においても皮膚微小血管内皮細胞における Fli1 の発現量を亢進させ,Fli1 依存性の血管障害を改善させる作用があること,が明らかとなった。全身性強皮症では転写因子 Fli1 の発現がエピジェネティック制御を介して恒常的に抑制されており,その発現異常が強皮症の病態に深く関与している可能性が示唆されているが,今回の検討結果は転写因子 Fli1 の発現異常の是正が本症の治療戦略の一つとなり得る可能性を示唆している。(皮膚の科学,増22: 1-6, 2015)
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