単元の最後に学習をしたことを活用して思考する課題を提示することで,どの児童らも主体的に思考できるような授業を目指している。小学6年生の学習では,「ものが燃えるしくみ」について学ぶ。単元の学習が終わったとき,二酸化炭素には火を消すはたらきがあると考える児童がいる。そこで,酸素と二酸化炭素が約半分ずつ含まれる混合気体を集気びんに入れ,火のついたロウソクを入れるとどうなるかという課題を提示した。児童らは,学習したことを活かして予想を立て,その後の討論も活発なものとなった。その授業について紹介する。
2021年春から実施されている新学習指導要領では科学的な探究の過程について,自然現象に対する気付き,課題の設定,仮説の設定,検証計画の立案を経てやっと実験に至ると示されている。しかし,従前,多くの高校の生徒実験では生徒がいきなり実験室に入って指示されるがままに手を動かすことが多く,その準備を十分に行わせていることが少なかった。そこで,今回は探究の事始めにおいて,既存の実験に下調べについての適当な誘導を加えることで,実験の目的を焦点化した事例を報告し,その設計方針を提案する。
高等学校の現場では,酸化数は計算のルールを覚えさせ,酸化数を求められるようにすることに意識が置かれがちである。計算により酸化数の増減を求められることは大切だが,その前に酸化数の意味や本質を学ぶことでより深い理解につながり,生徒の「わからない」を解決する一助となると考えた。本稿では,複数の分子の電子式(ルイス構造式)から酸化数を考える実習を通じて,酸化数のルールを生徒自身に考えさせる授業について紹介する。
本校では小・中学生向けに公開講座やジュニアドクター育成塾を積極的に実施しており,著者はその中で界面活性剤・乳化剤に関する実験を担当している。講座では食品の乳化実験として卵からマヨネーズを作る実験を実演し,卵の代替品でマヨネーズを作る方法を講座参加者と考え,討論する時間を取り入れており,考えることで化学の楽しさを感じてもらえるよう努めている。本稿では,著者が実施している公開講座の概要と講座参加者の体験結果を紹介する。
昨今,SDGs(Sustainable Development Goals)の言葉がマスメディアに頻出している。そのため,学生の知りたいという意欲が高い。しかし,学生の意欲に反して,知りうる内容は表面的な知識にとどまっている。筆者の所属している理学部の学生は,SDGsと自分の専門や研究とが関連しているという認識が極めて薄い。筆者は,20数年有機化学を教えてきた。その中で当初から意図したわけではないが,専門の有機合成化学とSDGsや環境教育を関連づけて教えている。その一連の取り組みについて紹介する。
当研究室では,アルカリ水溶液とプルシアンブルーとの間で起こるアルカリ加水分解反応について分光光度計を用いて解析を行い,アルカリ水溶液の種類によってプルシアンブルーの分解の反応速度が変化する現象を明らかにした。本稿では学校現場で分光光度計を用い,このような反応速度を確認する方法について紹介する。
高校化学の「原子の電子配置」の学習段階において,軌道理論を用いた説明をどこまで踏み込むべきだろうか。本報では学習指導要領や教科書における扱いを概説するとともに,授業の進め方の一例を紹介しながら,ともに考えていきたい。
メタンの正四面体構造,およびエチレンの平面構造について,炭素原子の混成軌道の概念を用いて説明する。また,エチレンの二重結合についても,原子軌道の重なりという観点から説明する。これらの考え方は,高校化学の新学習指導要領で求められる「有機化合物の構造と電子配置の関連」の学習に役立つものである。
金属原子に複数の配位子が配位結合した錯体の電子状態は,金属原子と配位子の電子軌道が混成してつくる分子軌道の概念に基づいた配位子場理論によって実際に近いモデルで説明できる。原子価結合理論や結晶場理論を経て,たどり着いた配位子場理論の概念を解説する。
食品用の合成着色料のいくつかは,次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤によって迅速に漂白される。この現象は,化学的手法による汚れの除去を可視化するモデルとしても活用できると考え,教材開発を行った。まず,合成着色料の水溶液の漂白特性を調査し,漂白されやすい3種類の色素を見出した。そして,合成着色料で染色した試験片が次亜塩素酸ナトリウムにより漂白される様子を観察する実験授業を実施するとともに,化学マジックでの活用を模索した。