ホモ・サピエンスはチンパンジーとの共通祖先から進化したが,その時に同時に皮膚も大いに進化した。他の霊長類では濃い毛で覆われた灰色の皮膚色であるのと異なり,ホモ・サピエンスの皮膚は,無毛で黒色に色づいた。この皮膚を持ち続けている現在の土着アフリカ人では,悪性黒色腫は足底に集中して発症するが,紫外線暴露部には発症が少ない。アジア人も同様である。一方,出アフリカし,ユーラシア大陸など紫外線照射率の低い地域に移動したホモ・サピエンスでは,ビタミンD量の確保の必要性という選択圧により,皮膚色が白くなった。そのため,紫外線誘発による悪性黒色腫発症が爆発的に増加し,現在に至った。一種のトレードオフが起こったのだ。また爪甲はホモ・サピエンスでは透明だが,他の動物では殆どが爪甲は黒色である。ホモ・サピエンスでは爪部のメラノサイトが特異的に抑制されており,このことが悪性黒色腫の発症と関連している可能性がある。
この様に,ホモ・サピエンスの皮膚と爪甲の進化を考えに入れると,足底・爪部の悪性黒色腫は「稀なタイプ」として日陰者扱いするのではなく,「紫外線照射が誘発するのではない」むしろプロトタイプの悪性黒色腫であり,それが日光照射の乏しい身体部位に生じるだけだ,と考えるのがよいと思われる。(皮膚の科学,16: 387-398, 2017)
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