皮膚の科学
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16 巻, 6 号
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Dr.村田の Clinico-pathological notes
  • 村田 洋三
    2017 年 16 巻 6 号 p. 387-398
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/06/28
    ジャーナル 認証あり
    ホモ・サピエンスはチンパンジーとの共通祖先から進化したが,その時に同時に皮膚も大いに進化した。他の霊長類では濃い毛で覆われた灰色の皮膚色であるのと異なり,ホモ・サピエンスの皮膚は,無毛で黒色に色づいた。この皮膚を持ち続けている現在の土着アフリカ人では,悪性黒色腫は足底に集中して発症するが,紫外線暴露部には発症が少ない。アジア人も同様である。一方,出アフリカし,ユーラシア大陸など紫外線照射率の低い地域に移動したホモ・サピエンスでは,ビタミンD量の確保の必要性という選択圧により,皮膚色が白くなった。そのため,紫外線誘発による悪性黒色腫発症が爆発的に増加し,現在に至った。一種のトレードオフが起こったのだ。また爪甲はホモ・サピエンスでは透明だが,他の動物では殆どが爪甲は黒色である。ホモ・サピエンスでは爪部のメラノサイトが特異的に抑制されており,このことが悪性黒色腫の発症と関連している可能性がある。
    この様に,ホモ・サピエンスの皮膚と爪甲の進化を考えに入れると,足底・爪部の悪性黒色腫は「稀なタイプ」として日陰者扱いするのではなく,「紫外線照射が誘発するのではない」むしろプロトタイプの悪性黒色腫であり,それが日光照射の乏しい身体部位に生じるだけだ,と考えるのがよいと思われる。(皮膚の科学,16: 387-398, 2017)
症例
  • 川口 亜美, 国本 佳代, 奥平 尚子, 野際 智子, 古川 福実, 山本 有紀
    2017 年 16 巻 6 号 p. 399-403
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/06/28
    ジャーナル 認証あり
    症例は70歳代,女性。約3ヶ月前に左乳頭部に黒色斑を自覚し,拡大傾向にあるため近医外科を受診した。マンモグラフィー,超音波検査では異常所見を認めず,2016年6月当科紹介受診となった。左乳頭部に一部びらんを伴う約 3cm 大の辺縁不整な黒色斑を認めた。ダーモスコピー所見より悪性黒色腫と診断して,切除術とセンチネルリンパ節生検を施行した。本邦における乳頭部悪性黒色腫の症例報告は調べえた限りでは7例と稀であり,Stage I や II でも遠隔転移や死亡例があることから予後が悪い可能性がある。解剖学とリンパ流を考慮した治療戦略が重要である。(皮膚の科学,16: 399-403, 2017)
  • 木谷 美湖野, 松澤 惇, 濱岡 大, 小倉 香奈子, 永井 宏, 錦織 千佳子
    2017 年 16 巻 6 号 p. 404-410
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/06/28
    ジャーナル 認証あり
    ヒドロキシクロロキン(HCQ)は既存治療で効果の得られなかった CLE や SLE の皮膚病変に対して有効例が多く使用例も増えてきているが,薬疹の出現により内服中止を余儀なくされる症例が散見される。今回我々は,HCQ 投与後に多形紅斑型薬疹の発症が疑われ内服を中止したが,少量からの漸増プロトコールによって内服を再開し得た DLE の症例を経験した。症例は40歳代,男性。8年前より頭部,顔面に無症候性の円板状皮疹が出現し拡大してきた。皮膚病理組織学的検査で表皮基底層の液状変性を認め,抗核抗体は640倍であったが他臓器病変は認めず DLE と診断した。ステロイド軟膏およびタクロリムス軟膏の効果が不十分であったため,HCQ(400mg/日)の内服を開始した。内服開始17日後より体幹,四肢に播種状の浮腫性紅斑が出現した。HCQ 内服を中止し抗アレルギー薬内服,ステロイド軟膏外用により紅斑は改善した。DLE は HCQ により著明な改善を示していたため,患者の同意を得て 2mg/日より内服を再開し漸増するプロトコールによって,23日目に常用量の内服が可能になった。自験例では紅斑の出現時期や薬剤中止により速やかに消退を認めた点から HCQ の薬疹を疑ったが,パッチテスト,DLST がともに陰性であり,薬疹のアレルギー機序の関与については証明できていない。HCQによる薬疹が疑われた症例のうちどのような症例において再投与が可能なのか,また再投与時のプロトコールはどうすべきなのか,今後の症例の集積が望まれる。(皮膚の科学,16: 404-410, 2017)
