皮膚の科学
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17 巻, 3 号
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Dr.村田の Clinico-pathological notes
  • 村田 洋三
    2018 年 17 巻 3 号 p. 137-150
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/15
    ジャーナル 認証あり
     Nevus を本邦では「母斑」と呼ぶが,その由来は知られていない。
     Nevus 自体はラテン語の naevus あるいは gnaevus が語源で,「生まれつき」の意味である。ここには「母」という意味は含まれていない。一方,日本古来の医書(医心方)や辞書(節用集)には「母斑」の用語は記載されていないので,古語として存在していたものでもない。
     現存する資料から判断すると,「母斑」の用語が最初に用いられたのは,明治9年(1876年)出版の,蘭方医高橋正純著による「対症方選」である。また,緒方洪庵訳の「扶氏経験遺訓」には,『痣「ナーヒュス」羅 「ムーデルフレッキ」蘭』との表題で nevus を記載している。ムーデルフレッキはオランダ語の Moedervlek であり,これはドイツ語の Muttermal と相同の言葉である。Moeder(Mutter)は「母」,vlek(Mal)は「斑点」の意味である。これを「母斑」と直訳したことは容易に推測できる。この邦訳を行ったのは緒方洪庵ではなかった。高橋正純,あるいは緒方洪庵と高橋正純の間の時期に他の医師によってなされた,と考えられる。
     西洋にはドイツの Muttermal 以外にも,「妊娠中の母親の感情・体験が,児の体表に,形となって発現する」というニュアンスの言葉がある。英語の「mother's mark」,フランス語の「Envies」,イタリア語の「Dei Nei materni」などである。過去には,これらの用語が各国の医学書に使用されていた。現在では,これらの用語は医学界では使用されていない。しかし,その直訳語である「母斑」は,依然として本邦で用いられるのが現状である。(皮膚の科学,17: 137-150, 2018)
症例
  • 中尾 有衣子, 杉本 彰, 大塚 俊宏, 谷崎 英昭, 黒川 晃夫, 森脇 真一
    2018 年 17 巻 3 号 p. 151-156
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/15
    ジャーナル 認証あり
     50歳代,男性。双極性障害に対し,ラモトリギン内服薬が投与された。投与開始25日後より全身に皮疹が出現したため,近医を受診したところラモトリギンの内服中止が指示され,副腎皮質ステロイド薬外用,ベタメタゾン-d-クロルフェニラミンマレイン酸塩,オロパタジンの内服が開始された。皮疹は徐々に改善したため,一旦ベタメタゾン-d-クロルフェニラミンマレイン酸塩を休薬したところ,皮疹が再燃したため当科紹介となった。初診時,体温 38.3°C。紅斑,丘疹,紫斑がほぼ全身にみられた。また,頸部から上背部,下顎部などには小膿疱が多発していた。組織学的には,非毛包一致性の角層下膿疱が認められ,液状変性,血管周囲性の炎症細胞浸潤を伴っていた。血液検査では,肝機能障害,異型リンパ球,好酸球の増加がみられた。ラモトリギンの%薬剤リンパ球刺激試験(DLST)は,当科初診7日目では陰性,52日目では陽転化していた。本症例の皮疹は非毛包性小膿疱を有しており,当初,急性汎発性発疹性膿疱症との鑑別を要したが,臨床像,臨床経過,血液検査所見,遅発性に DLST が陽転化したことから,最終的には膿疱を伴った薬剤性過敏症症候群(DIHS)と診断した。DIHS がしばしば多発性の膿疱を伴うことは知られているが,ラモトリギンが原因となった報告は調べうる限りない。膿疱を伴う DIHS 症例は,臨床像,病理組織学的所見からは AGEP との鑑別が困難な場合があるため,臨床経過や検査所見から総合的に診断する必要がある。(皮膚の科学,17: 151-156, 2018)
  • 在田 貴裕, 若林 祐輔, 磯久 太郎, 奥沢 康太郎, 浅井 純, 竹中 秀也, 加藤 則人
    2018 年 17 巻 3 号 p. 157-162
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/15
    ジャーナル 認証あり
     30歳代,女性。初診の約1年前に右下腹部に 1cm 大の皮下結節を自覚した。その後,妊娠したために放置していたが,出産後に皮下結節が増大していたため,悪性腫瘍の可能性を疑われて近医より精査加療目的に当科を紹介された。初診時,同部位に 4cm 大で弾性硬の皮下腫瘤を触知し,下床との可動性は良好であった。全身麻酔下に腫瘍を全摘出した。病理組織学的に腫瘤は境界明瞭で,異型に乏しい類円形の核をもつ紡錘形細胞が束状配列を示して密に増生する領域と,粘液浮腫状間質の中に網状に増生する領域がみられた。また,腫瘍内に小血管と繊細な膠原線維の増加を認めた。免疫染色で CD34,estrogen receptor,progesterone receptor に陽性,SMA や desmin に陰性であり,総合的に cellular angiofibroma(CA)と診断した。CA は稀な間葉系良性腫瘍であり,女性では外陰部に,男性では陰嚢・鼠径部に好発する。自験例は女性の下腹部に発生した稀な症例であり,文献的考察を加えて報告する。(皮膚の科学,17: 157-162, 2018)
  • 小林 香映, 神山 泰介, 保坂 浩臣, 渡辺 秀晃, 末木 博彦
    2018 年 17 巻 3 号 p. 163-167
