高齢者施設の看護職員および介護職員が皮脂欠乏症やその治療方法に関する正しい知識を学習する機会をもつことで,入居者の皮膚の状態に対する意識や行動が変化し得るか否かを検討するため,スキンケア教育研修とその前後におけるアンケート調査を実施した。アンケートの回答者数は,看護職員が11名,介護職員が58名であった。調査の結果,介護職員では保湿剤の塗布方法に関する理解度が向上し,入居者の皮膚の状態を観察する回数や保湿剤の塗布量,乾燥・痒みの程度を確認する回数が増えた。看護職員においても保湿剤の塗布方法に関する理解度の向上がみられた。さらに,半数近くの看護職員が入居者の皮膚に対する介護職員の関心の高まりや医師・介護職員との連携の改善を実感した。以上より,高齢者施設に勤務する職員に対してスキンケアに関する教育研修を行うことで,受講者の意識や行動に好影響を及ぼし得ることが示された。 (皮膚の科学,18 : 1-14, 2019)
症例は60歳代,女性。インフルエンザ A 型罹患時に,市販の総合感冒薬であるベンザ○R ブロック○R L 錠を内服し 3 日後に全身に皮疹が出現した。全身に融合傾向を示すびまん性紅斑があり,両眼瞼腫脹,眼球結膜充血や口唇びらんも認めた。臨床的症状からは Stevens-Johnson 症候群を疑ったが,皮膚病理組織検査では表皮の壊死性変化は乏しく,多形紅斑と診断し,ステロイド投与にて加療を行い症状は軽快した。症状改善後にベンザ○R ブロック○R L 錠のパッチテストを行い,陽性を示した。さらにベンザ○R ブロック○R L 錠の成分およびその成分を含む薬剤でパッチテストを行い,今回の多形紅斑の原因成分を塩酸プソイドエフェドリン(PSE)と同定した。ベンザ○R ブロック○R L 錠と PSE を含有するディレグラ○R 配合錠の薬剤リンパ球刺激試験は陰性であった。今日 PSE の使用頻度が高くなってきており,PSE による薬疹の増加が予想される。このような薬疹が生じた場合,原因成分を同定することが患者の今後の薬剤選択において重要であると考える。 (皮膚の科学,18 : 15-21, 2019)
80歳代,女性。既往歴 : 高血圧, 2 型糖尿病。関節リウマチに対して,メトトレキサート(以下MTX)を 3 年前から内服していた。初診 4 日前に四肢体幹に瘙痒を伴う浸潤性紅斑が出現し, 2 日後に口腔内の疼痛で食事摂取不良となった。初診時,四肢体幹に浸潤性紅斑と口腔内にびらんが多数あり,血液検査では汎血球減少と腎機能障害があった。病理所見では,液状変性と真皮浅層にリンパ球と好酸球を主体とした炎症細胞浸潤を認めた。MTX による急性毒性と診断し,MTX を中止し拮抗薬の葉酸製剤を投与した。入院翌日に皮疹は軽快し,第 8 病日には汎血球減少も回復し葉酸製剤の投与を終了した。急性毒性の原因として,MTX や葉酸製剤の誤用はなく,併用薬と高齢者,腎機能低下によるものと考えた。MTX による皮膚障害は他の副作用と比べ早期に出現し,自覚しやすい。 我々は MTX で紅斑やびらん,皮膚潰瘍が出現しうることを熟知し,速やかに MTX の中止と葉酸製剤の投与を行うことが大切である。 (皮膚の科学,18 : 22-26, 2019)
