「目的意識をもって観察,実験などを行い,科学的に探究する能力と態度を育てる」ことは,学習指導要領に明記された理科の目標であり,本来,すべての生徒は観察実験などを通じて探究的に理科を学習しているはずである。しかし,科学的探究能力の中身については明確な規定がなく,実施すべき観察実験も指定がない状況で,日本の高校理科では,観察実験活動に乏しい座学が一般的となっている。本稿では,英国や米国の取り組みを参照しながら,すべての生徒に身につけさせる科学的探究能力を明確にする必要性について論じる。
化学を学んだ人々が有する基本知識や技能(化学リテラシー)は,現代の高度情報社会にあふれる問題情報を整理し,賢い消費行動を実現できる力をもつ。サプリメント広告を例にあげて,この問題の現状と将来の解決の方向性を描くことにより,化学を学ぶことの重要性を浮き彫りにしていく。
近年,科学・技術と社会の結びつきの方法として,サイエンスコミュニケーションが注目されている。その一つの手段として,科学者・技術者と一般市民が,科学・技術の情報を,日常で共有する場づくりを目指す,サイエンスカフェがある。より専門性の高い情報を市民と共有し,個人や社会に及ぼす倫理的・社会的視点からの情報も得た上で,自らの生活に,それらの技術を利用するか否か,その意思決定をする場としての可能性を紹介する。
国立科学博物館では,全国の科学系博物館において人々の科学リテラシー涵養が効果的に行われることを目指し,その目標を体系化するとともにモデル的事業を実施している。またその成果が継続的に発揮されるため,事業をとおして社会とのコミュニケーションをはかっていきたいと考えている。本稿ではその背景と具体的な事業について報告する。
栃木県の代表的な農産物であるかんぴょうは,輸入品の増加や生産者の高齢化による減産などから生産量が落ち込んでいる。さらにかんぴょうは,食品としては地味な存在であるため,消費増につながる新製品開発が難しく,栃木県の特産品としての地位がゆらぎはじめている。そのため従来の食品としてかんぴょうにアプローチするのではなく,工業製品として改めてかんぴょうを捉え直し,利用増できる新製品について可能性を探っている。現在までのところ,かんぴょうの構造を利用した吸湿剤(乾燥剤)としての応用性が判明し,高湿度下における有効性が確認できた。この乾燥剤は,自然由来の原材料であることから,誤食誤飲時の安全性をもつ乾燥剤であるといえた。その一方で,かんぴょうの乾燥剤としての作用は複雑であるため,吸湿性能を上昇させるためにもさらなる検討が必要であると考えられる。
繊維の女王として未だその地位を譲らない絹(シルク)は,衣料用素材として6000年以上の歴史がある。カイコが常温常圧で紡糸するメカニズムは,シルクの特徴的な化学構造によるところが大きい。このメカニズムを有効に生かすことで,シルクタンパク質を水溶媒により常温常圧で,フィルム,スポンジ,ゲル,ナノファイバー不織布へ加工することが可能となる。一方,シルク(絹糸)は,外科用縫合糸として古くから臨床的に使用されてきた生体親和性に優れた医療用素材でもある。加工性と生体親和性を生かすことで,医療用材料として,特に再生医療用細胞足場材料としての,シルクの利用研究が活発化している。シルクスポンジ内に軟骨細胞を播種して,軟骨欠損モデル動物に適用したところ,広範囲の軟骨欠損患部に良好な軟骨組織の再生が確認された。新しい軟骨再生治療法へのシルクの活用が期待できる。
本格焼酎の伝来は明らかにされていないが,その仕込み法は,鹿児島で独自に発達し個性豊かな味わいを持つ蒸留酒として全国各地で愛飲されている。しかし,全国に広まったのは1980年代以降であり,それまでは南九州の地酒として飲まれていたものである。ここでは,本格焼酎の歴史や製法,香りの由来や生成機構,機能性などについて紹介する。