摘脾を受けた乳幼児は重症感染症に罹患しやすいといわれている.著者らは, 14例の特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と8例の遺伝性球状赤血球症(HS)につき摘脾前後における免疫機能の検査を行なった.摘脾手術自体はいずれの症例にもほぼ有効であったが, HSの2例が術後敗血症に罹患した.うち1例は5歳で,摘脾後2ヵ月目に黄色ブドウ球菌による敗血症で死亡した.他の1例は2歳のHSで,摘脾1年後に肺炎球菌による敗血症を発症したが,治癒した.
検査を施行した免疫機能は, PHA, PPD,カンジダの各抗原に対する遅延型過敏皮膚反応, in vitroにおけるPHA添加培養リンパ球のトリチウムサイミジンとり込み能,血清免疫グロブリンの推移をみた.また,好中球の貧食能を促進するといわれる血清タフトシンの生物活性を測定し,好中球のNBT還元能および好中球の活性酸素産生能をみた.補体はC3, C4, C5について測定した.
摘脾によるもっとも大きな変化は血清IgMの減少とタフトシンの活性低下であった. IgMは摘脾後1ないし3ヵ月で最低値となり,摘脾前の50%前後となる. 1年後から急速に回復し,摘脾2年後までに正常値に復する. IgAは逆に上昇傾向がみられ, IgGとIgEは不変であった.リンパ球の芽球化反応は摘脾5日後に一時的な低下がみられた.遅延型皮膚反応やリンパ球のsubpopulationには変化がなかった.
血清タフトシンは12例の摘脾患者について検査し, 10例に有意の低下をみた.敗血症による死亡も血清IgMの著減とタフトシンの活性低下をみた.好中球のsuperoxide産生能は1例を除いて正常であり, NBT還元能と補体には変動をみとめなかった.
摘脾後の感染防禦のために乳幼児ではペニシリンの予防投与が行なわれているが,著者らの症例のように必ずしも有効ではなく,肺炎球菌ワクチンなどその他の対策が望まれる.
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