文化財の保存修復と化学の関わりについて述べる。文化財科学という分野についての紹介と,その中での仕事の内容を通じて,高校時代における進路選択で念頭に置いておいてほしい視点について記載する。
近年,犯罪は複雑・巧妙化している。安全・安心な社会を実現するには,科学捜査技術の一層の高度化が求められている。犯罪は証拠によって明らかにされるので,化学は科学捜査において重要な役割を果たしている。その基礎は中・高校で習う化学である。覚せい剤などの乱用薬物,自動車塗膜片などの微細工業製品の鑑定の概念の一部は,高校までの化学で理解できる。学校で習う化学と関連付けて科学捜査研究の成果を紹介する。
製薬企業における化学とつながる職業の一つとして,低分子医薬品(化学合成医薬品)の研究現場で活躍する創薬化学者(メディシナルケミスト)がある。本稿では,中学・高校で化学を学んだ筆者がなぜ大学で薬学を学び,企業研究者としてメディシナルケミストを選んだのか,また製薬企業で化学がどのように役立っているかについて自らの体験をもとに述べる。
私の化学に携わる道は,幼い頃抱いた夢から始まり,現在に至る。しかし,その仕事内容は幼少期の夢の内容とは大きく異なる。これは,自身の成長や様々な経験を通して,学んできた化学をどう社会に役立てられるか熟慮して辿りついた結果である。人々の生活を豊かに幸せに導くことができる化学だからこそ,私は化学を日々の生活に密着した製品に最大限に活かして,世界中の人々の幸せな笑顔作りに貢献していきたいと考える。
現代の産業の発展は,目覚ましい科学技術の成果に負うところが大きい。産業の基盤を担う素材の中でも,化学材料はあらゆる分野に必要不可欠であり,材料自身や複合化の技術開発は,革新的な高機能化や新しい特性を発現する可能性を秘めている。化学メーカーの研究開発職は,学生時代に学ぶ化学を基礎に,応用発展する力と柔軟な発想力をもって新しい製品を生み出していく。
電子,原子,分子といったミクロスケールまで踏み込み,原理原則に立脚する化学は,モノづくりの様々な領域で役に立っている。例えば,自動車材料において背反関係にある複数の機能を原子配置や分子構造の制御により,両立できる可能性がある。また化学は,他の技術と融合することでその力を最大限に発揮し,将来にわたって科学技術の発展への貢献が大いに期待される。
日本消防検定協会は国内で唯一の消防用機械器具の検定機関である。消火器一つをとっても,その機能や種類はさまざまであり,化学の知識を生かす場面は多い。私が進路として化学を選択したきっかけから,化学の知識がどのように消防に役立ち,消防機器の検査に活かされているか,消火器を例に化学科出身者としての目線で紹介する。
化学を大学の進路として選び,現在はTHK株式会社という機械部品メーカーに勤めている。学んできた化学の知識は弊社の製品にとって重要な要素である「摩擦」・「潤滑」を考える際に活きてくる。化学を学ぶ過程で得た考え方をベースにしていくことで機械系業界という職業の選択がある。
化学発光は,高校化学においては現在の学習指導要領で「化学反応と熱・光」の例として初めて登場した。このようにその歴史は比較的浅く,授業での取り扱い方も学校によって異なるものと思われる。また,化学発光に関する実験も,あまり種類が多くない。ここではまず,化学発光とは何かを確認する。さらに,身近にある薬品や化学実験室によくある試薬で行う,化学発光の実験を検討したので紹介したい。
光を化学反応を推進するエネルギーとしてだけでなく,化学反応を操る刺激として用いる,光応答性触媒の開発が近年進められている。光応答性触媒は,非侵襲性の光を外部刺激として用い,反応系中において可逆的に触媒機能を切り替えるため,化学反応を段階的に高次に制御し得る有用な化学変換ツールとして捉えることができる。光による可逆的な触媒機能の切り替えは,光応答性の触媒構造変換(触媒反応空間の構造変換)によって実現されており,フォトクロミック分子の光応答性の構造変換が利用されている。光応答性の触媒構造変換に基づく,①協同機能性触媒の協同機能制御,②触媒活性中心の遮蔽環境制御,③触媒活性中心の電子状態制御等によって,触媒機能の切り替えが実現されている。次世代型化学反応制御に向けた新たな光の利用が展開されている。
匂いの感覚は,鼻腔内の嗅覚受容体を匂い物質が刺激することにより生じる。ヒトは約400種類の嗅覚受容体を持ち,それらを無数に存在する匂い物質が様々なパターンで活性化させるので,我々は膨大な種類の匂いを区別して感じることができる。また,嗅覚受容体には遺伝子のタイプが多数存在し,その差異が匂いの感受性の個人差を生み出していると近年明らかにされた。
N-クロロスクシンイミド(以下NCSと記す)とヨウ化カリウムを酢酸中で反応させて一塩化ヨウ素を調製し,これを用いて油脂のヨウ素価を測定する実験を検討した。またこの一塩化ヨウ素を用いて,比色により油脂のヨウ素価の大小を比較する実験を検討した。NCSはWijs試薬に比べて揮発性・腐食性が小さく,安全に扱うことができる。また本法では従来のWijs法に比べて付加反応に要する時間が短く,廃有機溶媒の量も少ない。