60歳代,女性。当科初診の11年前より右足底の黒色斑を自覚し, 3 年前より同黒色斑が徐々に隆起し,増大傾向を認めたため近医より紹介受診となった。皮膚生検,全身 PET-CT より悪性黒色腫(c Stage IV)と診断した。原発巣の組織における BRAF 遺伝子変異解析で BRAFV600E 遺伝子変異を認めたため,ダブラフェニブとトラメチニブの投与にて治療を開始した。投与開始後,原発巣,転移巣ともに縮小傾向を認めたが,左腓腹筋内転移巣のみ増大傾向であった。同一症例の異なる転移巣において化学療法の効果に差が認められた。それぞれの転移巣の病理組織を用いて BRAF(V600E)免疫染色を施行し比較したところ,奏効部位と非奏効部位の染色性に差を認めた。BRAF 阻害剤の耐性化の指標として BRAF(V600E)免疫染色が有用である可能性がある。 (皮膚の科学,18 : 27-32, 2019)
40歳代,女性。プレコール○R 持続性カプセル内服約20分後に咽頭の瘙痒感が出現。その後全身に瘙痒感を伴う浮腫性紅斑が出現し拡大した。無治療で約 1 時間30分後に軽快した。プレコール○R 持続性カプセル( 1 %,10% aq.)と,その成分であるイソプロピルアンチピリン( 1 %,10% aq.)でスクラッチテスト陽性であった。イソプロピルアンチピリン以外の,プレコール○R 持続性カプセルに含まれる各成分を含有する 5 種類の薬剤の内服テストを施行したところ,すべて陰性であった。以上の結果より,本例をイソプロピルアンチピリンによる蕁麻疹型薬疹・即時型アレルギーと診断した。イソプロピルアンチピリンは様々な医療用医薬品や多種類の一般医薬品に含まれており,注意が必要であると考えた。 (皮膚の科学,18 : 33-37, 2019)
20歳代,女性。両上下眼瞼の紅斑を主訴に当科を受診した。患者はマスカラを日常的に使用していた。使用していた各種化粧品,外用薬,点眼薬,およびジャパニーズスタンダードアレルゲンによるパッチテストを施行したところ,マスカラ,フラジオマイシン,ペルーバルサム,ロジン,香料ミックスが陽性となった。マスカラの成分別パッチテストを行ったところ,カルナウバロウが陽性となった。カルナウバロウは化粧品や各種ワックス製品に含まれる他,食品や医薬品の添加物として用いられるが,接触皮膚炎の報告は非常に少ない。カルナウバロウに含まれるケイ皮酸がペルーバルサムと香料ミックスとも共通することから,マスカラに含まれたカルナウバロウ中のケイ皮酸によってアレルギー性接触皮膚炎を発症した可能性を考えた。また,外用薬に含まれた硫酸フラジオマイシンに対するアレルギー性接触皮膚炎も合併していた。パッチテストでロジンにも陽性を示し,香料アレルギーの可能性が示唆された。 (皮膚の科学,18 : 38-41, 2019)
40歳代,女性。12年前より両側耳後部リンパ節腫脹を自覚し,増大縮小を繰り返していた。10年前から全身に痒疹が出現し,近医にてプレドニゾロン(以下,PSL)10 mg/日内服加療がされていたが,満月様顔貌により中止。 4 年前には左耳後部の腫瘤が増大し,生検にて木村病と診断された。その後通院を自己中断されていたが,治療希望で当科紹介。初診時,両側の耳および顎周囲に瘙痒を伴う 10 cm 大までの弾性軟の皮下腫瘤を多数認め,血液検査では好酸球,IgE,TARC が異常高値。 PSL 30 mg/日内服開始するも大型の皮下腫瘤は一時的な縮小を認めたのみで,PSL 単独では効果が乏しいと判断し,左耳後部の大型の腫瘤に対しては放射線治療(30 Gy/15 Fr)およびケナコルト局所注射の併用を行った。また他の複数の腫瘤も消失しなかったためにシクロスポリン 200 mg/日内服追加。現在皮下腫瘤は著明に縮小し,内服薬減量中である。木村病は単独治療では再発しやすく,難治例では複数の治療法を併用するケースが多くみられる。自験例の様にステロイド抵抗性を示し,放射線治療とシクロスポリン内服を追加した症例は調べえた限り認めなかった。 (皮膚の科学,18 : 42-47, 2019)