2022年度より実施される高等学校理科の新学習指導要領では,観察,実験を中心とした授業が求められている。このような授業実践ができる理科教員を育成するための視点,教員研修の現状と課題について整理する。さらに,理科教員研修(東京都)の実例として,理数系教員指導力向上研修,若手教員研修について報告する。この研修を受講した教員は,実験を授業に取り入れ,研究会などに積極的に参加した。また,実験などの教育研究を発表する教員が増加した。コロナ禍においても,生徒実験の重要性を再認識し,実験指導法の再検討・構築をする必要がある。
経験豊かな教員の退職とともに多くの若手教員が採用され,教員の世代交代が進んでいる現在,未来を見据えた教員の人材育成が求められている。観察・実験の技能や授業づくりの知識を伝承するためには,校内外の同世代や異なる世代の教員が関わることが必要となる。教員をめぐる現状と課題から,静岡県では新たな研修体系を構築・実施し,コロナ禍においても若手教員の資質能力の発揮・向上を支援するとともに,理科教員に対して観察・実験の技能の習得と向上のための研修機会を提供している。
教員を目指す学生は,高等学校での実験経験が少なく,授業に実験をどのように取り込めばよいのか,実験のアイディアをどのように集めて考えるのか不安を持つ者が少なくない。中等教育で理科を指導する際の実験指導を東京学芸大学キャリア講座の中で実践してきた。講座の振り返りには,簡単な現象を実験で理解させるべきことや,実験を通して化学の面白さを「魅せる」ことの大切さ等が示されていた。教員志望の学生に,理学部レベルの実験の技能を身につけさせることも確かに大切であるが,教員養成大学ならではの実験指導も必要である。
イオンという言葉は化学の世界にとどまらずテレビのCMにまで広がっている。銀イオンによる抗菌作用や身近な家電製品の広告にもイオンという言葉が使われているものもある。イオンとはどんなものなのか。中学理科や高校化学で扱う範囲を少し広げた科学の視点からイオンをとらえてみる。
イオン結合性結晶は,その凝集力が静電的相互作用によるものと解釈されるため,理論的な取り扱いにより,凝集エネルギーを比較的容易に見積もることができる系である。本稿では大学初等レベルの無機化学で学習する,イオン結合性結晶の格子エネルギーの求め方を,わかりやすく解説する1~3)。
化学者から眺めると,生命活動は緻密に制御された化学反応の織りなす作品と言える。多くの分子の機能が注目されるが,実際は分子間の相互作用が重要で,なかでも静電相互作用は遠達力で極めて重要な作用力である。反対電荷のイオンが相互作用して形成する塩は生体内でも多く見出される。本稿では,このような静電相互作用を積極的に『デザイン』することによって,形成される塩の特性を大きく変える方法論を実例と共に紹介し,それによって新たに見出される物性や機能についても紹介する。