レプリカ・セム法という新たな分析法を用いて,縄文土器の表面に刻まれた「圧痕」から,当時の人々が利用していた有用植物が数多く発見されるようになった。これらの植物種子の大きさや形態変化を分析した結果,エゴマやダイズ,アズキなどの特定植物が縄文人によって栽培され,日本列島独自に栽培化が進んでいたことが明らかになった。
日本刀の刀身は,内側の軟らかい鉄(芯鉄)を外側の硬い鉄(皮鉄)で包み込むことで製作される。皮鉄の素材を作るための技法として,刀匠が継承している卸し鉄という工程がある。低炭素の鉄に浸炭させる場合も,高炭素の鉄から脱炭する場合も,行っている作業は同様にみえるが,刀匠は,炉の深さや送風の強さなど,それぞれの目的に応じて理にかなった条件を達成させていることがわかった。
鎌倉時代以前の古写本の大部分は,掛軸などにするために頁毎・数行毎に切断され,現存するものは極めて少ない。しかし,切断された断簡としては,かなりの量が伝世している。これが古筆切である。ただし,古筆切には,後世に制作された偽物や写しも多く混在する。そのため,炭素14(14C)年代測定という放射化学的手法によって古筆切の真贋や書写年代を決定することは,失われてしまった古写本の一部分が復元されることを意味する。さらに,こうした古筆切を史料とすることで,新たな歴史学・古典文学・書跡史学の研究が可能となる。
正倉院宝物は,8世紀の歴史を今日に伝える貴重な文化財である。宝物に用いられた色料や接着剤を化学分析により調べたり,内部の構造をレントゲン撮影したり,微小部分を顕微鏡で観察したり,保存環境をクロマトグラフィーを使って調べたりと,宝物と化学との関わりは深い。本稿では,正倉院宝物を調査した事例を通じて,化学の重要性について述べる。
高吸水性樹脂(Superabsorbent polymer, SAP)は大量の水を吸収して瞬時にゲル化し,圧力をかけても離水しない機能性高分子材料である。工業生産されているのは主にアクリル酸塩とアクリル酸の共重合体を三次元的に架橋したものであり,紙おむつ,農業・園芸,土木・建築,化粧品など多岐に利用され,我々の生活に欠かせない材料の一つとなっている。一方で汎用合成高分子同様に,使用後の処理に伴う環境汚染,焼却処分によるCO2排出など環境問題への懸念もあり,生分解性を示すSAPの開発も検討されている。ここではポリアクリル酸系SAPの吸水・保水機構について構造的側面から説明したのち,木質の主成分であるセルロースを原料に用いたSAP合成方法と吸水特性,さらにはその生分解性について紹介する。
エマルションや泡などの流体から成る分散系を安定化するために,界面活性な分子(界面活性剤)が一般に用いられる。一方,ナノ・マイクロメートルサイズの微粒子も界面活性剤と同様に空気/水表面や油/水界面などの流体界面に吸着し,エマルションや泡の安定化剤として働くことが知られている。微粒子による安定化における重要な因子は,微粒子の流体界面に対する濡れ性(接触角)である。撥液性を有する微粒子を用いた場合,液滴が空気中に分散された系(liquid-in-air分散系)を安定化することが可能である。この分散系の代表例として,ドライリキッドやリキッドマーブル(液体ビー玉)が挙げられる。ドライリキッドは多量の液体をマイクロメートルサイズの液滴として含む粉体として振る舞う物質であり,リキッドマーブルは非付着性のミリメートルサイズの液滴であり,どちらも比較的容易に作製できる。このような特異な性質を触って実感できる点でも面白い物質である。
膜は,分離対象となる分子の大きさの違いを利用したり,膜素材への溶解性や拡散性の違いを利用したりし,いろいろな分子を分離できる。例えば,海水から真水を造る際には溶解拡散により分離する逆浸透膜が,メタンから水素を造る際には水素と二酸化炭素を分子ふるい機構で分離するシリカ膜が用いられる。バイオ分野ではタンパクの分離精製に膜が用いられるが,タンパクの膜への吸着による膜透過量の低下,すなわちファウリングが大きな問題となる。このため,アンチファウリング膜の開発が活発に行われており,膜表面のベタイン系ポリマーによる修飾がよい成果を上げている。
加水分解反応は,高等学校化学において最も重要な有機化学反応の1つであるが,定量的に扱う実験はほとんどない。そこで,本研究ではペンタ-O-アセチル-β-D-グルコピラノースの加水分解反応の経過を尿検査試験紙の色の変化から追跡することができる定量実験を開発した。