小学校第6学年「水溶液の性質」で,「塩酸と鉄の反応」は粒子の結合といった,児童にとっては未知なる,そして難しい「わかりにくい自然現象」の1つである。そこで,諸感覚を働かせながら,化学変化を図や絵,文で表現し,説明する活動の充実を図った。この活動を通して,児童の思考力,判断力,表現力等の育成につながった。
携帯電話をはじめ私たちの生活は今や電池なしでは考えられない。また自動車も将来ガソリンエンジンがなくなり充電式の電気自動車や燃料電池車となるであろう。これからの脱炭素社会を考えるうえで電池はもっとも重要な位置を占める。イオンと電子の振舞いから電気分解の反応について学び,電池の原理の理解を深めるための中学理科の授業について教科書の変遷とともに述べる。
福井県教育総合研究所教科研究センター理科教育課サイエンスラボ(以下,サイエンスラボと略)では,県内高校生で,理科の内容への関心が高く,学ぶ姿勢を有する意欲的な生徒を対象として「わくわく!アドバンス実験講座」を実施している。この講座では,論理的思考力を高めることを目的としており,その実践を紹介する。特に,化学講座の内容及び第1回講座「金属イオンの定性分析」で行った実践について報告する。
化学は目に見えないミクロな存在である原子,分子,イオンを扱い,化学式や化学反応式が化学の言語となる。高等専門学校の低学年の学生にとっては,この目に見えないものを講義のみで実感し現象を理解することは容易ではない。高等専門学校(高専)では,実験・実習を重視しているが,講義で学んだ内容を実験によって体験的に経験することで化学知識の理解を深めている。本稿では,富山高専物質化学工学科における無機・分析系の実験科目における取組みを紹介する。
化学熱力学の概念を分子レベルからの具体的なイメージをもって理解するために,分子動力学シミュレーションを用いた「アルゴンの融解」の実習を行ってきた。学部学生実験の1テーマとして,また来学の高校生に対して行ってきたその実習内容を紹介するとともに,成果と展望を述べたい。
元素は,宇宙にきらめく星々や,地球とそこに棲む生き物,そして身の回りのすべてのものをつくる最も基本的な成分(要素)である。元素とその秩序を示す周期表をどのように楽しく学ぶかは,化学の第一歩であろう。小・中学生のころから遊びながら元素と周期表に親しみ,知識を得ることに興味を持ち,それを持続する一つの方法として,元素カードゲームの効用を紹介する。
今日では有機化合物の種類・構造を調べるのに種々の機器分析が多用されている。なかでも核磁気共鳴分光装置と質量分析計は化学者にとって構造解析に欠かせない必須の分析機器である。ここでは核磁気共鳴分光法と質量分析法を用いた有機化合物の構造決定の基本的な原理と概略を紹介する。
NMR(核磁気共鳴)分光法は,19世紀終わりから20世紀初頭の量子力学の発展に伴って発見・実現されてきた手法である。そのため,他の分析手法と比較して,その発展には多くのノーベル賞科学者らが寄与している装置となっている。現在においても性能の改善や新しい手法が次々世に出ている装置であり,今後ますます発展していく手法と思われる。NMRは基本原理の難解さや応用の多様性のため,他の分光法よりも理解しづらいものと一般には思われている。また,その得られる情報が多岐にわたるということもあり,たとえ原理を理解していても難しく感じる要素は多い。ここではNMRで観測される個々の現象についてはあまり深入りせず,装置の概要や実用例を示すことで,NMRで何ができるのかについて紹介することにした。この文章がNMR分光器に興味をもつきっかけになれば幸いである。
化学分析は,環境汚染物質の計測や食品中の栄養成分分析,医薬品の品質管理等多岐にわたり活用されており,その手法の一つとして質量分析法がある。近年,高耐圧高速デバイスの実用化およびコンピュータの計算処理能力の向上により高速動作,多数の分析データの高速処理が可能となり,分析ラボにおいて,作業者にとって身近な分析機器となりつつある。しかし,質量分析装置において,試料はどの様に処理され,分析データが得られるのか,その仕組みはブラックボックス化している。そこで,本編では質量分析の原理から応用データまでを紹介する。
「光と色と色覚」を科学教育の観点で捉えると,高等学校理科はもとより,教科等横断的な視点に立った探究課題となる。現在,コンピテンシー(資質・能力)育成を基盤とした色に関する教科等横断的な視点に立った化学教育プログラムの開発は喫緊の課題である。本稿ではその第一段階として,「光と色の科学」と「化学変化を利用した身近な具体例・応用例」について述べる。
機能的価値以外の価値として,「感性価値」が注目されている。日本の化学企業は,合成,配合,加工などの技術を用いて,五感に訴える様々な特性を持った感性価値を付与したマテリアルを積極的に提供できる立場にある。近年,感性価値に注目したマテリアル開発に関して,化学企業からクリエイターやデザイナーへの発信が行われつつある。本稿では感性価値,感性価値製品開発のための化学企業の取り組みについて報告する。
油脂の空気酸化は一般に長時間を要する。筆者らは,油脂をろ紙に塗布することで,空気酸化が加速されるだけでなく,少量の油脂でその酸化状態を容易に評価できることを見出した。この結果をもとに,油脂の酸化を食品の風味の劣化と関連付けさせることを目標とする授業実践を行った。連続する2日間(もしくは中二日程度)で実施できる点,および,生徒になじみのあるヨウ素の酸化還元滴定をもとに酸化の度合いを評価できることは実践の上での利点と考えられる。
炭素原子数が3~6の脂肪族アルデヒドによるフェーリング液の還元の反応性を,生成した酸化銅(I)の質量の大小により調べた。また,ホルミル基の水和により生じる水和型の割合を1H-NMRにより求め,反応性との相関を調べた。その結果,炭素原子数の増加やホルミル基近傍の立体障害によって反応性が低下すること,水和型の割合と反応性に相関があることがわかった。さらに,フェーリング液の還元がアルデヒドの検出法として適切かどうかを考察した。