乳房外 Paget 病は腫瘍細胞の起源や病因が不明なだけでなく,手術治療においても謎の多い疾患である。それでも,いくつかの論点においては,その議論のコアとなる論文がある。それらは内容を疑うこともなく,教科書やガイドラインで引用され議論の根拠とされ続けている。しかし,批判的な目で読み直すと,実はそれらの論文は到底受け入れられないものであることが分かる。
第1は Chanda による論文で,「乳房外 Paget 病では内臓悪性腫瘍の合併率が高い」としている。しかし,その集計の元データである36本の引用論文をすべてチェックすると,その内の16本が1例報告であり,合併率の検討には不適切なものであることが分かった。第2は Gunn による論文で,「手術標本を準連続切片で検討した結果,乳房外 Paget 病では肉眼的境界を遥かに越えて,病理組織学的に腫瘍細胞が存在することを4例中4例で証明した」という内容である。しかし,研究方法を精読すると,「肉眼的境界としているものが,単にコピー紙上で推測したものに過ぎず,実際の手術医の把握とは大きく異なっている」ことが判明した。
教科書,コアジャーナルの内容を無批判に受け入れるのではなく,自らの経験と照合して相違点を吟味することの必要性を,これらの論文は教えてくれる。(皮膚の科学,16: 241-247, 2017)
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