昨年3月に,「高大接続システム改革会議」の最終報告が出された。その中で大学入学者選抜改革としていくつかの提言がなされ,「高等学校基礎学力テスト」および「大学入学希望者基礎学力テスト」(現在のセンター試験に代わるもの)の実施が示された。これは高大一体となった大規模な教育改革についての提言であり,今年度の化学教育フォーラムは,そこに焦点を当てて開催された。
これからの社会は,より変化の激しい世の中となることが様々な専門家から予想されている。高大接続改革は,このような次代を担う若者たちに,新たな価値を創造できる力(学力の3要素)を育むことを目的として,高等学校教育,大学教育,そして大学入学者選抜の三者を一体的に改革するものである。
本稿では,多岐にわたる改革の中から,大学入学者選抜の改革の一つであり,平成29年5月16日に公表された「大学入学共通テスト(仮称)」の検討状況を中心に,お伝えするものである。
千葉大学では高等学校(以下,高校)と千葉県内を中心とした大学,教育委員会,企業などの協力のもと,高大相互理解の推進と理数系教育の高度化について様々な活動を進めている。ここでは千葉大学における高大連携活動の概要,および平成10年度から開始した高校2年生を修了後早期に大学に入学する「先進科学プログラム」(いわゆる「飛び入学」制度)の実施状況について紹介する。
筑波大学理工学群化学類で実施される入学試験のうち推薦入試とAO入試を取り上げ,試験の内容・特徴と実施結果,それにより生じた課題を論じる。推薦入試では思考力や発想力に富んだ真面目な学生を,AO入試ではより自主性に富んだ学生が入学する傾向にある。これらの試験によって,通常のペーパーテストでは獲得しにくい層が取り込まれて,本学における多様な人材育成に貢献している。受験者の減少などの問題を抱える一方で,成績調査の結果では化学類においては入学経路に依存した大きな差異は見られないことから,さらなる人材の多様化を目指すためには今後これらの制度を活用した入試形態が望まれる。
東京大学教育学部附属中等教育学校(以下,東大附属)では,1983年から「卒業研究」を課し,現在では必修科目として卒業のための要件となっている。従来からこの卒業研究を基盤にしてAO入試などに挑戦する生徒がおり,成果を修めている。高大接続という観点からこの卒業研究を見直し,アクティブラーニングの見地からもその効果を探る(なお,本校は中等教育学校であるため,本文中で1年~6年とあるのは,それぞれ中学1年~高校3年を示す)。
高大接続改革において,CBTの導入に向けて議論が進められているが,わが国におけるCBTによる教科・科目型の評価問題の実践事例は非常に少ない。本研究では従来のPBTでは評価が難しい能力を測定することを目標に,実験映像や実験シミュレーションを用いた化学のCBTを試作した。さらにそれらを,タブレット端末を使用する電子問題冊子にし,高校生を対象とした調査を行った。その結果,問題作成において検討を要する課題も明らかになってきた。
“目視で確認ができる”“生徒の興味関心に応じていろいろな学校で使いやすい”という意味で,色素を教材にすることは有用である。筆者は色素を官能基の種類によって分類し,性質を理解して高校化学の授業に色素を使っている。こうした色素の利用により,「有機混合物の分離」「ペーパークロマトグラフィー」「界面活性剤の分類」「コロイドの電気泳動」「イオン交換樹脂」「酸化還元」「化学発光」の単元で教材化が可能である。
色素増感型太陽電池(DSSC : Dye-Sensitized Solar Cell)は低コスト製造の可能性がある次世代太陽電池の1つで,色素を利用するためカラフルな太陽電池を作ることも可能である。また,特別な装置を使用しなくても実験室で簡単に作ることもできる。DSSCの発電には酸化還元などの化学が重要な役割を果たす。したがって,DSSCは有望な次世代太陽電池としてのみならず,化学や太陽光エネルギー変換の実習教材としても優れているということができる。そこで本稿では,このDSSCの発電機構を概観し,実験室で可能な作製法と評価法を紹介したい。
胃は,食物を摂取した後,弛緩と蠕動運動により摂取物の移動を適切に調節すること,酸による雑菌の殺菌,食物の消化とを司る。その機能は,胃底部および胃体部の弛緩収縮と酸分泌,胃前庭部の蠕動運動とガストリン分泌とによって行われる。すなわち,胃は機能的に二つの臓器から成り立っていることになる。さらに,胃で分泌された酸は,十二指腸への流入状況によって様々な消化管ホルモンを介して生体機能および食行動の制御を行っている。