世界を襲った新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは,人々の生活を一変させ,学校教育に与えたダメージも計り知れない。この間,小・中・高等学校,大学,研究機関は,極めて厳しい対応と状況が続いた。そして,2020~2021年度の学校現場は対応に追われる二年間となった。一斉休校の要請から始まり,密を避けなければならないとの理由から,経験したこともない新しいことと日々格闘してきた。現在は,小・中・高等学校ではほぼ全面的に対面授業が行われており,大学でも対面授業が増えてきている。この先は新型コロナウイルスと共生しながら,教育活動や研究活動を行っていくことになると思われる。この間,確実に進んだのは,「学校のオンライン化」である。特にコロナ禍での様々な工夫や取組を共有し,今後に生かしていくことは大変重要である。「学校のオンライン化」の加速は,今後の学校教育を大きく飛躍させる可能性があるとともに,一方で本質を見極め,現状の課題に正対してその解決を目指す取組が進まなければ,我が国の培ってきた学校教育を停滞させかねない。いわばもろ刃の剣なのである。これを機に学校の在り方を根本から見直し,学校や授業での課題に向き合い,急速に進む国の「学校のオンライン化」を取り巻く教育政策動向を見据えながら,コロナ禍を越えて,求められる学校教育や授業の在り方について検討する。
新型コロナウイルス感染症が蔓延した2020年春,国内の教育機関はオンライン授業に切り替わった。その際に化学の学生実験もオンラインでできないかと考えて実施した例について,実験内容および授業の概要,さらに実施によって明らかとなった問題点も含めて解説する。
2020年度は広範な社会活動がCOVID-19への対応を迫られた。日本大学医学部の場合,1年生向け教養の授業はすべてZoomによる配信またはオンデマンドの動画視聴,課題提出に変更された。化学については,実際に手を動かして自分の目で見る過程を経なければ,分子レベルの現象を感覚として理解することは困難だと考えられる。そこで,最小限の学習目標を達成できる範囲で,学生の自宅で実験を行ってもらった。テーマ選定に際して留意した事項,各テーマの概要と改善すべき点について解説する。
本校はSSH指定校となり3期14年目を迎えた。SSH校となって最初に取り組んだのは授業改善1)である。その特徴は豊富な実験である。中高一貫教育の利点を活かし,中学から高校までの6年間で約100テーマの化学実験を生徒自身が行っている。そのため授業ノート以上に,実験ノートの方が厚く充実する。高校2年次に課題研究を実施するにあたり,より多くの実験技術を普段の授業で身につけさせたいと考え実施した結果である。しかし,コロナ禍において生徒実験やグループ学習が制限された。まさに翼をもがれた気分である。このような中で,ICTを駆使して化学実験の原体験をいかに担保するか,本校教員の試行錯誤の現状を報告する。
佐賀県の公立高校では全国に先駆け,2014年度より生徒全員に1人1台のタブレットPCを整備し,学校生活全般において活用してきた。この7年間の環境整備の経緯や現在の本県のICT機器の活用状況について報告する。また,本県の私立高校でオンライン授業を実施した際,特に化学の実験を配信した様子について報告する。
キラリティは,像とその鏡像とを重ね合わせることができない事象であり,典型的には生命を構成するL-アミノ酸やD-糖に見られる。キラリティを持つ有機化合物の起源および生命が一方のキラリティ(ホモキラリティ)を持つに至ったプロセスに関する研究について解説する。
鏡に映った自身の鏡像は,どう回転させても実像とは重ね合わせることができないという性質をキラリティというが,分子の世界にもキラリティは存在する。すなわち,実像の分子構造とは鏡像関係にある分子構造をもった,いわゆる鏡像異性体と呼ばれる分子が存在する。本稿では,キラリティをもつ分子が“くすり”として用いられた際に,そのキラリティの違いが人体にもたらす影響について具体例を交えながら概説する。
不斉中心を有する有機化合物は通常,エナンチオマー(鏡像異性体)が存在し,それら異性体間で,生理活性が異なることが知られており,私たち生物はその差を認識している。香りの世界においても,エナンチオマー間で,多くの場合,香気が異なり,本稿では,事例も含めて紹介する。また,自然界に見られる植物の二次代謝産物として知られる精油や揮発性の香り成分の多くは,光学活性体として存在している。異性体間で,香りの香調や強度が異なるため,光学活性体を作り分ける技術の開発が求められており,不斉合成例に関しても解説する。