70歳,男性。角膜潰瘍の治療目的で当大眼科に入院中の2011年1月下旬より,四肢に紅斑と水疱が多発し1月24日当科を紹介受診した。患者皮膚切片の病理組織検査で表皮下水疱を認め,蛍光抗体直接法では表皮基底膜部に IgG,C3 が線状に沈着していた。正常ヒト皮膚切片を用いた蛍光抗体間接法で患者血清中の IgG 抗表皮基底膜部抗体が検出され,それは 1M 食塩水剥離皮膚を用いた蛍光抗体間接法で表皮側に反応した。また,BP180 ELISA が高値を示し水疱性類天疱瘡と診断した。一方,初診時に全身に敷石状の鱗屑の付着がみられたため,X連鎖性劣性魚鱗癬を疑い,ステロイドサルファターゼ(STS)遺伝子欠失に関する fluorescence in situ hybridization(FISH)法を施行したところ,STS 遺伝子領域(Xp22.3)に欠失を認め,X連鎖性劣性魚鱗癬と診断した。X連鎖性劣性魚鱗癬は,STS 遺伝子の近傍に存在する遺伝子群を付帯して欠損することにより,角膜疾患,点状軟骨異形成,精神発達遅滞やてんかん,性腺発育障害など多様な疾患を合併することが知られているが,自験例のような水疱症の合併は極めてまれである。国内外の先天性魚鱗癬と水疱症の合併報告は自験例を含めて5例のみであり,そのうちX連鎖性劣性魚鱗癬に合併した水疱性類天疱瘡は自験例のみであった。両者の合併が偶発的なものか関連性があるのかについては,今後の同様症例の集積による検討を待ちたい。(皮膚の科学,14: 12-16, 2015)
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