高校で学習したボーアの原子模型に慣れてしまったために,大学で量子化学を理解できない学生が多い。どうして波動方程式を立てるのか,どうして波動関数を求めるのかがわからない。ここでは,まず,二重性(粒子性と波動性)を詳しく考察して,波動関数を求める理由を説明する。次に,波動関数の具体的な式をグラフとして描き,その結果,電子が原子核の周りのどのあたりに,どのくらい存在するかがわかることを説明する。
化学熱力学ではエンタルピーとかエントロピーなどの新しい概念が現れる。言葉が似ているせいか,混乱する学生が多い。しかし,エントロピーを正しく理解できないと,ギブズの自由エネルギーなども理解できないし,様々な物理現象や化学現象を理論的に解き明かすことも難しい。ここでは学生が理解しやすいエントロピーの導入法や,エンタルピーと熱エネルギーがまったく異なる概念であることを理解するための方法などを紹介する。
高校化学では登場しないが,有機化学の反応を専門的に学ぶ際に必ず使われるものとして有機電子論による反応機構の説明がある。本稿では,高校化学で扱う反応を例に有機電子論の解説をしたうえで,高等学校の教育現場で何を教えておけば専門的な学びにつなげやすいか考えてみたい。
理工系大学では実験・実習が必ずある。基礎的な実験作法を習得し,観察力を鍛え,結果をまとめて考察する力を養う訓練がなされ,卒業研究では指導教員や大学院生の手ほどきを受ける。設備や時間に制約はあるが,高校ではこれらの指導を享受する素地づくりをしておきたい。実験準備から実験後のレポート指導の工夫事例を紹介する。
物質の三態—固体・液体・気体—の温度と圧力の条件を水,二酸化炭素,窒素,酸素,ヘリウムを例にとり解説する。いずれの物質にも三態は存在する。水の三態は常温常圧の近くで観察できるが,他の物質は圧力と温度を常温常圧からずらす必要がある。私達が普段は見ることのない物質の三態を観察する方法を含めて紹介する。
本稿では,液体と結晶の中間状態として存在する液晶について紹介する。液晶は,結晶的な分子配列の規則性と液体的な分子運動を兼ね備えた状態であり,代表的な応用例が液晶ディスプレイである。液晶の分類と特徴,応用について概説する。
ゲルは「架橋」という高分子同士の橋渡しにより高分子網目が形成され,この網目の中に気体や液体を含み,その形を維持している。「化学ゲル」「物理ゲル」といった架橋様式の違い,網目内の媒体別にゲルの特徴やそれらの作製法を解説する。さらにゲルの機能化について何点か簡単な例を紹介する。