現代をより安全で豊かな社会にするために,一般の人すべてが化学のリテラシーを身につける必要がある。本フォーラムでは,日本の化学リテラシーの現状を紹介していただき,化学を様々な観点から工夫し指導することで生徒の化学リテラシーを身につけさせようとする授業の実践例を講演いただいた。
化学リテラシー構築の基盤となる中等化学教育の基本概念を確立させるため,日本化学会の約60年にわたる化学教育への取り組みの歴史を調査した結果,「粒子」,「エネルギー」,「環境」,「グリーン・サステイナブルケミストリー(GSC)」などの概念が重要であることがわかった。現在,日本の教育風土(小・中・高一貫性,教材・教具,学習時間など)にあう中等教育における化学の基本概念や文脈を踏まえたカリキュラムづくりが求められている。これまでと同様に日本化学会が牽引役となり,中等化学教育の諸課題に取り組む必要があると考える。
「科学リテラシー」が育成されるのは,授業のどのような場面かを考える。生徒が得た知識を活用する場面を多く盛り込んだ授業を2つ紹介する。1つ目の授業では,「状態変化」の知識を用いて目の前の現象を説明していく。2つ目の授業では,「化学変化」の知識を用いて,課題を解決するための実験計画・検証を行っていく。どちらも,「たとえ目に見えなかったとしても,そこに存在している。」ことを自信もって説明できることを目標の1つとしている。原子・分子の存在を十分に理解し,その状態や動きについて自分の言葉で表現できたときに,科学リテラシー獲得への最初の大きな一歩となるのではないかと思う。
物質の学問である化学では,より多くの物質にふれていくことが,生徒の興味をそそるとともに,学習内容理解を深めるのに役立つ。そのため,化学の授業では実験の重要性は広く認められている。しかし,学校現場では授業時間数や設備などの問題で思うように実験できない状況は少なからずある。ここでは,化学の授業において実験時間を確保し,生徒が物質にふれる機会を多くつくる工夫を考えてみた。
物質を探究する学問である化学には,物質に触れること,本物を見ることが大切であり,実験は欠かせない。授業時間不足,演習を優先,学校の状況などを理由に,生徒実験がされていない実態がある。しかし,効率化と工夫をすれば,毎週でも実験をすることは可能である。本校での工夫と先人たちの智恵を紹介する。
太陽の光を直接電気に変換できる太陽電池は近年急速に普及しているが,ほとんどはシリコン(Si)を原料にしており,作製に1500度以上の高温が必要であった。太陽電池を作るためのエネルギーを回収できる年限(エネルギーペイバックタイム:EPT)は,シリコン系太陽電池は1~2.5年程度とされているが,低温で作製できる塗布型の太陽電池は1年以内といわれている。これまで低温で作製する太陽電池は半導体特性が結晶性シリコンほど良くなく,太陽光変換効率は結晶性シリコンの半分程度であった。最近,低温塗布で作製しても結晶性シリコンに迫る効率を有するペロブスカイト型太陽電池が発明され,世界中で多くの研究者が基礎研究,応用研究,実用化研究に取り組んでいる。本講座では,ペロブスカイト太陽電池の基礎,仕組み,研究動向について解説する。
太陽電池に代表される再生可能エネルギーの利用は,今後ますます重要性を増している。太陽電池としては,シリコンで作られる結晶(多結晶含む)シリコン太陽電池やアモルファスシリコン太陽電池などが市販されており,最近では化合物半導体を用いたCIGS太陽電池なども登場しており,市場の拡大とともに低価格で高性能な太陽電池が求められている。有機薄膜太陽電池は2015年に市販化が開始された生まれたての太陽電池である。色素やポリマーを原料とするため材料費は安く,いわゆる塗布による印刷工程で太陽電池の作製が可能であるため,大幅な低コスト化が可能であると注目されている。
本稿では化学プロセスにおける抽出操作の原理とその実例について概説した。まず抽出操作の分類と最近の動向について触れた。次に2相間の分配に基づく物理的な液液抽出では有機溶剤を用いた酢酸の抽出を例に,プロセスおよび装置の概要ならびに溶剤の選定法について述べた。化学反応を用いた反応液液抽出では銅イオンの湿式製錬プロセスを例にプロセスの概要ならびに抽出剤の役割について述べた。固液抽出では銅鉱石からの銅イオンの浸出,天然物からの有用成分の分離を例にプロセスおよび装置の概要について述べた。
加圧を伴わないサリチル酸の合成(コルベ法)の実験教材化を検討した。ナトリウムメトキシドを塩基としてセライト中でナトリウムフェノキシドを調製することで,中和における水の生成を回避しながら二酸化炭素との反応を円滑に進行させた。またセライト中でサリチル酸を遊離させて昇華することで,サリチル酸と残留フェノールとを分離した。得られたサリチル酸は,塩化鉄(Ⅲ)水溶液および炭酸水素ナトリウム水溶液との反応で検出した。