ソビエトの人工衛星スプートニクのショックから, アメリカでは科学教育振興が叫ばれ, その結果の一つとして科学史が大学の中で市民権を得た。専門職業化した科学史家は, ウィッグ史観に批判的態度を表明し, 科学者自身が書く歴史とは決別し, 科学者によりも歴史家に近づいた。科学教育者の歴史観は, 科学者のそれと同様に, ウィッグ的である。しかし現代科学を教えることを目的とする科学教育者は, ウィッグ的な科学史であっても, それを「教育科学史」として教育に利用できるかもしれない。科学教育の目的を, 現代科学の概念・理論の教授だけに限定するならば, 歴史を教育に用いることは, 効果的であるかどうか不明である。しかし教育の目的を, 現代科学の方法・自然観・社会的機能の教授にまで拡大するならば, 科学教育における科学史の利用は, きわめて効果的であり, 科学観の変革をもたらすかもしれない。
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