最近の新聞では連日,カーボンニュートラル,グリーンイノベーションなどといった単語が多く喧伝されている。パリ協定を基に,我が国として2050年に向けて温暖化ガス排出実質ゼロを目指す上で,非常に重要なことでもある。どういった背景でこのような状況になったのか,なぜカーボンニュートラルを目指さなくてはいけないのか,そのための技術動向はどうなっているのかについて,本稿で俯瞰したい。
持続可能な社会に向けて地球温暖化の原因物質の1つである二酸化炭素をペットボトルの原料となるパラキシレン(PX)に変換する触媒について紹介する。筆者らは二酸化炭素からPXを合成する際に6段階の触媒反応が必要であった従来の方法を改善し,この触媒反応を1段階とする新規ハイブリッド触媒を開発した。その中で,初めに反応性の高い合成ガスからPXを合成する方法について考察し,その後,二酸化炭素の水素化によるPX直接合成を成功させた。そのため本稿では,合成ガスからPX合成について解説した後に二酸化炭素の水素化によるPX直接合成を解説する。
気候変動による危機を乗り越えるためのネットゼロ社会に移行するためには,エネルギーの脱化石燃料化に加え,CO2を炭素源として捉えて有価物として活用するカーボンリサイクルの導入が不可欠である。CO2を水素で還元することで,従来は化石資源を原料としている様々な炭化水素類を合成することが可能である。IHIではカーボンリサイクルに向けたソリューションを提供するために,メタネーションによるCO2の燃料化および化学原料として低級オレフィン合成技術の開発に取り組んでいる。カーボンリサイクルの原理,特徴,課題について解説するとともに,IHIにて進めている技術開発および実用化に向けた取り組みを紹介する。
二酸化炭素は多くの環境問題を引き起こす要因である一方,地球上に普遍的に存在する再生可能な資源でもある。もし二酸化炭素から有用なエネルギー・資源・材料を生み出すことができれば,持続的社会の発展の鍵となる。しかし,二酸化炭素は安定な分子であり,別の物質へと変換することは容易ではない。本稿では,多孔性材料の一つである金属—有機構造体をCO2から常温・常圧という温和な条件で簡便に合成する手法を紹介する。重量比で3分の1が二酸化炭素から構成されているにかかわらず,多孔性材料として優れた特性を示し,今後の二酸化炭素の有効活用法の一つとして期待される。
高分子の使用量が増えるにつれ,環境中に廃棄物が流出して生成したマイクロプラスチック(MP)が社会的な問題になっている。本稿ではMP生成の背景にある高分子の化学,海洋で採取されたMPを中心にその特性解析,その結果に基づくMP生成のモデル実験について解説する。
再生が可能な生物有機資源を原料に社会的に有用なプラスチックを持続的に作ることにより枯渇性の化石資源の使用縮減に貢献するバイオマスプラスチックと,微生物により分解するという機能の特長から主に廃棄時の環境負荷低減が期待される生分解性プラスチックは総称してバイオプラスチックと呼ばれている。それぞれの特性を正確に理解して利用されることによってはじめて,環境にやさしいプラスチックとして活かされるバイオプラスチックの現状と普及に向けた課題について紹介する。
現在,地球温暖化や海洋プラスチック問題により生分解性プラスチックが話題になっている。身の回りで多く用いられるようになったポリ乳酸は,生分解性を持つ材料であり,身の回りにある植物から作られるカーボンニュートラルな材料として需要が急速に伸びている。本稿では,ポリ乳酸とはどんな材料なのか基礎的な内容に焦点を当てて紹介する。
新たな時代を価値創造するアントレプレナー教育が注目されている。大学レベルでは,学生や教員・社会人に対する起業マインドの醸成教育が数年前から盛んに行われるようになり,最近では小中高校生等の低学年層まで受講者層の裾野拡大が望まれている。今後どのようなアントレプレナー教育が面白く学生達を惹きつけ,彼らの成長に繋がり,未来を切り拓く人材の育成につながるのか,筆者らの現場を含めた内外の様子を紹介する。
起業においては,解決したい社会課題とパーパス,そして社会実装のための戦略や思考が重要になる。筆者は食料問題や環境問題を解決する手段として,微細藻類の一種であるユーグレナ(和名 ミドリムシ)の産業利用を目的に株式会社ユーグレナの設立に携わり,以来研究開発の先陣をきってきた。その経験に基づき,筆者の考え方を紹介する。