  • 竹内 千尋, 田島 翔子, 永井 宏, 錦織 千佳子, 清水 雅子
    2017 年 16 巻 6 号 p. 411-416
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/06/28
    ジャーナル 認証あり
    50歳代,女性。当科初診の約1年前から,左頬部に網目状の褐色皮疹が出現し,その3ヶ月後には右頬部にも同様皮疹が出現し,徐々に増加したため,当科受診となった。初診時,両頬部を中心に無症候性の網目状褐色斑を広範囲に認めた。病理組織検査では,表皮の菲薄化,基底層の液状変性,表皮内の多数の好酸性壊死細胞,真皮浅層にリンパ球およびメラノファージを認めた。患者は,皮疹出現の約8ヶ月前からジルチアゼム塩酸塩の内服歴があり,臨床像および病理組織所見より diltiazem-associated photodistributed hyperpigmentation と診断し,ジルチアゼム塩酸塩の内服中止と遮光,タクロリムス軟膏の外用による加療にて,徐々に色素斑の改善を認めた。Diltiazem-associated photodistributed hyperpigmentation は稀な疾患であり,ジルチアゼム塩酸塩を長期内服中,露光部(おもに顔面)に特徴的な網目状色素沈着を認めた場合,本症を念頭に置いて治療を行う必要がある。(皮膚の科学,16: 411-416, 2017)
  • 藤森 なぎさ, 東 祥子, 小林 佑佳, 加賀野井 朱里, 小澤 健太郎, 爲政 大幾
    2017 年 16 巻 6 号 p. 417-421
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/06/28
    ジャーナル 認証あり
    70歳代,男性。2008年5月に感冒様症状を認め近医を受診した。セフメタゾン点滴,フロモックス,エンピナース1日分を処方され服用した。翌日にセフメタゾン点滴とミノペン点滴を施行された後に,全身に手掌大までの浮腫性紅斑が多発し,発熱を認め当院救命センターへ緊急入院した。皮疹はプレドニゾロンの投与によって多くは色素沈着を残して治癒し,一部は色素沈着を残さずに完全に消退した。臨床症状から固定薬疹を疑いフロモックス,ミノマイシン,セフメタゾン,エンピナースを被疑薬に挙げ,症状改善後に原因薬剤の検索を行った。DLST およびパッチテストは皮疹部,無疹部ともにいずれも陰性で,チャレンジテストでフロモックスが陽性であった。以上より自験例をフロモックスによる多発性固定薬疹と診断した。これまでフロモックスによる薬疹の報告は急性汎発性発疹性膿疱型,ざ瘡型,Stevens-Johnson 症候群型など7例と少なく,固定薬疹は自験例が初めての報告例である。また自験例では一部に,色素沈着を残さずに消退する非色素沈着型固定薬疹を認め,通常の固定薬疹に非色素沈着型固定薬疹が混在した点で比較的な稀な1例であると考えた。(皮膚の科学,16: 417-421, 2017)
  • 髙山 恵律子, 上村 義季, 近藤 淳, 吉川 大和, 瀬戸 英伸
    2017 年 16 巻 6 号 p. 422-426
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/06/28
    ジャーナル 認証あり
    8歳,男児。マイコプラズマ感染によると考えられた Stevens-Johnson 症候群を発症した。高熱と咳嗽を伴い,皮膚の紅斑と水疱はごく少数であったが,眼,口唇・口腔,陰部の粘膜症状が重症で2度のステロイドパルス療法および免疫グロブリン投与を要した。翌年,マイコプラズマに再び感染した。その際は咳嗽に続き高熱と,全身に猩紅熱様の紅斑を生じたが,粘膜症状はごくわずかで,ステロイド外用のみで速やかに軽快した。マイコプラズマの再感染時,Stevens-Johnson 症候群や多形紅斑を再発した報告は少数あるが,本例のように表現型が異なる皮膚粘膜症状を呈した報告は過去に見出せなかった。ただしマイコプラズマ感染による皮膚粘膜症状は多彩であり,マイコプラズマ感染と因果関係が広く知られた症状と異なる場合や,皮膚粘膜症状が複数回生じた場合,上気道症状を伴わない場合等は,マイコプラズマ感染の検索が見落とされやすく注意が必要である。マイコプラズマ感染に伴う皮膚粘膜症状はおもに宿主免疫応答により生じるといわれるが,加えて遺伝的要因,菌株要因など多要因の関与が推察された。(皮膚の科学,16: 422-426, 2017)