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/15
    ジャーナル 認証あり
     20歳代,男性。手を頻繁に組む癖があり,数年来,パソコンでの作業を1日8時間続けていた。10年前より手指 PIP 関節部が腫脹し,自覚症状は認めなかった。両手第2指から第5指の PIP 関節部側面に腫脹と硬化がみられたが,関節可動域の制限は認めなかった。血液検査,X線検査に異常はなかった。MRI 検査で同部の腫大と靭帯肥厚を認めた。特徴的臨床像より本症を疑い生検した。病理所見で軽度の過角化と表皮肥厚を認め,真皮全層性に膠原線維が増生していた。弾性線維は断裂して減少していた。電子顕微鏡で膠原線維の辺縁不整,径の大小不同を認めた。以上より,pachydermodactyly と診断した。トラニラスト内服,ステロイド局注に抵抗性であった。自験例では電顕的に太い膠原線維を認めたことが特徴的であり,この形態異常は外的刺激により靭帯の膠原線維径や密度が増加し,真皮の膠原線維においても同様の変化を生じたと推測した。(皮膚の科学,17: 163-167, 2018)
  • ―Bowenoid Paget 病と Pagetoid Bowen 病について―
    中江 真, 若林 祐輔, 和田 誠, 小森 敏史, 浅井 純, 竹中 秀也, 加藤 則人
    2018 年 17 巻 3 号 p. 168-172
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/15
    ジャーナル 認証あり
     80歳代,男性。約1年前に陰嚢左側に紅斑,結節が出現し,病変は徐々に拡大,隆起してきた。前医の皮膚生検で,表皮内有棘細胞癌と診断され,手術目的に当科を紹介された。当科では Bowen 病と考えたが,追加で行った生検で,腫瘍細胞は CK7 陽性,CAM5.2 陽性であったため,乳房外 Paget 病と診断した。腫瘍切除とセンチネルリンパ節生検を施行したが,腫瘍は表皮内に限局し,リンパ節転移はなかった。乳房外 Paget 病は同一の病変内において形態学的に著しい多様性を示すことが知られており,ときに Bowen 病との鑑別が困難な例が報告されている。病理組織において乳房外 Paget 病と Bowen 病の特徴をともに有する場合には,複数箇所からの皮膚生検や免疫組織化学的染色を行う必要があると考えられた。(皮膚の科学,17: 168-172, 2018)
  • 田中 麻理, 壽 順久, 高田 洋子, 山岡 俊文, 片山 一朗
    2018 年 17 巻 3 号 p. 173-180
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/15
    ジャーナル 認証あり
     膠原病疾患の合併症の1つに心外膜炎があることは広く知られている。我々は全身性強皮症,全身性エリテマトーデス,シェーグレン症候群の overlap syndrome に心外膜炎を合併し,著明な心嚢液貯留をきたした1例を経験したので報告する。60歳代,女性。1990年に近医で全身性エリテマトーデスと診断され,2010年よりレイノー症状が出現していた。2016年5月より手指の腫脹と進行する指端潰瘍が出現し,同年10月当科を紹介受診された。精査の結果,全身性強皮症,全身性エリテマトーデス,シェーグレン症候群の overlap syndrome と診断された。2017年2月に急激な全身浮腫,心嚢液貯留,補体低下を認め,全身性エリテマトーデスの急性増悪による心外膜炎と判断し,ステロイドミニパルスおよび高用量プレドニゾロンを投与し,心内膜炎の症状は軽減したが,指端壊疽は急速に進行した。高容量ステロイドの投与により,全身性エリテマトーデスによる心外膜炎は改善させることが出来たが,同時に全身性強皮症による指端壊疽を悪化させた一因となってしまったと考えられた。overlap syndrome の時には,それぞれの疾患に対しよく病態を考え,個々の症状に対して適切に治療を行わなければならない。(皮膚の科学,17: 173-180, 2018)
  • 堀口 裕治
    2018 年 17 巻 3 号 p. 181-185
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/12/15
    ジャーナル 認証あり
     70歳代,男性。2ヶ月ほど前から背部に痒みのある皮膚病変が多発した。個疹は直径数ミリの円形あるいは楕円形の平坦な色素沈着で,周囲は細く盛り上がる。組織学的所見から環状扁平苔癬と診断した。この症例に対し,免疫組織化学的手法を用いて HLA-DR,ICAM-1,CD1a,CD4,CD8 および Foxp3 分子の局在を調べた。HLA-DR と ICAM-1 分子は,細胞浸潤が少ないにもかかわらず表皮基底細胞の液状変性が明瞭に見える病変辺縁を超えて,正常に見える周辺部にまでしみ出すように陽性であった。一方,それらの分子は環状の病変の内部では急激に消失していた。Langerhans 細胞の量は炎症の強い部分と辺縁部で増加していたが,内部では正常部と同じ量に戻っていた。ヘルパー,細胞傷害性および制御性T細胞はいずれも炎症細胞浸潤部と辺縁部で基底細胞に付着してみられたが,内部では表皮から離れて分布していた。浸潤部と辺縁部における Langerhans 細胞の増加と内部での急激な正常化は HLA-DR と ICAM-1 分子の一過性の発現によるものと思われた。環状扁平苔癬の病変が環状になるのは,すなわち内部における細胞浸潤の消退と表皮細胞の回復は,Langerhans 細胞とリンパ球の浸潤に先駆けて病変周囲に拡大する HLA-DR と ICAM-1 分子の発現が,内部で急激に消退するためと考えた。(皮膚の科学,17: 181-185, 2018)
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