成人アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)の電気伝導度と経表皮水分蒸散量(TEWL)が対照の健常人のそれと比較してそれぞれ低下し上昇していることから,角質水分保有量の低下と水バリアー障害があり,さらにAD患者の皮表には軽度な症状でも黄色ブドウ球菌(黄ブ菌)叢が多く存在し,黄ブ菌数が少ない場合は保湿的スキンケアだけドライスキンが改善するが,黄ブ菌数が多い場合は保湿的スキンケアだけでは不十分であった。そのため,抗生剤ではないが黄ブ菌に対して選択的な増殖抑制作用があるFXを含む静菌的クリームの連用試験を実施したところADの有意な改善をもたらし,被験部皮表の黄ブ菌数の比率も有意に低下した。ADの診断に重要なドライスキンの出現時期とその早期対策がADの発症・悪化に及ぼす効果については未だ明らかでないことが多いため。乳幼児期ADの有症率の追跡調査に際してTEWLを測定し,4ヵ月児と1歳6ヶ月児の疫学調査においてADあり群となし群の比較検討したところ,TEWLが有意に高いという成績を得た。そのため乳幼児皮膚のTEWLがADの早期診断の補助として有用であり,ドライスキンに対する早期対策がADの発症・悪化に及ぼす予防効果が期待される。
ADのモデルマウスDS-Nhは血清総IgE値の軽度上昇を伴ってAD様皮疹が発症し,リンパ節細胞のstaphylococcal enterotoxin B(SEB)による刺激培養ではIL-4でなくIFN-γとIL-13の産生が亢進し,DS-Nhの皮疹スコアは血清中のIL-18値と有意に相関したことから,中西らが提唱しているsuper Th1によるAD自然発症のモデルマウスに相当すると思われる。またこのDS-NhマウスにおいてTNCB接触感作前のCy投与群では無投与群に比べSEB刺激所属リンパ節細胞によるIFN-γやIL-13の産生上昇を伴ってAD様皮疹が増強したが,血清IgE値は上昇せず,TNCB感作直前にCy無投与マウス由来のCD25
+T細胞を移入することで,Cy投与によるAD様皮疹の悪化に対して抑制効果を示しただけでなく,Cy投与による皮表黄ブ菌数の増加に対しても抑制効果を示した。Cy投与1日後の腸間膜リンパ節におけるCD25
+T細胞数が減少し,そのFoxp3の発現率が低下したことから抑制活性のあるCD25
+ Foxp3+調節T細胞は,恐らくIgE産生よりCD25
- super Th1細胞によるIFNγとIL-13の産生を抑制してAD様皮疹発症の免疫調節に関与していると考えられる。このCD25
+調節T 細胞の免疫調節を受けるsuper Th1によるアレルギー炎症は,ADのモデルマウスだけでなくヒトのADにおいてもその発症と悪化に関与していることが推定されるため,super Th1に対する効果的なCD25
+Foxp3+調節T細胞の誘導によるADの新規免疫療法の開発が期待される。AD患者の血清IL-18値もADの皮疹のスコアと有意に相関しており,ヒトADの病態においてもADのモデルマウスDS-Nhと同様にsuper Th1が関与している可能性が高いと考えられる。
ADでは皮膚における神経成長因子(NGF)の発現が亢進し,そう痒が強いADの悪化や慢性化に関与していると考えられており,NGFがADの病勢マーカーとしても注目されているが,これまでは血液や尿での測定が中心で,皮膚での測定は皮膚生検組織検体を用いた侵襲的な方法しかなかった。ヒト皮膚NGFの非侵襲的な測定方法としてテープストリッピング法とELISA法により角層中のNGFを測定したところ,AD患者の皮疹部の角層内NGFは健常人やADの非皮疹部と比べ高値であった。さらにAD患者の前腕屈側部皮膚のNGFを経時的に測定することにより,そう痒や皮疹の経過との関係,抗アレルギー薬がNGF量に及ぼす影響などについて興味深い知見を得た。このNGFの作用により促進された知覚神経の突起伸張を抑制する反発性軸索ガイダンス分子のSemaphorin 3AがADの痒みを抑制することが期待されるため,モデルマウスのAD様皮疹にこのSemaphorin 3Aを局所投与したところ,掻破行動を抑え皮疹の著明な改善をもたらした。ADのドライスキンとその治療において黄色ブドウ球菌が果たす役割とADの痒みとその治療において神経成長因子と反発性軸索ガイダンス分子 Semaphorin 3Aが果たす役割について解説した。
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