  • 松田 智子, 神戸 直智, 植田 郁子, 山﨑 文和, NGUYEN Chuyen Thi Hong, 岡本 祐之
    2017 年 16 巻 6 号 p. 427-430
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/06/28
    ジャーナル 認証あり
    症例1は50歳代,男性。鼻根部に小豆大の紅色小結節,鼻尖と鼻翼には粟粒大の紅色の扁平丘疹が多発していた。自然気胸に罹患し,腎嚢胞を伴っていた。気胸の家族歴を有していた。おもに顔面に分布する皮膚病変から Birt-Hogg-Dubé 症候群(BHD)を疑い,鼻根部の小結節から生検を行い,BHD 診断の一助になる毛盤腫の像が見られた。症例2は50歳代,女性。30年前から繰り返す気胸と気胸の家族歴を認めた。左頬に粟粒大までの褐色調の扁平丘疹が多発し,病理組織で毛盤腫の像を呈していた。自験例はいずれも気胸が初発症状であり,気胸の家族歴を有していた。皮膚病変の病理組織から BHD と診断した。BHD は皮膚,肺,腎病変が3主徴であり,本症の予後は腎病変によって規定される。このため,自験例のように繰り返す気胸や気胸の家族歴があった場合は,皮膚所見の有無や組織診断が,BHD の確定診断をする上で重要である。(皮膚の科学,16: 427-430, 2017)
  • 笹橋 真紀子, 山下 彩, 錦織 恵美, 松井 美萌
    2017 年 16 巻 6 号 p. 431-435
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/06/28
    ジャーナル 認証あり
    50歳代,男性。アトピー性皮膚炎があり,定期的な通院をせず,増悪時のみ受診し,外用療法の習慣がなく重症であった。2016年2月に前医を受診し,シクロスポリン内服等の治療を受けていたが,7月末より高熱が続き,MSSA 菌血症の診断にて前医に入院した。一旦軽快し退院したが,再度発熱を生じ,感染性心内膜炎と診断された。9月,治療のため当院に転院となった。抗生剤治療にて改善せず,三尖弁形成術を施行された。アトピー性皮膚炎は重症であったが,ステロイド外用剤等を用いた標準的な治療により改善した。感染性心内膜炎は多くの合併症を引き起こし,死亡することもある重篤な疾患である。持続的な菌血症を特徴とし,重症のアトピー性皮膚炎は菌血症を引き起こす感染経路となり得る。感染性心内膜炎の頻度は低いものの,アトピー性皮膚炎の重篤な合併症として念頭に置くべき疾患である。また不適切な治療や放置により重篤な感染症を引き起こすリスクについても啓発する必要がある。(皮膚の科学,16: 431-435, 2017)
  • 野村 祐輝, 夏秋 優, 岡本 祐之
    2017 年 16 巻 6 号 p. 436-440
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/06/28
    ジャーナル 認証あり
    70歳代,女性。6月下旬,頸部にかゆみのある発疹が出現し,刺したと思われるアリを持参して当科を受診した。初診時,頸部にそう痒を伴う紅色丘疹が孤立性に4ヶ所認められた。そのアリは体が黒褐色,脚が赤褐色で,形態的な特徴からオオハリアリと同定し,自験例をオオハリアリ刺症と診断した。オオハリアリは尾端部に毒針を有するアリで,中国や朝鮮半島,北海道を除く日本全国に分布している。わが国でオオハリアリ刺症と診断された報告はこれまで11例あり,うち7例はアナフィラキシー症状を生じている。韓国でも在来種として,米国では外来種としてオオハリアリ刺症によるアナフィラキシーが報告されている。最近,特定外来生物であるヒアリが日本国内で発見され,その毒性や危険性が問題になっている。自験例はアナフィラキシー症状を認めず,ステロイド外用のみで軽快したが,オオハリアリは刺されるとアナフィラキシーを起こす可能性のある身近なアリであると認識することが重要である。(皮膚の科学,16: 436-440, 2017)
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