ウイルスは独自の遺伝子を内包したタンパク質や膜で構成される粒子であり,宿主となる生物の細胞に感染することで増殖する。その際に遺伝子はポリメラーゼと呼ばれる酵素によって複製される。子孫を安定に残すためにも遺伝子の複製は正確に行われることが必要であるにもかかわらず,ウイルスでは複製エラーが頻繁に起こることで変異株が次々に発生する。本稿では,新型コロナウイルスを例にウイルスの遺伝子複製の化学的基盤を解説するとともに,ウイルスの遺伝子複製を抑えて感染症を治療する薬について紹介する。
ここでは,新型コロナウイルスの検査として用いられるPCR法とTaqManプローブ法を用いた逆転写定量PCR法の原理について解説する。また,新型コロナウイルスの変異の一つであるN501Yを例に,TaqManプローブ法による変異したウイルスを区別して検出する方法について述べる。また,ゲノム解析としてシーケンス解析の原理について解説する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対してメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが実用化された背景には,mRNAの設計や送達に関する長年の多岐にわたる技術開発があった。本稿では,mRNAの化学修飾や脂質性ナノ粒子を中心に基盤技術を説明したのち,mRNAワクチン,医薬の課題と今後の展望に触れる。
物質から物質あるいは空間へ移動するエネルギーを一般的に熱という。熱がエネルギーであることを強調するときには熱エネルギーといい,熱エネルギーの大きさを表すときには熱量という。熱が物質から物質あるいは空間へ移動する三つの基本的な現象に「伝導,対流,放射」がある。しかし,同じ熱の現象であるにもかかわらず,それぞれに関与するエネルギーの種類は異なる。どのようなエネルギーが関与するか,そして,温度とは何かについて,原子,分子レベルで説明する。
気体に熱エネルギーを与えると,温度が上がる。しかし,同じ量の熱エネルギーを与えても,気体がどのような種類の分子で構成されているかによって,温度の上がり方が変わる。分子の種類によって分子運動が異なるからである。単原子分子よりも二原子分子,そして,二原子分子よりも多原子分子のほうが,回転運動や振動運動に使われる熱エネルギーが多く,温度の上がり方が小さい。