現在地球規模の気候変動が起こりつつありその対策およびエネルギー問題が喫緊の課題となりつつある。その最も大きな原因は化石資源(石油,石炭,天然ガス)の大量消費による二酸化炭素の大気中への排出と,将来想定される化石資源の枯渇である。化石資源に代わりうる代替エネルギーとしていくつかの可能性があるが,最も期待されているものの一つが再生可能エネルギーと水から製造される水素エネルギーである。二酸化炭素を排出しない水素の製造法とその応用についてここでは概観する。
人工光合成の実現は化学者の大きな夢であり,学術的に大変価値のある研究テーマである。さらには,社会的課題であるカーボンニュートラル,および資源・エネルギー・環境問題解決に寄与する科学技術になる可能性を持っている。本稿では,「人工光合成とは何か」,「グリーン水素製造のための粉末光触媒はどのように働くのか」,「性能をどのように評価するのか」について解説したのち,これまでの材料開発の動向を見ていく。
鉄は鉄鉱石から主にコークスを還元剤として製造されている。鉄は他の金属と比べると製造時のCO2排出は少ないものの製造量が膨大なため,その排出量も膨大である。そのため,世界の鉄鋼業は,2050年の製鉄のカーボンニュートラルに向けて,還元剤として水素を用いる研究開発が進められている。鉄鋼での水素利用は,技術開発のみならず,水素の大量かつ安価な供給が必須であり,社会全体での水素インフラ構築が不可欠である。
再生可能エネルギー(再エネ)が豊富な海外からエネルギーを大量輸入するためには,再エネから作った電気エネルギーを,化学エネルギーを有する水素分子に変換し,さらにそれを,より運びやすい形態にする必要がある。これを水素キャリアと呼ぶ。水素キャリアには液体水素・アンモニア・有機ハイドライドがあり,それぞれ長所・短所がある。本稿では水素キャリアの特性比較と,有機ハイドライドの一つであるMCH(メチルシクロヘキサン)について,電気から直接合成できる新技術Direct MCH®も含めて解説する。
同素体は,物質と元素,単体,原子などをつなぎ,化学における粒子概念を形成するために非常に有用な教材として,高等学校における化学基礎の中で重要な位置を占めている。今回は,この同素体について,高等学校を中心とした教育課程における位置付けや扱い,実験を中心とした実践事例の紹介を通じて,教材としての価値を確認していきたい。
炭素原子から構成される物質は多様であり,炭素同素体であるダイヤモンド,グラファイト,グラフェンをはじめ,その構造や組織形態の組み合わせによって様々な炭素材料が創り出されてきた。これらの炭素材料は現代社会を支える重要な技術に応用されており,特にナノ炭素材料は次世代の新技術への応用が期待されている。
元素の性質を正確に知ることは物質科学の基本である。BやSiのように我々の身の回りにありふれている元素の性質はすでに調べつくされていると思うかもしれないが,実際はそうではない。液体Siが金属であることは知られていたが,結合状態の詳細は未解明であった。液体Bについては金属であるかどうかも分かっていなかった。本稿では最近明らかになった液体Bと液体Siの性質について解説する。