学習指導要領の改訂に伴い,2023年4月から高等学校の化学で「エンタルピー・エントロピー」に関する指導を行うことが確定した。本稿では,筆者の国際バカロレアディプロマプログラムの指導経験を基にした高校生に対する身近なものを用いた「エンタルピー・エントロピー」の指導例を紹介する。
学習指導要領の改訂で,従来の熱化学方程式は消え,定圧反応熱はエンタルピー変化表記になる。高等学校における授業を考えた際,限られた時間内で何をどこまで伝えるか。その一助になることを願いつつ,高等学校を卒業したばかりの大学一年生に向けたエンタルピーやエントロピーの講義現場から,その工夫を考える。
物質を構成する原子や分子は温度により多くの原子欠陥を生成する。この欠陥が増大すると固体から液体へ液体から気体に変態する。この物質の乱雑さの尺度がエントロピーである。この欠陥は外部からの熱の出入りにより変化する。この熱がエンタルピーであり,内部エネルギー変化と物質がする仕事に使われる。この熱で物質に流入するエントロピーより物質のエントロピー変化は常に大きい。その差はエントロピー生成といい,常に正で自然に起こる過程は不可逆である。エントロピー生成は熱や成分などの流れが生じると生成し非補償熱として散逸する。安定した定常状態ではエントロピー生成が極小であり,大きくなると他の定常状態に遷移することがある。
水は変わった液体である。その奇妙な特性から多くの物質を溶存させる。水の惑星に住む我々にとって水はかけがえがなく至る所で役に立っている。水の分析を行うことは地球環境を知ることでもある。水に溶けている物質をはかるための様々な機器分析装置のうち,本稿では金属元素の分析のための原子スペクトル・原子質量分析装置に焦点を絞って解説する。分析値の信頼性についても紙面の許す範囲で言及する。
分析に用いる水は「精製水」あるいは「純水」と呼ばれ,様々な処理を施し精製されている。純水はその精製方法により「蒸留水」,「イオン交換水」,「逆浸透(RO)水」といった呼称がされる場合もある。「超純水」は,これらの純水に活性炭処理,UV照射,膜処理(ろ過)などを加えて,さらに水質を高めた水である。「超純水」は非常に高感度な分析にそのまま使用できる高い水質を有している。
地表河川や地下水に溶存する無機成分の濃度を決めるメカニズムを明らかにする目的で,水の微量成分の分析法(固相分光法)を開発し,得られた分析値を化学平衡論,反応速度論に基づいて解析を行った。溶存クロム,鉄の酸化数が天然水中で決まる要因を明らかにするとともに,石灰岩地域や砂漠地域での地下水の水質形成に関しても議論する。