新学習指導要領の特徴は,学習評価の観点が「知識・技能」,「思考・判断・表現」,「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に整理されたことにある。探究の過程を重視した授業づくりが期待されているが,実験・観察など,化学教育の根幹ともいえる部分の重要性はいささかも変わらない。また,教科書編纂においては,日本化学会からの提案が大きく反映されている。本稿では,新課程における学習評価,「化学基礎」の教科書の記載内容の変更,思考・判断・表現を問う例題などを紹介する。
今春から実施される学習指導要領では実験の授業の扱い方について非常にたくさんの示唆がなされている。しかし,この4年間,学校現場では次々と課題が湧き,腰を据えて新しい学習指導要領の準備をできた現場は少ないのではないだろうか。そこで,本稿では(恐れ多くも)カリキュラム整理術と題して,新しい学習指導要領の掲げるカリキュラムに迫るために,実験を「実施のタイミング」「検証型・探究型」の二軸で分類したり,各実験について育みたいスキルを列挙することを通じて,カリキュラムの整理を行うことを提案したい。
生徒が自然科学に関する知識を深めながら,多様な価値観を有する他者と協働することは,新たな視点を獲得し,新しい知見や価値,発想の源泉となる「飛躍知」の育成につながる。これまで,著者の勤務校では深化された探究活動と探究化された教科授業との間を往還により「飛躍知」の育成を目指してきた。本稿では,化学の授業に焦点を当て,理科の他科目との融合,理科と数学との融合授業に関する実践から,これからの時代に求められる化学教育について考える。
生体内では生命活動を維持しそれを次世代に継承するためにタンパク質や核酸(DNA, RNA)などの生体分子が活躍している。しかし,それらのいわゆる「生体分子」だけが生命現象の担い手ではない。「生体分子」が機能を発揮するためには「水」という物質の存在が不可欠である。近年,タンパク質などの生体分子に「認識」された水の構造や機能を記述する統計力学理論(RISM/3D-RISM)が提案され,生命科学分野に大きな進展をもたらしつつある。本稿ではこの理論とその応用例について解説を行う。
水は,地球表面の7割を覆っており,成人のヒトの体重の7割を占める。水は地球に生命が誕生するために,また地球上の動植物の生命活動に不可欠な液体である。水は,正常な液体に比べて多くの異常性を示す。水の構造や特性は1世紀以上にわたり研究されてきたが,現在も水の本質を解き明かすモデルが活発に研究されている。近年,種々の実験技術の進歩により,広い温度圧力領域や特殊環境下での水の構造が明らかにされている。
医療製品の開発には,生体に接触する環境で安全に機能する生体親和性に優れたソフトバイオマテリアルが必須である。医療製品は,使用する前の滅菌済みの乾燥状態から,使用時にはウエットな状態に変化する。本講座では,製品使用環境で存在する水の視点を考慮し,材料と生体の接触点であるバイオ界面の設計における課題と進展について概説する。生体親和性に強く影響する材料—細胞間相互作用には,多くの因子が関与している。我々は,生体親和性合成材料と生体分子に形成される水の状態を調べ,特定の構造と運動性を有する中間水が共通点であることを明らかにした。中間水のバイオ界面における役割について考察する。
物理,生物,化学のいずれにも深く関わる,分子の自己集合現象に関する新たな法則が見つかった。これは,自己集合生成物が,ゴールドバーグ多面体と呼ばれる一連の数学的操作により構成される多面体群と深い関わりがあるという事実である。自己集合の法則を明らかにすることは,分子集合体の設計指針を立てる上で非常に重要である。
クモの牽引糸は,その強靭な物性から,構造材料など幅広い分野への応用が期待されているが,その形成機構は明らかになっていない。著者らの研究グループでは,牽引糸を構成するシルクタンパク質の分子機構として,シルクタンパク質が液-液相分離を経由し,網目状のマイクロフィブリルを形成することを示した。さらに,マイクロフィブリルが束状に集まった牽引糸と同様の階層構造を再現することに成功した。