くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage ; SAH)後に合併する低ナトリウム血症の原因に関する論議は, 1980年代後半になってSIADH(syndrome of inappropriate secretion of antidiuretic hormone)説からANP(atrial natriuretic peptide)の持続的高値によるCSWS(cerebral salt wasting syndrome)説へと移り, それに伴い十分な水分とナトリウムの補充が行われるようになった.諸家の報告によるとSAH急性期に上昇したADH(antidiuretic hormone)はSAH day3以内に正常化し, 低ナトリウム血症が出現する亜急性期の時期とは一致しないといわれていた.ところが今回, 21例のSAH患者で血清ANP, ADH, 低ナトリウム血症の再検討を行ったところ, ADNは亜急性期でも35%において高値を示しており, そのような場合, 明らかに低ナトリウム血症の発生率が高いことがわかった.ただし, この時の低ナトリウム血症は脳血管攣縮の発生率や予後には影響しなかった.これはCSWSでみられる低ナトリウム血症が脱水を伴っているのに対して, ADH上昇に伴う低ナトリウム血症においては脱水を伴わないためと考えられた.したがって, SAH後に合併した低ナトリウム血症の原因が不明の時は, ナトリウムおよび水分を投与する方が適切であると思われた.ただし, ADH上昇に伴う低ナトリウム血症で水分を過剰に入れ続けることによって低ナトリウム血症をさらに悪化させる可能性もあるため, 特に水分管理については注意深い観察が必要と思われた.
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